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『ケイトが恐れるすべて』(ピーター・スワンソン、訳=務台夏子、創元推理文庫)_c0077412_10390507.jpg

Her Every Fear』(Peter Swanson)

物語はタクシーでローガン空港からボストン中心部へ向かう途中のケイトが、サムナー・トンネルで渋滞に巻き込まれてパニックに陥りかける場面で始まる。ケイトはまだ一度も会ったことのない又従兄と6か月の間部屋を交換するために、その朝ロンドンからやって来たのだ。ケイトは「パニック発作に身を委ねて、時が過ぎるのを待つ。パニックの発作で死ぬことはない」という呪文を繰り返し、同時に呼吸のエクササイズを行った。やがてタクシーは再び走り始めてトンネルを抜けると、ビュンビュン飛ばしてベリー・ストリートに到着、ヘンリー・ジェームズの小説から抜け出してきたような建物の前で止まった。そして翌朝、又従兄の部屋で目を覚ましたケイトは、隣室の女性が不審死したことを知った。

主な登場人物は以下の通り。

*ケイト・プリディー(学生時代につき合ったモラハラ男ジョージ・ダニエルズの呪縛から抜け出せずにいて精神的に不安定。絵を描くのが得意)

*コービン・デル(ケイトの又従兄。金融アドバイザー)

*アラン・チャーニー(向かいの棟に住む、覗き趣味を持つ妖しい人物。他の男たちに比べるとまともな人間に見えて来るのが可笑しい)

*クイン(アランの元恋人)

*オードリー・マーシャル(コービンの隣の部屋の女性。惨殺死体で見つかる)

*ジャック・ルドヴィコ(オードリーの元恋人と称する男。赤髪、筋肉質で小柄)

*マーサ・ランバート(ケイトの友人。ロンドンでケイトと同じ住居ビルに住む)

*クレア・ブレナン(コービンのロンドン留学中の恋人。殺人の犠牲者)

*ヘンリー・ウッド(コービンがロンドン留学中に知り合った男。別名ハンク。キューブリックの映画に目がなく、『時計仕掛けのオレンジ』もコービンといっしょに見た)

*リンダ・アルチェリ(14年前の快楽殺人の犠牲者)

*レイチェル・チェス(快楽殺人の犠牲者)

*スメラ(クレアが通うグラフィックス専門学校の学生)

*リチャード・デル(コービンの父親)

*ロバータ・ジェイムズ(ボストン市警の刑事)

*アビゲイル・タン(FBI捜査官。オードリー・マーシャル事件の捜査主任)

本作の犯人はサイコパスの快楽殺人鬼である。この人物が死体を切り裂く場面、住居侵入してあれこれ弄り回す場面は吐気を催すほどぞっとする。ミステリーでも叙情的なもの、ユーモアのあるものはいいけれど、本作のようなミステリーは読みたくない〈友人が「すごくいい」と言って貸してくれたので仕方なく読みました〉。ケイトは不安障害に悩まされているという設定だが、実は本作でいちばん信頼できる人物がケイトである。さて、その彼女が最後に選んだ人物は……。

2023.10.28読了)


# by nishinayuu | 2024-01-09 10:39 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


『遠いアメリカ』(常盤新平、講談社)

『繰舟で往く家』(牧野信一、筑摩書房)

  エスペラント訳(訳=森田明)と並べて読みました。

『オレオレさぎとフレンチトースト』(蛭田直美)

NHK World Japanの韓国語小説コーナーで聞きました。

『あの胸が岬のように遠かった』(永田和宏、新潮社)

  日記と手紙をもとに綴られた歌人夫婦の愛と苦悩の物語。
和書の記録(2023年1月~12月))_c0077412_11202287.jpg

『空を駆ける』(梶ようこ、集英社)

『荒地の家族』(佐藤厚志、文芸春秋)

  第168回芥川賞受賞作。

『三婆』(有吉佐和子)

読書会「かんあおい」2023年7月の課題図書。和書の記録(2023年1月~12月))_c0077412_11241384.jpg

『ハンチバック』(市川沙央、文芸春秋)

  第169回芥川賞受賞作。

『読書会という幸福』(向井和美、岩波新書)

読書会「かんあおい」2023年9月の課題図書。

『三郷の宝』(安曇野市の歴史文化遺産再発見事業実行委員会)

  安曇野はパートナーの故郷なので興味深く読みました。

『夏子の冒険』(三島由紀夫、角川文庫)

読書会「かんあおい」2023年10月の課題図書。

  三島が26歳の時に出した熊騒動の話。タイムリーな課題図書でした。


# by nishinayuu | 2024-01-04 11:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

私の10冊(2023年)

この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を「私の10冊」としてまとめてみました。

また、選から漏れた本を「おすすめの10冊」として挙げてみました。

画像は「狼の幸せ」と「鳥の歌いまは絶え」です。

私の10冊

死せる魂(ゴーゴリ、訳=中村融、河出書房)私の10冊(2023年)_c0077412_12080202.jpg

世界の測量(ダニエル・ケールマン、訳=瀬川裕司、三修社)

我ら闇より天を見る(クリス・ウィタカー、訳=鈴木恵、早川書房)

The Last Restaurant in Paris(Liry Graham, usAmazon)

狼の幸せ(パオロ・コニエッティ、訳=飯田亮介、早川書房)

フォンターネ 山小屋の生活(パオロ・コニエッティ、訳=関口英子。新潮クレストブックス)

My Name is Aram(William Saroyan, Dell Books)

ガルヴェイアスの犬 (ジョゼ・ルイス・ペイショット、訳=木下眞穂、新潮クレスト)

『インヴィジブル』(ポール・オースター、訳=柴田元幸、新潮社)

『人はすべて死ぬ』(ボーヴォワール、訳=川口篤+田中敬一、人文書院)


次点の10冊

나는 그냥 버스기사입니다『わたしはただのバス運転手です』(許赫)

The Dressmaker’s Gift(Fiona Valpy, Lake Union Publishing)

The Yarkand Manner(H.H.Munro,Doubleday&Company,Inc.)

大聖堂(レイモンド・カーヴァー、訳=村上春樹、中央公論新社、2007)私の10冊(2023年)_c0077412_11291457.jpg

エルサレム(ゴンサロ・タヴァレス、訳=木下眞穂、河出書房新社)

Treasure Island(R.L.Stevenson, Project Gutenberg)

라이팅 클럽『ライティング・クラブ』(姜英淑/カンヨンスク、民音社)

鳥の歌いまは絶え(ケイト・ウィルヘルム、訳=酒匂真理子、サンリオSF文庫)

『あの本は読まれているか』(ラーラ・プレスコット、訳=吉沢康子、創元推理文庫)

『ムーミン谷の冬』(トーベ・ヤンソン、訳=山室静、講談社青い鳥文庫)




# by nishinayuu | 2023-12-30 12:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

今年の花と木

2023年に楽しんだ花、木、風景の記録です。
右側の説明は和名、撮影日、撮影場所、韓国語名、英名、学名の順になっています。

今年の花と木_c0077412_20183528.jpg

河津桜(カワヅザクラ)
3月4日
近隣の公園にて
카와즈 자쿠라
英名なし
Cerasus lannesiana 'Kawazu-zakura'





今年の花と木_c0077412_20184655.jpg


アフリカ金盞花(オステオスペルマム)
4月15日
自宅のベランダにて
오스테오스펄멈
African daisy
Osteospermum





今年の花と木_c0077412_20185696.jpg



草藤(クサフジ)
月6日多摩川沿いの道にて
등갈퀴나믈
tufted vetch
Vicia cracca














今年の花と木_c0077412_20190763.jpg


ルピナス
5月17日
津久井湖城山公園水の苑池にて
루피너스
Lupine
Lupinus













今年の花と木_c0077412_20192176.jpg



夕景
9月21日
自宅のベランダから南東方向を臨んで







今年の花と木_c0077412_20194831.jpg



メタセコイア(アケボノスギ)
12月3日
近隣の公園にて
메타세쿼이아
dawn redwood
Metasequoia













今年の花と木_c0077412_20200442.jpg


蝦蛄葉サボテン(クリスマスカクタス)
12月25日
自宅にて
게발 선인장
Christmas cactus
Schlumbergera truncata



# by nishinayuu | 2023-12-25 20:45 | 覚え書き | Trackback | Comments(1)

『ガルヴェイアスの犬』(ジョゼ・ルイス・ペイショット、訳=木下眞穂、新潮クレスト)_c0077412_10332126.jpg

Galveias』(José Luís Peixoto)

物語は次のように始まる。

1984年1月の夜中。ガルヴェイアスはゆっくりと眠りに落ちていくところで……静寂が村を包むかと思いきや……犬たちがそうはさせなかった。村の端から端まで犬が一斉に吠え出したのだ……宇宙では、何百万キロと離れた常に夜のような場所を、名のない物がとてつもない速度で出発したところだった。狙いは定まっていた。名のない物が決意を持って邁進する様子を惑星、恒星、彗星が観察しているようだ……秘密の警告が届いたかのように、やむことなく吠えていた犬たちがふいに黙った。煙突の煙は、麻痺したのか、あるいはそのまま昇りつづけていたのか、ゆがみのない一本線を描いた……世界の動きが止まった。時がしゃっくりをしたかのように、ガルヴェイアスと宇宙とが、同じように動きを止めた。

ガルヴェイアスでは「天からは火と硫黄が降り注ぎ、すべてをのみこんだ」(ルカ伝17章29)という状態が1分間続いたが、爆音がやんで唐突に静寂が訪れたとき、真夜中だというのに扉という扉が開いて、村人たちは通りに飛び出した。女たちは寝間着姿で、男たちはズボン下のまま、互いの無事を喜び合い、とどまることなくしゃべり続けた。マタ・フィゲイラ先生も、その妻と息子のペドロ坊ちゃんとその嫁、孫といっしょに通りに出ていた。これから家族写真でも撮るかのようないでたちで。これを皮切りにひとりひとりの村人についての物語が始まり、彼らの隠された姿が明らかにされていく。例えば

*ジュスティノ爺(父が大切にしていた耕地を売ってしまった兄とは50年以上仲たがいしたまま。兄をかばう老妻に怒りを覚えるが……)

*ローザ(夫のカペッサや子どもたちの世話に明け暮れるなか、夫と噂になっているというジョアンナ・バレッテに投げつけるために大便を何日分も貯めこむ)

*セニョール・ジョゼ・コルダト(あの恐怖の夜、介護人のジュリアは彼の腕の中から飛び出していったまま戻らなかった。数日後、ブザーの音にジュリアかと期待してドアを開けるとウサギを届けに来たカペッサの息子だった。三日後にまたブザーの音。今度こそ彼女だ、と思ってドアを開けると、弟のジュスティノだった。50年ぶりの再会だった)

ほかに*マリア・テレザ(9月に着任した23歳の教師)*ジョアキン・ジャネイロ(村の噂に精通している郵便配達夫)などなどの物語が続いていく。

著者の故郷であるガルヴェイアスはポルトガルのアレンテージョ地方の内陸部にある人口千人あまりの村である。が、本作の舞台であるガルヴェイアスは実在するガルヴェイアスそのものではない。「著者によって念入りに構築されつつ、記憶によって深く形を変えた場所(Time Out誌)」なのである。

2023.10.22読了)


# by nishinayuu | 2023-12-20 10:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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