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映画鑑賞ノート26 (2017.3.31作成)

c0077412_10124250.jpg2017年1月~3月に見た映画とドラマの記録
1(~2)行目:鑑賞した月/日 タイトル(原題)制作年・制作国 監督
(2or3)行目以下:キャスト、一言メモ
☆画像は刑事ジョーに出てくるヴォージュ広場。

1/2 宿命の大統領(Survivor)米の連続ドラマ
   キーファー・サザーランド、マギー・Q、カル・ペン
   これからどうなるかというところで途切れてしまった(!?)
1/15 サイダーハウス・ルール(The Cider House Rules)1999米
   ラッセル・ハルストレム
   トビー・マグワイア、シャーリーズ・セロン、マイケル・ケイン
   孤児院生まれのホーマーの成長物語。医師業のルールもサイダー
   ハウスと同様に当事者が決めるべき、というメッセージ。
1/19 パーマネント野ばら 2010日本 吉田大八
   菅野美穂、江口洋介、小池栄子、池脇千鶴、夏木マリ
   愛し愛されていると思い込むことで寂しさを押さえ込んでいる
   ヒロインをトンデモ女たちが支えている。感動的秀作。
1/20 The Greatest 2009米 シャナ・フェステ
   ピアーズ・ブロスナン、S・サランドン、キャリー・マリガン
   息子を事故で失って崩壊しかけた家族が、息子の恋人を受け入れ
   て再生していく。
1/22 刑事ジョー(Jo)2013 仏・英の連続ドラマ
   ジャン・レノ、ジル・ヘネシー、トム・オースティン
   各回の事件現場はヴォージュ広場、ロダン美術館などの名所。
1/25 オデッサ・ファイル(The Odessa File)1974英独 
   ロナルド・ニーム
   ジョン・ボイド、マクシミリアン・シェル
   フォーサイス原作。主人公が元ナチの将校を追い詰めていくのは
   ユダヤ人の怨念を晴らすためだと思っていたのに……。
1/27 オチョ・アペリードス・カタラネス(Ocho apellidos)2015
   マルティネス・ラサロ
   ダニ・ロビラ、クララ・ラゴ、カラ・エレハルデ
   タイトルは「カタルニア語の八つの姓」の意。互いにいがみあっ
   ている地方の男女による結婚をめぐるドタバタ喜劇。
2/15 失踪(The Vanishing)1993米 ジョルジュ・シュルイツァー
   ジェフ・ブリッジス、K・サザーランド、N・トラヴィス
   「妄想は究極の凶器」を副題とするサイコサスペンス。
2/25 パリ3区の遺産相続人 2014 BBC・仏・米 
   イスラエル・ホロビッツ
   ケヴィン・クライン、マギースミス、クリスティン・トーマス
   味わいのある作品。キャストに犬のフェルナンドの名も。
2/26 Extremely Loud and Incredibly Close 2012米 S・ダルドリー
   トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、M・F・シドー
   「ものすごく辛くてあり得ないほど優しい」作品。少年の家族も少
   年が訪ね歩いた人々も現実にはあり得ないほど温かく優しい。
2/27 悲しみを乗り越えて(Lift Me Up)2015米 マーク・カルティエ
   トッド・カフーン、S・フランゲンバーグ、シェーン・ハーパー
   母を亡くした女子高生と、妻を亡くした義理の父が本物の親子に
   なるまで。
3/1 天国の日々 1978米 テレンス・マリック
   リチャード・ギア、ブルック・アダムス、サム・シェパード
   貧しい季節労働者と恋人が青年農場主にしかけた偽りの愛の
   顛末。大自然の描写がとにかく美しい。
3/7 オリエント急行殺人事件 1974英 シドニー・ルメット
   アルバート・フィニー、ローレン・バコール、バーグマン
   パーキンスなどのスターが勢揃いする豪華な娯楽作品。
3/11 向かい風(Des Vents Contraires)2011仏 ジャリル・レスペール
   オドレイ・トトゥ、ブノワ・マジメル、イザベル・カレ
   誰かになにかを言うときはそれが最後の言葉になるかも知れな
   いので、感情をコントロールして慎重に言わないと。
3/12 ミッション・インポッシブル④ 2011米 ブラッド・バード
   トム・クルーズ、ポーラ・パットン、サイモン・ペグ
   あり得ないシーンの連続で笑ってしまうが、ブルジュ・ハリファ
   の外壁を登るシーンはスタントなしだったと知ってちょっと感動。
3/14 テレマークの要塞(The Heroes of Telemark)1965英米
   アンソニー・マン
   カーク・ダグラス、リチャード・ハリス、ウーラ・ヤコブソン
   ナチスによる原爆制作を阻止したノルウェーのレジスタンスを
   史実に基づいて描いた作品。ハリスは昔はこんな顔だったのね。
3/16 ボディ・スナッチャー(Invasion of the Body Snatchers)1956
   米 ドン・シーゲル
   ケビン・マッカーシー、ダナ・ウインター、サム・ペキンパー
   侵略FSの古典(原作J・フィニー)で見応えがある。このあと
   何度もリメイクされているだけのことはある。
3/19 8月の家族たち(Last Mile Home)2013米 ジョン・ウェルズ
   メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、アビゲイル
   「家族は遺伝子で繋がるだけの無作為に選ばれた細胞」に納得。
3/23 二人のトマ旅に出る(Le Voyage au Groenland)S・ベベデル
   トマ・ブランジャール、トマ・シメカ、フランソワ・シャト
   フランス人のふたりがイヌイットの村を訪ねる。人々は伝統の
   狩猟文化を守りながらインターネットも使いこなしていた。
3/23 Best Friend’s Wedding 1997米 P・J・ホーガン
   ジュリア・ロバーツ、D・マローニー、キャメロン・ディアス
   ストーリーはばかばかしいが、女優陣が若くて美しいので許せる。
3/28 マラソンマン(Marathon Man)1976米 J・シュレジンジャー
   ダスティン・ホフマン、ローレンス・オリヴィエ
   スポコン映画ではない。オリヴィエは若い頃より柔らかくなった
   感じがするが、眼にすごみがある。
3/28 グレース&フランキー(Grace & Frankie)③米のテレビドラマ
   ジェーン・フォンダ、リリー・トムリン、マーティン・シーン
   内容はイマイチだが、インテリアやファッションは魅力的。
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by nishinayuu | 2017-04-22 10:14 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(1)

『The Lady in the Van』(Alan Bennett)


c0077412_15474535.jpg『ヴァンのレディ』(アラン・ベネット、2015)
著者は1934年生まれのイギリスの劇作家、小説家、シナリオライター。エリザベス女王が移動図書館の熱心な利用者になるという楽しい小説『The Uncommon Reader』(『やんごとなき読者』というタイトルの邦訳あり)で知られる。


本書は著者自身が語り手となって展開するドキュメンタリー作品で、エキセントリックなホームレス女性との関わりが事細かく記されている。著者は女子修道院の前で初めてこの女性を見かけたが、そのとき彼女は60歳くらいだった。次に見かけたのはパンダ・カー(パトカー)が著者の車を追い越して彼女のヴァンに近づいていったときで、著者がヴァンを追い越すと彼女はヴァンの外に出て著者に向かって怒鳴った。道行く人は著者が彼女に何か悪いことをしたと思ったに違いない。そして1年ほどあとの60年代末頃に、彼女のヴァンが著者の住むグロスター・クレセント(ロンドン北部のカムデン地区)に現れる。ただしこのとき著者はまだ、その後この女性と同じ敷地内で毎日顔を合わせる関係が15年も続くことになろうとは思ってもみなかった。
本書で仮にミス・シェパードと呼ばれているこの女性は、大柄で偉そうな雰囲気の女性だった。はじめのうち少し離れたところに路上駐車していたヴァンはいつの間にか著者の家の外に置かれるようになる。すると誰かがヴァンを叩いたり、揺らしたり、明かりで照らしたり、といったいたずらをする度に著者が出ていって注意して追い払ったりすることになった。そのうちついにヴァンの窓が割られて彼女が顔にけがをするという事件が起きたため、著者はついにヴァンを自分の敷地内に駐車させることした。すると彼女は渋々と云った感じで著者の提案を受け入れる。その後著者は彼女に安全な場所を提供し続けたが、自分ではチャリティという意識はなかったし、むしろ、そんなはめになったことに腹を立てていたという。著者は言う。「ただ私は静かに暮らしたかったし、彼女もたぶんそうだったのだ」。
しかし、静かに暮らすということからはほど遠い15年だった。家の前の路上には彼女がヴァンを黄色に塗り替えたときのペンキのしみがくっきりと残っているし、ヴァンのボンネットが玄関の石段にぴったりくっついているので出入りしにくいことこの上ないし、ヴァンの後ろ扉が開いていればヴァンの中のごたごたしたものを見るはめになるし、横をすり抜けて玄関にたどり着くまでに彼女からじろじろと検分される。さらに彼女はときどき突飛なこと――様々なパフォーマンスの構想、選挙への立候補などなど――を思いついて著者を煩わせる。身体は頑丈で態度は横柄、言動は常軌を逸していて、とにかく不潔。こんな恐るべき人物と15年もつきあった著者の忍耐力は驚異的というしかない。が、こうして一冊の本が仕上がり、しかもそれが映画化されたり舞台で上演されたり、なると著者の長年の忍耐は充分報われたと考えることもできる。
さて、その映画は『ミス・シェパードをお手本に』というタイトルで2016年12月に公開されている。監督はニコラス・ハイトナー、主演男優はアレックス・ジェニングス、主演女優はマギー・スミス(ハリーポッターのマクゴナガル先生、ダウントン・アビーのバイオレット)である。なお、舞台作品のタイトルは『ポンコツ車のレディ』だそうだ。(2016.12.14読了)
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by nishinayuu | 2017-02-17 15:48 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

映画鑑賞ノート25 (2017.1.5作成)

c0077412_9572635.jpg2016年10月~12月に見た映画とドラマの記録
1(~2)行目:鑑賞した月/日 タイトル(原題)制作年・制作国 監督 
(2or3)行目以下:キャスト、一言メモ
☆画像は「赤い靴」

10/3 ある愛へと続く旅(Venuto al Mondo)2012 伊・西
   セルジオ・カステリット
   ペネロペ・クルス、エミール・ハーシュ、A・ハスコビッチ
   男たちの人間性が心に残る深くて美しい作品。
10/6 Burn Burn Burn 英 チャーニャ・バトン
   ローラ・カーマイケル、クロエ・ピリー、J・ファージング
   二人の女が死んだ男の遺灰を撒く旅に出る。Downton Abbey
   のいじけた次女(カーマイケル)が頑張っている。
10/8 レッスン(Take the Lead)2006米 リズ・フリードランダー
   アントニオ・バンデラス、ヤヤ・ダコスタ、ジェナ・ディーワン
   若いときは暑苦しかったバンデラスがいい感じに渋くなった。
10/13 夢と希望のベルリン生活 2015西 ナチョ・ベリーリャ
   ヨン・ゴンサレス、フリアン・ロペス、ブランカ・スアレス
   あこがれのベルリンへやって来た若者がボロボロの生活に転落。
   と思いきや見事に立ち直る。立ち直れたのはベルリンだから?
   それともスペイン人だから?
10/15 女たちとの会話(Conversations with Other Women)2005米
   ハンス・カノーザ
   アーロン・エッカート、ヘレナ・ボナム=カータ、E・アイデム
   最初から最後まで左右2分割画面にした意図は?効果は?
10/19 食客(식객)2007韓 チョン・ユンス
   キム・ガンウ、イム・ウォニ、イ・ハナ、アン・ギルガン
   若き天才料理人とそのライバルが料理対決をする。原作は漫画。
10/22 あなたを抱きしめるまで2013英 スティーヴン・クリアーズ
   ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、Bジェフォード
   原作はノンフィクション『The Lost Child of Philomena』
   修道院で産んだ子と引き裂かれた女性の息子を求める長い旅。
11/1 ブラッド・ワーク 2002米 クリント・イーストウッド
   クリント・イーストウッド
   犯人(サイコでした)との対決場面は例の「崖の外れ」。しかも
   応援は呼んでいない。原作はマイクル・コナリーのベストセラー。
11/18 猫の恩返し 2002日本(スタジオジブリ) 森田宏幸
   主人公が全くかわいくないのに何か意味が?と思ったが、ただ
   かわいくないだけだったのでした。
11/20 水曜日のエミリア 2009米 ドン・ルース
   ナタリー・ポートマン、スコット・コーエン、リサ・クドロー、
   美男美女の共演。因みにポートマンはハーバード卒の高学歴女優。
   コーエンはギルモア・ガールズで進学校の教師役(だからなに?)
11/22 忘れた恋の始め方 2009米 ブランドン・キャンプ
   アーロン・エッカート、Jアニストン、マーティン・シーン
   シーンと白いオウムはよかったけれど、話はイマイチでした。
11/24 ブルックリン(Brooklyn)2015愛英加 ジョン・クローリー
   シャーシャ・ローナン、エモリー・コーエン、Dグリーソン
   アイルランドからアメリカに渡った若い女性。明るい前途が見え
   始めたとき、急遽帰国することになって…。原作はこちら
11/24 キャロル(Carol)2015米 トッド・ヘインズ
   ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラー、サラ・ポールソン
   原作はパトリシア・ハイスミスの同名小説。ブランシェットの声
   の低さと体格の良さにびっくり。マーラはヘプバーンの再来。
11/26 団地 2015日本 阪本順治
   藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工
   ファンタジーは嫌いじゃないけれど、この作品は前半と後半の
   トーンが違いすぎ。団地の人間喜劇に徹した方がよかったのでは?
11/26 ギルモア・ガールズ(A Year in Life)
   中年のローレライと薹がたったローリーだけれど、それでも
   やっぱり健気なガールズのふたりが愛しい。
11/29 深夜食堂 日本 山下淳弘
   (タンメン、アメリカンドッグ、トンテキの3作だけ見ました。)
   小林薫、佐藤B作、新井浩文、不破万作、小林麻子
12/9 言の葉の庭 日本 新海誠
   詞と曲=大江千里(チサトではなくセンリのほうですね)
   引用歌=雷神(ナルカミ)のすこし動(トヨ)みてさし曇り雨も
   零(フ)らぬか君を留めむ/雷神の少し動みて零らずとも吾は
   留らむ妹し留めば
12/22 赤い靴 1948英 マイケル・パウエル、Eプレスバーガー
   モイラ・シアラー、Aウォルブルック、レオニード。マシン
   レルモントフはディアギレフがモデルとか。バレエが圧巻。
   色彩も光と影の扱いも素晴らしい。ただし音楽は印象が希薄。
   シアラーの腿が昔見たときよりむちむちしているように見える。
12/24 Blue Jay 2016米 アレクサンドル・レーマン
   マーク・デュプラス、サラ・ポールソン
   白黒映画。若き日の恋人との再会によって蘇った愛と苦しみ。
   やや冗漫だが、後味は悪くない。
12/28 第三の男 1949英 キャロル・リード
   ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ
   脚本=グレアム・グリーン。音楽=アントン・カラス
   四分割統治下のウイーンを舞台にしたフィルム・ノワール。
   見所いっぱいの作品で、何度見ても引き込まれる。
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by nishinayuu | 2017-02-01 10:04 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(1)

『ホフマン物語』(E.T.A.ホフマン、訳=松居友、立風書房)


c0077412_10295099.jpg『Tales of Hoffmann』(Hoffmann, 1815)
原書はロンドンのGeorge G. Harrap & Co.Ltdから「Books Beautiful」の一冊として1932年に発行されたもの。マリオ・ラボチェッタ(Mario Laboccetta)による幻想的なイラストレーションが展開する美本だという。

本書もイラストレーションがメインで物語は添え物といった感じの「絵本」である。前半は「まえがきにかえて」と題され、1ページもしくは見開きの2ページをイラストレーションが占め、それらの隙間に物語が添えられている。ここに展開する物語には『世襲権』(1817)、『砂男』(コッペリアの原作、1817)、『荒びれた家』(1817)、『運命の糸』などのタイトルが付けられているが、ホフマン作品をそのまま翻訳したものではなく、全体で一つの、ホフマンの文学と生涯を紹介する物語になっている。
後半は『ジルベスターの夜の出来事』というまとまった一つの物で、主人公は鏡に映る自分の姿を悪魔に売ってしまうエラスムスという男。これは作者が友人であるシャミッソーの『ペーター・シュレミールの不思議な物語』(自分の影を悪魔に売った男の話)に刺激を受けて書いたものだという。

『ホフマン物語』は子供の頃に映画(1952年制作)を見たことがある。オッフェンバック作曲のオペラをほぼ忠実に映画化した作品だそうで、美しい音楽と妖しい雰囲気の映像の断片が記憶に残っている。『赤い靴』と同じくモイラ・シェアラーが出演しているが、その辺のことは全く覚えていないので、いつか機会があったらまた見てみたい。(2016.10.21読了)
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by nishinayuu | 2016-12-11 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『あなたを選んでくれるもの』(ミランダ・ジュライ、訳=岸本佐知子、新潮クレストブックス)


c0077412_93257.jpg『It Chooses You』(Miranda July, 2011)
本書は映画制作に行き詰まっていた著者がカメラマンやアシスタントとともにロサンジェルスのあちこちに住む人々を訪ね歩いてまとめたインタビュー集であると同時に、彼らとの出会いを通して新しい展開をみせることになった映画が完成するまでを描いたドキュメンタリーである。収録されている迫力のある写真は、インタビューに同行したカメラマンで本文にも実名で登場しているブリジット・サイアー(Brigitte Sire)によって撮影されたもの。
インタビューをはじめたきっかけは、脚本を書きあぐねてネットの世界へ逃避するのが日常になっていた語り手(著者)が、ネットの呪縛から逃れるために手に取った「ペニーセイバー」という雑誌だった。毎週火曜日に届く「ペニーセイバー」は自分の持ちものを売りたい人々と買いたい人々のための広告雑誌で、「どの広告もうんと短い新聞記事のようだった」。たとえば
LA在住の某さん、ジャケットを売りに出す。革製。黒のLサイズ。10ドル。
この売り手がどんなふうに日々を過ごしているのか、なにを夢見、なにを恐れているのかを知りたいと思った著者は、売り手に電話をかけた。この手の広告では、売りに出ている商品について訊ねる以外の目的では電話をしないのが暗黙のルールだが、ここは自由の国だというもう一つのルールがあったし、語り手はどうしてもその自由を味わいたいと思った。これを逃したら、今日一日自由を感じるチャンスは二度とないかも知れないのだ。
黒革ジャケットの売り手を手始めに、語り手は「ペニーセイバー」の広告主たちへのインタビューにのめり込んでいく。「マイケル/Lサイズの黒革ジャケット/10ドル/ハリウッド在住」「プリミラ/インドの衣裳/各5ドル/アーケーディア在住」「ポーリーンとレイモンド/大きなスーツケース/20ドル/グレンデール在住」「アンドルー/ウシガエルのオタマジャクシ/1匹2ドル50セント/パラマウント在住」「ベバリー/レパード・キャット(ベンガルヤマネコ)の仔/値段 応相談/ヴィスタ在住」「パム/写真アルバム/1冊10ドル/レイクウッド在住」「ロン/67色のカラーペン・セット/65ドル/ウッドランド・ヒルズ」「マチルダとドミンゴ/〈ケア・ベア〉人形/2取る~4ドル/ベル在住」「ダイナ/コンエア社のドライヤー/5ドル/サン・バレー在住」「ジョー/クリスマスカードの表紙部分のみ50枚/1ドル/ロサンジェルス在住」
多くは貧しいか寂しい人たちだった。そしてほとんどがパソコンとは無縁の人たちだった。それぞれ個性的な人たちで、マイケルは性転換を目指して努力中の男性、ダイナは年齢不詳なだけでなく、込み入っていて奥深くて摩訶不思議な女性で、ロンは「誰もがこういう人物のアパートに入るはめにだけは陥るまいと心がけて一生を送るようなタイプの」コワイ人だった。そしてクリスマスカードのジョーの存在感も強烈だったが、それはロンとは全然違う強烈さだった。彼はまるで強迫観念にとりつかれた天使のように、がむしゃらに善をなそうとしていた。このジョーとの出会いが語り手の映画作りに大きな変化をもたらすことになる。
こうして完成した映画『ザ・フューチャー』は2011年7月にアメリカで公開され、2013年には日本でも公開されたという。(2016.8.28読了)
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by nishinayuu | 2016-11-05 09:32 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

映画鑑賞ノート24 (2016.10.1作成)


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2016年7月~9月に見た映画とドラマの記録
1(~2)行目:鑑賞した月/日 タイトル(原題)制作年・制作国 監督 
(2or3)行目以下:キャスト、一言メモ
☆画像は「ギルモア・ガールズ」です。


7/4 思いやりのすすめ(The Fundamentals of Caring)
   2016米 ロブ・バーネット
   ポール・ラッド、クレイグ・ロバーツ、セレーナ・ゴスメ
   邦題も原題も印象に残らない。(つまり中身も忘れました。)
7/6 ギルモア・ガールズ(Gilmore Girls)2000米
   ローレン・グレアム、アレクシス・ブレデル、Mマッカーシー
   スコット・パターソン、ヤニック・トゥルーズデル
   シーズンⅠ~Ⅶまでのドラマ。はちゃめちゃで愉快。
7/27 おしゃれ泥棒 1966米 ウイリアム・ワイラー
   ヘプバーン、ピーター・オトゥール、シャルル・ボネ
   オトゥールがこんなにきれいな青い目だったとは。
7/30 Meet the Family3 2010米 ポール・ワイツ
   デニーロ、ベン・スティラー、オーウェン・ウイルソン
   双子の男の子と女の子、どっちもかわいくな~い。
8/1 夏の庭 1994 1994日本 相米慎二
   三國連太郎、淡島千景、坂田直樹
   死ぬのを見たくておじいさんの家にせっせと通う少年たち。
8/7 ウィークエンドはパリで 2013英 ロジャー・ミッシェル
   ジム・ブロードベント、リンゼイ・ダンカン
   結婚30年の夫婦が新婚旅行で行ったパリを再訪すると――。
8/10 マダム・イン・ニューヨーク(English Vinglish)2012印
   ガウリ・シンデー
   シュリデヴィ、プリア・アーナンド、メーディ・ネブー
   美しいヒロインが姪やクラスメートに力づけられて成長していく。
   大切なのはlove & respectというメッセージに共感。
8/16 ダブリンの時計職人(Parked)2010愛・芬蘭 ダラ・バーン
   コルム・ミーニイ、コリン・モーガン、ミルカ・アフロス
   おじさんを救った青年には救いの手は届かなかった。音楽が雄弁。
9/9 双子物語(Twin sisters)2015米 サマンサ・フターマン
   サマンサ・フターマン、アイナス・ボルディア
   26年前に韓国から別々の国に養子に出された双子の姉妹がSNSを
   介して巡り会う。ドキュメンタリー。
9/27 Midnight in Paris 2011米 ウディ・アレン
   オーウェン・ウイルソン、Mコティヤール、キャシー・ベイツ
   夜中にある街角でタクシーを降りると、そこは過去のパリだった。
   ロートレックとダリが本物そっくり!
9/30 Hector 2015 英 ジェイク・ギャビン
   ジーナ・マッキー、Sトンプキング、ユアン・スチュアート
   ロンドンの路上生活者用シェルターの女性係員が素晴らしすぎる。
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by nishinayuu | 2016-10-24 13:21 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(0)

映画鑑賞ノート23 (2016.7.1作成)

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      2016年上半期に見た映画とドラマの記録

   1行目:鑑賞した月/日 タイトル(原題)

    制作年・制作国 監督 

   2行目:キャスト 3行目:一言メモ

   画像は「サン・ロレンツォの夜」



1/8暴走特急(Under Siege21995米 ジェフ・マーフィー

   S・セガール、E・ボゴシアン、エヴェレット・マッギル

   列車を追う段になるや辺鄙な山道に車が待っている!

1/11鑑定士と顔のない依頼人(The Best Offer2013

   J・トルナトーレ

   J・ラッシュ、D・サザーランド、J・スタージェス 

   老鑑定士の夢のようなロマンスのはずが恋の鑑定は専門外。

1/12 310分、決断のとき(3:10toYuma2007

   J・マンゴールド

   クリスチャン・ベイル、ラッセル・クロウ、P・フォンダ

   家族のために闘う男に悪党が惚れてまさかの展開に。

1/18グロリア(Gloria1999米 シドニー・ルメット

   C・ストーン、ジーンルーク・フィゲロア、J・ノーザム

   カサヴェテス作(80)のリメイク。展開も結末も穏やか。

1/19アンノウン 2011米・独ジャウム・コレット=セラ

   リーアム・ニーソン、D・クルーガー、ブルーノ・ガンツ

   存在を否定された男が真相究明に奔走したら予想外の事が。

1/23Always3丁目の夕日 2005日本 山崎貴

   堀北真希、堤真一、吉岡秀隆、薬師丸ひろ子、小雪

   同じ熱演でも堤は鷹揚に吉岡はいっぱいいっぱいに見える。

1/31ナタリー 2011仏 D&Sフェンキノス

   オドレイ・トトゥ、F・ダミアン、ブリュノ・トデスキー

   パリの不思議ちゃんは渋い二枚目より究極のダサ男を選ぶ。

2/8マイレージ・マイライフ 2009米 J・ライトマン

   J・クルーニー、V・ファーミガ、A・ケンドリック

   空港の荷物検査はアジア人の列が早く進むってホント?

2/9奇跡のシンフォニー(August Rush2007

   C・シェリダン

   フレディ・ハイモア、K・ラッセル、J・マイヤーズ

   エルガーのチェロ協奏曲をはじめ名曲がいっぱい。

   「青い目」の役者は生い立ちも実生活もかなり複雑らしい。

2/17クライム・ダウン 2011英 ジュリアン・ギルビー

   M・ジョーシ、E・スペリアース、イーモン・ウォーカー

   セルビアの少女を保護したせいで危険に晒される登山家達。

3月 情熱のシーラ(El tiempo entre costuras2013西

   アドリアーナ・ウガルテ、E・ミンゲス、P・ビベス

   母子家庭で育ったシーラがスペイン内戦~第二次大戦への

   混乱の時代を美貌と才覚を武器に生きていく物語。

4月 ドクター・マーティン(Doc .Martin)英のテレビドラマ

マーティン・クルーンズ、K・キャッツ、J・アブソロム

ロンドンで鳴らした名外科医がなぜか田舎町の医者に。

   気難しい医者がやっかいな病人・けが人あいてに奮闘する。

4/20A Beautiful Mind 2001米 ロン・ハワード

   ラッセル・クロウ,ジェニファー・コネリー,C・プラマー

   実在の天才数学者ナッシュの半生を描いた重厚な作品。

   幻覚として現れるハリスより精神科医のプラマーがコワイ。

5/10父を探す旅(Second Best1995米 クリス・メンゲス

   キース・アレン、ウィリアム・ハート、CC・マイルス

   不幸な生い立ちの郵便局員が不幸な少年に手をさしのべて。

5/27サン・ロレンツォの夜(La Notte di San Lorenzo

   1982伊 タヴィアーニ兄弟

オメロ・アントヌッティ、マルガリータ・ロサーノ、村人達

舞台はトスカーナ。人々は村を捨て連合軍を求めて歩く。

5/28ジャック・サマーズビー(Sommersby1993

   J・アミエル

   リチャード・ギア、ジョディー・フォスター、B・プルマン

   仏映画のリメイク。フォスターの知的な美しさが光る。

5/28パガニーニ,愛と狂気のヴァイオリニスト 2013B.ローズ

   デイヴィッド・ギャレット、J・ハリス、A・デック

ストラディバリウスの奏でる名曲が楽しめる音楽映画。

   ただしギャレットはパガニーニにしてはぎらぎらしすぎ。

5月 グレース&フランキー(Grace & Frankie)米のTVドラマ

   ジェーン・フォンダ,リリー・トムリン,マーティン・シーン

   「老いても」やはりフォンダは魅力的でシーンはいい感じ。

6/1突破口 1973

   W・マッソウ、JD・ベイカー、ジョン・ヴァーノン

   不細工な中年男、実は女性に優しく頭の切れる男でした。

6/2TheAge of Innocence 1993米 マーティン・スコセッシ

   ダニエル・ルイス、M・ファイファー、ウィノナ・ライダー

   雰囲気は原作そのまま。なぜかファイファーがはすっぱ風。

6/3センチメンタル・アドヴェンチャー(Honkytonk Man

   クリント・イーストウッド 1982

   クリント・イーストウッド、カイル・イーストウッド

   イーストウッドの半自伝作品。Honkytonkはハグレモノ、

   調子ッパズレなどの意とか。最後に短く流れる旋律が

財津和夫の「会いたい」にそっくりなのはなぜ?

6/8寒い国から帰ったスパイ 1965米 マーティン・リット

   R・バートン、クレア・ブルーム、オスカー・ウエルナー

白黒画面がスパイ家業の哀愁にぴったり。原作ル・カレ。

6/26綴り字のシーズン(Bee Season2005米・独 

   S.マクギー他

   ジュリエット・ビノシュ、R・ギア、フルーラ・クロス

   家族の再生の物語。独りよがりの父親をギアが好演。

6/29メイジーの瞳 2014米 S・マクギー、D・シーゲル

   J・ムーア、A.スカルスガルド、オナタ・アブリール

   身勝手な両親に振り回されながらも着実に成長する少女。

6/30ニューヨークの巴里夫(Chinese Puzzle2013仏 

   S.クラピッシュ

   ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、ケリー・ライリー

   ハチャメチャで愉快。誰も不幸にならず都合よく収まる。


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by nishinayuu | 2016-08-25 11:26 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(1)

『優雅なハリネズミ』(ミュリエル・バルベリ、訳=河村真紀子、早川書房)


c0077412_9584623.jpg『L’élégance du Hérisson』(Muriel Barbery,2006)
本書は『至福の味』(早川書房、2000年)の作者による二作目の作品である。
作品の舞台は前作と同じくパリ15区にある高級住宅街グルネル通り7番地のアパルトマン。調べてみたところ現在ここにあるアパルトマンは5階のようだが、本作では7階まであって、3階と4階はそれぞれ2家族が住み、他の階は1家族でワン・フロアーを占めている。1階の住人は前作と同じく管理人のルネ・ミシェル。ほかにも前作の主人公だった料理批評家のピエール・アルサンをはじめとして、アパルトマンの複数の住人たちが本作にも顔を出している。
一方、新しい住人も登場する。それがなんと日本人で、名前はオヅ・カクロウ。小津安二郎の遠い親戚という設定のこの人物、渋くて素敵な初老の男性である。そしてこのオヅ氏はルネを一目見るなり、ルネが住民たちにはひた隠しにしてきた知性と感性を見抜く。27年の間グルネル通り7番地の管理人をしているルネは、貧しい農家の出で学歴もない54歳の未亡人。背が低くて醜く、地味で凡庸で、無精で無愛想で気難しく、のらりくらりとした巨大な猫を飼っている。すなわち管理人たる者はどうあるべきかという人々の思い込みに順応しているのだが、実は内に秘めた知性と感性を見破られないように棘の砦で身を守る「優雅なハリネズミ」だったのだ。
もう一人の主要人物は6階に住むジョセ家の次女で12歳のパロマ。家は裕福で父も母も高学歴、高等師範学校で哲学を学んでいる姉のコロンブも一般的に見れば秀才であるが、パロマから見ればみんな凡庸な人物である。ずば抜けた秀才であると自認するパロマは、自分が人生で成功することはもう決められているわけで、そんな人生を生きていくことに絶えられないから13歳になる日に自殺する、と決めている。
物語はルネの語りを基調に、パロマの2種類の日記「私は想う」と「世界は回る」が差し込まれる形で進行していく。オヅ氏の登場によって、それまで自分を隠して生きてきたルネは初めて本来の自分らしい生き方に目覚め、人生に絶望していたパロマもまた生きる意味を見いだしていく。

作者の専攻(哲学)と日本びいきのせいで、ときどきかなりの蘊蓄が入るが、全体としては適度に知的で楽しい読み物になっている。ルネとオヅ氏が互いの好みの一致に気づいたきっかけがトルストイの「アンナ・カレーニナ」だったり、ルネのハリネズミぶりがばれたきっかけがオヅ家のトイレに流れる曲がモーツアルトの「レクイエム」だったり、さらにフェルメールをはじめとするオランダ絵画が好きという共通点もある。というわけで、作中に言及されている文学や音楽、そして絵画作品は挙げれば際限が無いので、映画にしぼってメモしておくことにする。
「お茶漬けの味」「風と共に去りぬ」「ブレードランナー」「レッド・オクトーバー」「ターミネーター」「ノッティングヒルの恋人」「東京画」「宗方姉妹」「スタートレック」「ブラック・レイン」
(2016.6.16読了)
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by nishinayuu | 2016-08-21 09:59 | 読書ノート | Trackback(1) | Comments(1)

『新訳フィガロの結婚』(ボーマルシェ、訳・解説=鈴木康司、大修館)

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『La Folle journée ou Le Mariage de Figaro』(Beaumarchais)
本書は2部構成になっており、第1部には〈「新訳」『てんやわんやの一日あるいはフィガロの結婚』〉と題されたボーマルシェの戯曲、第2部には〈ボーマルシェの『フィガロ三部作』について〉と題された解説が収録されている。

第1部の冒頭の〈登場人物の性格と衣装〉には当時の社会環境、演じる役者の適性、心構え、過去にその役を演じた俳優などへの言及もあって興味深い。いくつか例を挙げると
*アルマビーバ伯爵――いかにも貴族然とではあるが、優雅にそして自由闊達に演じられなければならない。心の腐敗は彼の上品なふるまいからは全く感じられない。この当時の風習から見れば、大貴族たちは戯れに女性たちを口説くのが当たり前であった。この役はいつも脇役になるだけに一層きちんと演じるのが困難である。だが、モレ氏のように優れた役者が演じてくれたので、他のすべての役柄が見事に際立ち、作品の成功が確実になった。
*フィガロ――この役を演じるには、ちょうどダザンクール氏が演じたように、役柄の精神を徹底してつかみ切るように願ってしかるべきである。もしも俳優がこの役に陽気さと才気を巧みに交えた理性以外のもの、特にほんの少しでも重々しさを加えてしまえばこの役を台無しにしてしまうだろう。
*シュザンヌ――利発で才気にあふれ、よく笑う若い娘だが、人々を堕落させる例の小間使いたちが示す、ほとんど恥知らずな陽気さとは違う。
*シェリバン――(前略)伯爵夫人の前では借りてきた猫のようにおとなしいが、他ではチャーミングないたずらっ子。(中略)思春期に差しかかっているが、何をしたいのかもわからず、知識もない。何か事が起これば全身でそれに向かう。要するに、どんな母親でもおそらく心の底では、いかに苦労させられても自分の息子がそうあってほしいと思うような存在である。

伯爵の項のモレ氏(1734~1802)とフィガロの項のダザンクール氏(1747~1809)はともにコメディ=フランセーズの俳優で、前者は貴族の父親役、後者は下僕役を得意とした、という注が解説者によってつけられている。第1部の翻訳も第2部の解説もフランス演劇史専攻の学者によるものなので、詳細な情報がいっぱいの「勉強になる」本である。(2016.2.6読了)
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by nishinayuu | 2016-05-01 09:18 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『灰と土』(アティーク・ラヒーミー、訳=関口涼子、インスクリプト)


c0077412_9594977.png『Khâkestar-o khâk/Terre et Cendres』(Atig Rahimi, 1999)
原題はダリー語(アフガニスタンで使われているペルシャ語)/フランス語で表記。訳者によると、フランス語翻訳者と原作者の共同作業によるフランス語版がまず出版され、そののちに原作に加筆されたダリー語版が出版されたという。日本語版である本書はフランス語版、ダリー語版の両方を参照して翻訳し、改行についてはフランス語版に従ったそうだ。
本書に描かれているのはソ連がアフガニスタンへ軍事侵攻した時期(1979~1989)の出来事で、話の大部分はアフガニスタン北部とカーブルを結ぶ道路に架かる橋の上で繰り広げられる。冒頭に描かれるのは次のような印象的な場面。

「おなかがすいたよ」
きみは、赤字に白く染め抜かれたりんごの花模様の風呂敷からりんごを一つ取りだし、埃まみれの上着の裾でぬぐう。りんごはかえって汚れるばかりだ。風呂敷の中にそのりんごをしまい、もう少しましなのを一つ選び取る。そして、隣で頭をきみの疲れた腕にあずけている孫のヤースィーンに手渡す。子どもは,垢だらけの小さい手でりんごを受け取り、口に運ぶ。(中略)きみは、秋の太陽に背を向け、橋の上で、鉄の欄干に背を持たせかけてしゃがんでいる。(中略)橋の手前を左に曲がり、丘陵の間を蛇行する未舗装の荒れた道をたどれば、やがてカルカルの炭鉱に着く。

「きみ」というのはアブクールからやってきたダスタギール老人。橋の上でもう長い時間、炭鉱に向かう車が通るのを待っているのだ。ヤースィーンが水を欲しがって泣き叫ぶので、「きみ」は橋のたもとにある小屋のような店に行ってみる。店の主人ミールザー・カディールは読書に没頭していたが、目を挙げると微笑を浮かべ、ヤースィーンに水を与えてから「きみ」に尋ねる。「遠くから来たんですか」と。この、目を見ているだけで安心のできる人物に、ダスタギールは少しずつ打ち明け話を始める。アブクール村が砲撃され、自分と孫以外はみんな死んでしまったこと、孫は耳が全く聞こえなくなってしまったこと(耳が聞こえないということが理解できない孫は世界から音が消えたと思っているのだが)、4年前から炭鉱で働いている息子にそれらのことを告げるためにやってきた(つまり息子の心臓に探検を突き立てに行くのだ)ということ、などなどを。

時には「きみ」と称され、時にはダスタギールと称される老人のモノローグと、店の主人の「王書」を読む声が音楽のように流れる中で、先の見えない緊迫感あふれる話が展開していく、非常に印象的な作品である。巻末の訳者あとがきに、「りんごの花模様の風呂敷」や「王書」、炭鉱の給仕が言った言葉「レジスタンスの連中、反逆者たち」などの意味をはじめ、アフガニスタンに関する諸々のことが詳細に解説されている。
この作品はアフガニスタンとフランスの合作で映画化され、2004年カンヌ映画祭「ある視点」部門で受賞している。監督は著者自身で英語タイトルは≪Earth and Ashes≫。(2016.1.30読了)
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by nishinayuu | 2016-04-19 10:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)