『Her Every Fear』(Peter Swanson)
物語はタクシーでローガン空港からボストン中心部へ向かう途中のケイトが、サムナー・トンネルで渋滞に巻き込まれてパニックに陥りかける場面で始まる。ケイトはまだ一度も会ったことのない又従兄と6か月の間部屋を交換するために、その朝ロンドンからやって来たのだ。ケイトは「パニック発作に身を委ねて、時が過ぎるのを待つ。パニックの発作で死ぬことはない」という呪文を繰り返し、同時に呼吸のエクササイズを行った。やがてタクシーは再び走り始めてトンネルを抜けると、ビュンビュン飛ばしてベリー・ストリートに到着、ヘンリー・ジェームズの小説から抜け出してきたような建物の前で止まった。そして翌朝、又従兄の部屋で目を覚ましたケイトは、隣室の女性が不審死したことを知った。
主な登場人物は以下の通り。
*ケイト・プリディー(学生時代につき合ったモラハラ男ジョージ・ダニエルズの呪縛から抜け出せずにいて精神的に不安定。絵を描くのが得意)
*コービン・デル(ケイトの又従兄。金融アドバイザー)
*アラン・チャーニー(向かいの棟に住む、覗き趣味を持つ妖しい人物。他の男たちに比べるとまともな人間に見えて来るのが可笑しい)
*クイン(アランの元恋人)
*オードリー・マーシャル(コービンの隣の部屋の女性。惨殺死体で見つかる)
*ジャック・ルドヴィコ(オードリーの元恋人と称する男。赤髪、筋肉質で小柄)
*マーサ・ランバート(ケイトの友人。ロンドンでケイトと同じ住居ビルに住む)
*クレア・ブレナン(コービンのロンドン留学中の恋人。殺人の犠牲者)
*ヘンリー・ウッド(コービンがロンドン留学中に知り合った男。別名ハンク。キューブリックの映画に目がなく、『時計仕掛けのオレンジ』もコービンといっしょに見た)
*リンダ・アルチェリ(14年前の快楽殺人の犠牲者)
*レイチェル・チェス(快楽殺人の犠牲者)
*スメラ(クレアが通うグラフィックス専門学校の学生)
*リチャード・デル(コービンの父親)
*ロバータ・ジェイムズ(ボストン市警の刑事)
*アビゲイル・タン(FBI捜査官。オードリー・マーシャル事件の捜査主任)
本作の犯人はサイコパスの快楽殺人鬼である。この人物が死体を切り裂く場面、住居侵入してあれこれ弄り回す場面は吐気を催すほどぞっとする。ミステリーでも叙情的なもの、ユーモアのあるものはいいけれど、本作のようなミステリーは読みたくない〈友人が「すごくいい」と言って貸してくれたので仕方なく読みました〉。ケイトは不安障害に悩まされているという設定だが、実は本作でいちばん信頼できる人物がケイトである。さて、その彼女が最後に選んだ人物は……。
(2023.10.28読了)