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『Where or When』(Anita Shreve, Harvest Book, 1993)

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『いつかどこかで』(アニタ・シュリーヴ、ハーヴェストブック)
45歳のチャールズはある日、ふと手にした新聞の中に新刊を上梓したという女流詩人の写真を見つける。写真の女性は彼が14歳の時にサマーキャンプで出会った初恋の相手ショーンだった。仕事にも家庭生活にも行き詰まっていたチャールズは、それらの重圧から逃れるようにショーンに近づいていく。愛し合っていながら幼さのために手放してしまったあの美しい愛をとりもどしたい、という思いに駆られて。どうみても彼の言動はストーカーのそれだが、驚くべきことに最初は冷静に対処しているかに見えたショーンも、いつしか彼の思いに応えるようになり、二人は「行方も知れぬ恋の道」に突き進んでいく。
事業がつぶれるとわかっていながら有効な手段を講じることもせず、子どもたちを愛していると言いながらその子どもたちの待っている家庭を顧みることもせず、31年という時を隔てて再会した相手の現在までの生き方や現在の状況に対する配慮もなく恋に突き進む――こんな主人公が身を滅ぼすのは自業自得であって、同情する気にもなれない。つまり、全く共感を覚えることのできない主人公であり、こんな主人公が好む音楽談義にも耳を傾ける気がしない(タイトルもそうだが、この小説にはやたらにポップスの名曲や歌手、クラシックの曲や演奏家の名が出てくる)。
主人公や相手の女性には共感できない一方で、考えも趣味も合わない女、とチャールズの目に映っている妻のハリエットを、あるいはショーンの夫で農場主兼大学講師のステファンを語り手とした小説だったら読んでみたい、とも思う。ハリエットには彼女と子どもたちが事件のあとどういう風に生きていったかを語ってもらいたいし、ステファンにはチャールズが現れる前までのショーンとの人生、チャールズが現れたことによって壊されていった人生について語ってもらいたいからだ。(2014.10.1読了)
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by nishinayuu | 2015-01-30 10:09 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『Ozma of Oz』(L.Frank Baum, illustration: John R. Neill, Del Rey Books)

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『オズマのオズ』(ライマン・フランク・ボーム、絵:ジョン・ニール)
著者のボームはオズの世界を描いた作品を全部で14作出しているが、これはその第3巻目で、1907年の出版。


ヘンリーおじさんと船旅に出たドロシーは、嵐に遭って船から落ちた鳥籠を追って海へ。船からどんどん遠く離れてしまったドロシーは、めんどりのビリーナとともに海上を漂流しているうちにオズの近くにあるエヴの国にたどり着く。この国は国王の死後、地下世界に君臨する妖精ノームよって王家の人々が地下世界に閉じ込められてしまったため、完全な無法地帯となっていた。王城に住むラングウィディア姫は付け替え用の頭部を30も所有していて、その日の気分によって頭部を付け替えるのだが、姫の気分も性格も新しくつけた頭部に合わせて変化する。そして気まぐれで欲張りなラングウィディア姫は、なんとドロシーの頭をNo.26の頭部と交換しろ、と言い出し、それを拒否したドロシーを塔屋に閉じ込めてしまう。そこへオズのオズマの一行が緑のカーペットを繰り広げながら登場する。このカーペットは行く手に道を作り、通った後はくるくると巻きあがって後になにも残さない魔法のカーペットである。オズマと一行によって塔から救出されたドロシーは、今度は自らがエヴの王妃と5人の王子たち・5人の王女たちを救い出すために、仲間とともに地下世界へと下りていく。彼らはノームの王が魔法を掛けて、色も形も様々な置物にされているというのだが、さてドロシーは彼らを無事に救い出すことができるだろうか。

ドロシーを取り巻く主要キャラクターは以下の通り。
ビリーナ:黄色いめんどり。人間の言葉を話す。
チクタク:考える、話す、動くという3つの機能を持つ優秀なロボット。スミス&ティンカーズ社製で、1000年間の完全保証付き。
ラングウィディア姫:亡くなったエヴ王の姪。エヴ城にメイドのナンダと二人で暮らしている。国を治める力はない。
オズマ姫:オズの世界の支配者。ドロシーと同じ年頃、同じ背格好。
オズマ姫に付き従う一行:案山子、馬の形の木挽き台、ブリキの木こり、臆病ライオン、腹ぺこタイガー

威厳のある大人の登場人物がいないせいか、『ナルニア』や『指輪物語』などに比べると児童書の色合いが強ようにも思えるが、大人でも充分楽しめる。「Oz—where the young stay young and the old grow young forever—these books are for readers of all ages」とRay Bradburyも言っている。なお、本書にはイラストがふんだんに挿入されており、動物たちは実に写実的に描かれている。これに対して主人公のドロシーは、服装がオールドファッションなのはやむを得ないとして、身体のバランスがちょっとおかしいような……。(そういえばアリスのイラストもバランスがおかしかった。)(2014.11.4読了)
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by nishinayuu | 2015-01-26 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『猫は手がかりを読む』(リリアン・ブラウン著、羽田詩津子訳、早川文庫)


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『The Cat Who Could Read Backwards』(Lilian Braun, 1966)
本書は新聞記者とシャム猫というユニークな探偵コンビが活躍するシリーズの第1作で、初版は1966年。話はコンビの一方であるクィラランが新聞社「デイリー・フラクション」に就職する場面で始まる。彼が新聞社に送った履歴書によると
「スポーツ記者をふりだしに、警察担当記者、従軍記者、新聞社連盟優秀賞獲得、都市犯罪の著書を発表。やがて、小規模な新聞社から新聞社へと転々としながら、短期間の仕事をこなすようになり、そのあとに長い無職――あるいは書くに値しない仕事――の時期が続く」
そんな経歴の持ち主であるクィラランが、なんと美術記者の仕事を与えられる。「デイリー・フラクション」社にはコラムを担当する美術評論家がいるが、それとは別に芸術家の素顔を紹介する記事を書いてもらいたい、ということだった。仕事始めは青年画家・ハラペイの取材だったが、その仕事をきっかけにしてクィラランは、コラム担当の美術評論家・マウントクレメンズと近づきになって彼の屋敷で暮らすことになる。そこで出会ったのがマウントクレメンズの飼い猫であるシャム猫のココだった。人間にはない予知能力の持ち主で、語の綴りを右から左へとたどって読むことができるココのおかげで、クィラランは二つの殺人事件を鮮やかに解決する。
主な登場人物は以下の通り。
ジム・クィララン(新聞記者)、アーチ・ライカ(新聞社の上司)、オッド・ブンスン(カメラマン)、マウントクレメンズ(美術評論家)、ココことカウ・コウ=クン(美術評論家の飼い猫)、キャル・ハラペイ(青年画家)、サンディ(キャルの美人妻)、ゾーイ・ランブレス(女流画家)、アール(ゾーイの夫。画廊経営者)、ブッチー・ボルトン(女流金工家)、ナインオウ(造形芸術家)、スクラノ(謎の抽象画家)、ノエル・ファーハー(美術館館長)、ブルーノ(記者クラブのバーテンダー)
(2014.10.29読了)

☆クィラランの名前はそのつづりが「20年にわたり植字工や校正者の頭痛の種になっている」と冒頭にあります。すぐあとでアーチが「相変わらずきみの名前には、例の馬鹿らしいwがくっついているのか?」とクィラランをからかい、本人が「由緒あるスコットランドのつづりなんだぞ」と言い返しています。どんな綴りなのか気になったので調べてみたところ、Qwilleranという綴りにゆきあたりました。手許に原書がないので残念ながら確認はできませんが。
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by nishinayuu | 2015-01-22 13:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『The Winter’s Tale』(Shakespeare, Greenwich House)


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『冬物語』(シェイクスピア)
これは1610~11年頃に作られた、シェイクスピアの後期作品の一つである。「A Midsummer Night’s Dream」と対をなすようなタイトルを持つこの作品は、前半は嫉妬による悲劇の物語、すなわち「冬の物語」であり、後半はすべての不幸が解消されるハッピーエンディングの物語、すなわち「春の物語」となっている。そのため初期には喜劇に分類されていたが、現在は「シンベリン」「テンペスト」などとともにロマンス劇という項目に分類されている。
物語の大筋の覚え書きを兼ねて、主な登場人物を以下に記しておく。
レオンティーズ――シシリア王。友人であるボヘミア王と自分の妻の関係を疑い、嫉妬に狂う。
ハーマイオニー――シシリアの王妃。王によって幽閉されたあとで女の子を出産。
ポリクシニーズ――ボヘミア王。シシリア王の友人として王宮に滞在していたが、シシリア王に王妃と密通したと疑われ、ボヘミアに逃げ帰る。
カミーロ――シシリアの貴族。王からボヘミア王の暗殺を命じられるが、それをボヘミア王に打ち明けて一緒にボヘミアに逃れる。
アンティゴナス――シシリアの貴族。王妃の産んだ子を殺せという王命を受けて、その子をボヘミアの森に捨てる。そのとき熊に襲われて食われてしまう。
ポリーナ――アンティゴナスの妻で、王妃付きの侍女。横暴な王に逆らって王妃を守ろうとする。
コーラス――劇の前半と後半の間にある16年という時の流れを30数行の詩で語ってしまう、というすご技をみせる。
フロリゼル――ボヘミアの王子。羊飼いの娘(実はシシリアの王女)と恋仲になる。
パーディータ――羊飼いの娘でフロリゼルの恋人。その名Perditaはラテン語のperditus(lost)から来た語で、「失われた女の子」を意味する。

この劇ではシシリアとボヘミアが海路で繋がっていたり、羊飼いに育てられたパーディータが容姿も教養も申し分のない女性になっていたりするが、一種のおとぎ話なので、詮索しても意味がない。アンティゴナスが熊に食われるシーンを除けば、グロテスクなところも恐ろしいところもないので楽しめる。(2014.10.29読了)
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by nishinayuu | 2015-01-18 10:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

私の10冊(2014年)


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☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。
☆画像はThe Amateur Marriageです。


私の10冊
友情(フレッド・ウルマン、訳:清水徹・美智子、集英社)
ナチと理髪師(エドガー・ヒルゼンラート、訳:森田明、文芸社)
四人の兵士(ユベール・マンガレリ、訳:田久保麻理、白水社)
카스테라(박민규, 문학동네)
二度生きたランベルト(ジャンニ・ロダーリ、訳:白崎容子、平凡社)
The Amateur Marriage(Anne Tyler, Ballantine Books)
달에게 들려주고 싶은 이야기(신경숙)
思いでのマーニー(ジョーン・ロビンソン、訳:松野正子、岩波少年文庫)
火曜日の手紙(エレーヌ・グレミヨン、訳:池畑奈央子、早川書房)
Hamlet (Shakespeare)

お勧めの10冊
立原正秋追悼(編:白川正芳、創林社)
死の舞踏(ヘレン・マクロイ、訳:板垣節子、論創社)
鏡の中の言葉(ハンス・ベンマン、訳:平井吉夫、河出書房新社)
しずかに流れる緑の川(ユベール・マンガレリ、訳:田久保麻理、白水社)
よみがえる昭和天皇(辺見じゅん・保阪正康、文藝春秋)
第五の山(パオロ・コエーリョ、訳:山川紘矢・山川亜希子、角川文庫)
猫は山をも動かす(リリアン・ブラウン、訳:羽田詩津子、早川文庫)
The Blue Bird(Maurice Maeterlinck)
画家の妻たち(澤地久枝、文藝春秋社)
いにしえの光(ジョン・バンヴィル、訳:村松潔、新潮クレスト文庫)
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by nishinayuu | 2015-01-14 10:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『달에게 들려주고 싶은 이야기』(신경숙, 2013)


c0077412_10153740.jpg『月に聞かせたい話』(申京淑)
『浮石寺』の作家・申京淑の短編小説集。4つの章で構成され、全部で26の短編が収録されている。「ある晩、散歩の途中でふと見上げた空に澄み切った空から丸い月が私を見下ろしていた。おもしろい話は書けないの?とでも言うように。そんな月に聞かせたくて、ちょっとした時間を見つけては文を書いていった。月が笑って頷いてくれるような話を」と作者は言う。社会の現実を浮き彫りにする長編小説では見落とされがちなこの作者のユーモアが、この短編集では前面に出ていて読者を楽しませてくれる。いくつか特に印象に残った作品を記しておく。
『愛しているって?』――布教に熱を入れるあまり僧侶にまで働きかける若い牧師。腹を立てた僧侶が牧師の右の頬を打っても「あなたを愛しているからこそ」と食い下がる牧師に僧侶が「左の頬も打たれたいか」と詰め寄る。一途な若い牧師と老練な僧侶の対決。
『Jが行ってしまってから』――妹が留学した後、田舎で一人暮らしをしている母親がやたらに電話してくるようになった。特に話はないのに。それは妹が母親と毎日のように連絡を取り合っていたからだった、ということを知った姉は初めて母親と向き合い……。
『知らない人に向かって書く手紙』――ブレヒトの「私の母」という詩を読んで湧き上がった母の思い出。
『レタスの種を蒔かないと…』――死ぬか生きるかの大手術を受けた母親。やっと退院できることになったが、3ヶ月は腰を曲げたり坐ったりしてはいけない、と医者に言われて口をついて出たことばがタイトルになっている。
(2014.9.24読了)
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by nishinayuu | 2015-01-10 10:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『隼のゆくえ』(ヴィクター・カニング著、中村妙子訳、新潮社)


c0077412_10584751.jpg『The Painted Tent』(Victor Canning, 1974)
三部作『スマイラー少年の旅』のⅢ。この巻で重要な役割を果たす動物は人の手で育てられて外の世界を知らない若い雌の隼・フリアである。
第Ⅱ部で日々の暮らしの喜びを味わい、将来への準備も着々と進めていたスマイラーだが、新たな密告者の出現でまたまた逃亡者となる。今回スマイラーは正体不明だがよく気のつく男ジミー・ジャゴーの車に便乗してスコットランドから南下し、イングランド西南部に向かう。途中、ジミーの計らいでブリストルに立ち寄って姉の夫に無事を伝えたあと、ジミーの母親の「ダッチェス(侯爵夫人)」の許に身を寄せる。ダッチェスは水晶玉で人々の将来を透視する占い師としてサーカスで働いていたが、今は引退して農場を経営する傍ら、休業中のサーカスの動物を預かったり、病気の動物の世話をしたりしている。ジミーとダッチェスはスマイラーには聞き取れない言葉(あとでロマニ語だとわかる。彼らの一族はジプシーだった)で話し合って、スマイラーを受け入れる。
翌朝、ダッチェスは裏庭をすっかり占領している大きなテントにスマイラーを案内する。中世の戦場の天幕のような形で、丸屋根のてっぺんに立つ竿の先には赤と白のペナントがはためき、テントを囲む頒布は赤黄青の縞模様だった。ここでスマイラーの過去と未来を透視したダッチェスが見たのは――小さなボートに乗った女の子(ローラ)、汽船の甲板でハーモニカを吹いている男(スマイラーの父親)、大きな部屋と紳士淑女の肖像画(古城の城)背の高い白髪の顎髭の男(殿さま)、彼らに囲まれてしあわせそうなサムエル・マイルズ(スマイラー)、そして黒雲の下を必死で駆けている血だらけの男だった。心配するスマイラーにダッチェスは言う。スマイラーのしあわせな未来と、ある男の不幸な未来がほんの一瞬、水晶玉の中で絡み合っただけなのだ、と。(2014.1019読了)
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by nishinayuu | 2015-01-06 10:59 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『灰色雁の城』(ヴィクター・カニング著、中村妙子訳、新潮社)


c0077412_1349751.jpg『Flight of the Grey Goose』(Victor Canning, 1973)
『スマイラー少年の旅』のⅡ。舞台はスコットランド、時は『チーターの草原』から数ヶ月あとの7月である。
スマイラーは船乗りの父親が帰国して、自分の無実を明かしてくれるまではなんとしても身を隠していようと心に決めている。だから、働く場所と寝る場所を提供してくれ、余計な詮索をせずに親切に接してくれたミセス・レーキー、ミス・ミリーの所からも逃げ出すことになった。パットやジョー・リンガーの助けを借りて。
スマイラーは遠くスコットランドへと旅立つ。10月には父親の船がグラスゴー近くのグリンノックに着くことになっていたからだ。スコットランドでスマイラーは羽を痛めた灰色雁のラギーを助けたのをきっかけにして、農場の少女ローラと、そして湖の中の城に住む殿さまと知り合うことになる。ローラのおかげでスマイラーはボートのこぎ方や泳ぎ方を覚え、フライ・フィッシングの楽しさも知る。また動物の特別保護地区を作ることを念願としている殿さま、ことエルフィンストーン卿への敬愛の念から、獣医になる夢を抱き始める。その先には、後々農場を継ぐはずのローラとの暮らしも見えていたのだった。(2014.10.12読了)
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by nishinayuu | 2015-01-02 13:48 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)