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ㅈで始まる植物の名前


c0077412_16101263.jpg植物の名前を韓国語を見出し語にして並べました。
韓国語名、和名、英語名の順になっています。
(英名なし)の表記があるものは英語名がないことが明らかなもので、英語名があるかないか確認できていないものは空欄にしてあります。


자두나무 すもも 李 plum
자목련 しもくれん 紫木蓮
자몽/잼보아/왕귤나무 ザボン 朱欒 pomelo 
자운영 れんげそう 蓮華草/紫雲英 Chinese milk vetch
자주달개비 むらさきつゆくさ 紫露草 spiderwort
작살나무 むらさきしきぶ 紫式部  beauty berry
작약 しゃくやく 芍薬 peony
잔대 つりがねにんじん 釣鐘人参 ladybell 
잔디 しば 芝 turf/lawn
접시꽃 たちあおい 立葵 hollyhock 
제라늄 ゼラニウム geranium
제비꽃 すみれ 菫 violet
제비붓꽃 かきつばた 杜若 iris
조 あわ 粟 Italian millet 
조팝꽃 しじみばな 蜆花 bridal wreath
조팝나무 ゆきやなぎ 雪柳 thunberg's meadowsweet/thunberg's spirea 
졸참나무 なら 楢 Japanese oak 
주아 むかご 零余子 air potato 
줄 まこも 真菰 Manchurian wild rice 
지치 むらさき 紫 murasaki/violet-root gromwell 
진달래 からむらさきつつじ 唐紫躑躅 korean rhododendron 
질경이 おおばこ 大葉子 Asian plantain 
쪽파 わけぎ 分葱 wakegi 
찔레꽃 のいばら 野茨 sweet briery/eglantine 
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by nishinayuu | 2012-11-28 16:10 | 覚え書き | Trackback | Comments(0)

『ハートストーン』(ルース・レンデル著、古屋美登里訳、福武書店)


c0077412_10554683.jpg『Heartstones』(Ruth Rendell)
6つの章からなる中編小説。物語の舞台は大聖堂の敷地に接するように建っている古い館。ハートストーンとは、この館の路地に嵌め込まれた、形も大きさも人間の心臓にそっくりの敷石のことである。館の住人は大学教授で司祭の資格も持つルーク、長女のエルヴィラ、次女のデスピーナ(通称スピニー)で、少女たちの母であるアンは物語の冒頭でその死が語られる。語り手は思春期のまっただ中にあって、独特の精神世界に生きているエルヴィラ。
「その頃わたしは毒を盛ることなど考えもしなかった。それにこれだけははっきり言えるが、わたしは母の死にはまったく関与していない。(中略)わたしは母の死に関わりはなかったけれど、母が死ぬことは予想がついていた。」
母親の死を知って泣きじゃくるスピニーを眺めながら、エルヴィラはひたすらルークが病院から帰ってくるのを待つ。そして彼が美しい顔立ちのまま、輝いた、情熱的で、崇高な表情で部屋に入ってきたのを見たとたん、エルヴィラは
「火となり大気となって肉体を失った。ルークさえいればそれでよかった。彼を見ているだけでよかった。彼と同じ部屋にいて、二つの魂を融合させるだけでよかった。」
アガメムノンを崇める(おやじギャグ?)エレクトラのごときエルヴィラは、世俗とは隔絶してルークとともに古典の世界を逍遙する日々を綴っていく。エルヴィラにとってルークが特別の存在であったように、ルークにとってもエルヴィラは特別の存在であった、はずなのだが……。
冒頭に母の死があり、やがて真っ赤なドレスの女性がハートストーンに叩きつけられて死に、続いてまた一人が大量の血の海に横たわる。はたしてこれらの死にエルヴィラは関与しているのか。ゴシックロマン風に始まり、心理小説風に展開したあと、物語は戦慄の事件を暗示して終わる。(2012.9.28読了)
☆画像はRandom House(1994)のものです。
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by nishinayuu | 2012-11-25 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『アルヴァとイルヴァ』(エドワード・ケアリー著、古屋美登里訳、文藝春秋)


c0077412_10453422.jpg『Alva & Irva』(Edward Carey)
物語の舞台はエントラーラという小さな町で、目次の前のページに町の旧市街の地図が載っている。大きな通りが3本あり、歌劇場や市民劇場、動物園、美術館などもあれば、大学や図書館もあり、インターナショナル・ワールド・ホテルもある。町外れにはセントラル駅があって市内はトロリーバスが縦横に走っている。大通りの間を埋め尽くす細かい通りも書き込まれた手の込んだ地図である。エントラーラをはじめとする地名から類推すると、ラテン語圏のどこかの国にある町だと思われるが、世界地図を探してもこの町は見つからない。なぜなら、エントラーラは架空の町だからだ。
物語は二人の語り手によって綴られる。一人はアルヴァ。中央便局の局長を祖父に持ち、その娘で郵便局員だったダリアと、同じく郵便局員だったライナスの間に生まれた双子の片割れである。アルヴァは双子の片割れであるイルヴァと自分の生い立ちを語り、二人がプラスティック粘土で作った町の精密な模型について語る。もう一人の語り手はアウグストゥス・ヒルクス。アルヴァの幼なじみで、長くカナダで暮らしたあと故郷に戻ってきた。ヒルクスはアルヴァの語る内容に注を書き加えたり、エントラーラを訪れる人びとのために観光案内をしたりする。
エントラーラという町の形と歴史を作り上げた作者は、そこに住むさまざまな人びとを、特にアルヴァとイルヴァという姉妹の人物像を念入りに作り上げ、彼女たちに粘土で町の模型を作らせる。それから作者は、恐ろしい巨大地震で町を破壊してしまうが、その際に双子の姉妹が作った町の模型は破壊を免れさせて、それをもとに町を再びこの世に甦らせるのである。作者の構築したこの幻想の町の在処を訳者は、東ヨーロッパよりの地中海近くにある小国の町、と想定しているが、もう少し具体的に場所を特定したいという思いに駆られる。(2012.9.26読了)
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by nishinayuu | 2012-11-22 10:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(4)

『数学的にありえない 下』(アダム・ファウアー著、矢口誠訳、文藝春秋)


c0077412_1625065.jpg『Improbable』(Adam Fawer)
フォーサイス博士はケインを、というよりケインの未来予知能力を手に入れるために、プロの戦闘員を動員してケインを追い詰めていく。ケインはヴァナーと組んでこれに立ち向かう。彼らの武器は量子力学、統計学、確率論などに精通してこれを駆使するケインの超人的頭脳と、KGBとCIAで鍛えられたヴァナーの超人的戦闘力。二人にとって圧倒的に不利な状況を、ケインはその頭脳によって組み立てた緻密な計画によって切り抜けようとする。一方ヴァナーは、米国映画『Salt』のアンジェリーナ・ジョリーばりに敵を撃ちまくり、自分も瀕死の傷を負って(なぜかそれでも死なずに!)戦い続ける。随所に張り巡らされた伏線は、これは伏線だ、とすぐわかるものが多く、それらを頭に入れて読み進めていくと、期待通りのあっと驚く展開が待ち受けている。数学・物理などの専門的部分がすっきりわからなくても充分楽しめるし、後味も悪くはないエンターテインメントである。
上巻のところで紹介した人物以外で、下巻で特に重要な役割を果たす人物は以下の通り。
ドク─―デイヴィッド・ケインの大学時代の恩師。
スティーヴン・グライムズ――国家安全保障局〈科学技術研究所〉所長であるフォーサイスの部下で、盗聴・監視任務のエキスパート。
マーティン・クロウ――ケインとヴァナーを追うプロの追跡屋。高額の手術を受けさせないと死んでしまう難病の子供の父親で、報酬のためにがむしゃらにケインを追う。
ヴィタリー・ニコラエフ――地下カジノを経営するロシア人マフィア。上巻の冒頭でケインはこの人物から高額の借金をしている。(2012.9.20読了)
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by nishinayuu | 2012-11-19 16:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『나의 문화유산답사기 6』(유홍준著、창비)

c0077412_13183332.jpg『私の文化遺産踏査記 6』(兪弘濬著、創批)
韓国の文化遺産踏査記3巻の刊行後しばらくして、北韓の文化遺産踏査記2巻が刊行された。これでもうお終いかと思っていたら、2011年にこの第6巻が刊行されたので、さっそく購入して週に一度、友人と訳をつき合わせながら読み進めてきた。訳の突き合わせはまだ最後まで行っていないが、いちおう自分では最後まで目を通したので、読了ということにしてここに記録しておく。済州島を扱った7巻目ももうすぐ手許に届くので、このシリーズとのおつきあいはまだまだ続きそうである。
さて、「はじめに」の記述によると、この巻は文化遺産の中で著者個人と縁の深い場所を取り上げたものだという。はじめの4章は、著者の文化財庁の長官としての経験が詰まった景福宮。一つ一つの建物の意味や歴史が実に詳細に綴られ、そこに居住した王族、政治を行った人びと、建設に携わった技術者など、さまざまに人間についても多くのページが割かれている。
「毎年自分の家のように訪ねていくようになった」という仙巌寺には2章が当てられ、金克己の古詩で締めくくられている。続いて、視覚障害者との約束が果たせずに「気持ちの上で借りがあった」という道東書院に1章、亭子村など昔ながらの文化が維持されている居昌・陜川に3章が当てられ、「私の個人的変化を語った」という扶餘・論山・保寧に4章が当てられている。
総じて、「個人的な」思い入れが語られている箇所は、共感できてもできなくてもそれなりに読んでいて楽しいが、固有名詞や植物名が羅列されている部分はあまりの単調さにうんざりさせられる。読みながら日本語にするときに、人名、地名は漢字を探し、植物名などはまず学名を突き止めてから和名を探す、という作業をしているため、なおさらそう感じるのかもしれないが。それでも、2003年からこのシリーズを読み続けてきたおかげで、韓国の文化遺産について、また韓国の人びとの考え方について、少しはわかるようになった気がする。著者に感謝。(2012.9.18読了)
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by nishinayuu | 2012-11-16 13:18 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

ㅇで始まる植物の名前

c0077412_913693.jpg植物の名前を韓国語を見出し語にして並べました。
韓国語名、和名、英語名の順になっています。
(英名なし)の表記があるものは英語名がないことが明らかなもので、英語名があるかないか確認できていないものは空欄にしてあります。


아게라텀 アゲラータム ageratum 
아까시나무 にせアカシア false acacia
아마릴리스 アマリリス amaryllis 
아이비 アイビー ivy 
아프리카봉선화 インパチェンス impatiens
안개꽃 かすみそう 霞草 babies' breath
안수리움 アンスリウム (ベニウチワ 紅団扇) anthurium 
앉은부채 ざぜんそう 座禅草
알로에 アロエ aloe 
앵두나무 ゆすらうめ 梅桃/山桜桃梅 nanking cherry/Chinese bush fruit 
야고 なんばんぎせる 南蛮煙管 aeginitia
양미역취 あきのきりんそう(せいたかあわだちそう 背高粟立草) late goldenrod 
양상치/레터스 レタス lettuce 
양하 みょうが 茗荷 myoga 
억새 すすき 芒 Japanese pampas grass
얼레지 かたくり 片栗 dogtooth violet
엉겅퀴 からのあざみ 唐野薊 thistle 
여꾸이 たで 蓼 smartweed/water pepper
여랑화/미타리 おみなえし 女郎花 
여지 れいし 茘枝 leechee/litchi 
연근/연뿌리 れんこん 蓮根 lotus root 
연꽃  はす 蓮  lotus
염교 らっきょう 辣韮 scallion 
영산백 さつき(つつじ) 五月/皐月(躑躅) satsuki azalea 
오이 きゅうり 胡瓜 cucumber
오이풀 われもこう 吾亦紅 great burnet 
오히나무 はんのき 榛の木 alder
옥수수 とうもろこし 玉蜀黍 corn/maize
온시디움 オンシジウム oncidium
올리브 オリーブ olive 
완두콩 えんどうまめ エンドウ豆 pea
용담 りんどう 竜胆 gentian 
우꼬기/오갈피 こぎ aralia
우릅나무 たらのき 樰の木 Japanese angelica tree 
유자 ゆず 柚子 citron/Chinese lemon
유채 あぶらな 油菜 rape 
유카 ユッカ yucca
유칼리 ユーカリ eucalyptus 
으아리/위령선 てっせん 鉄線 asian virginsbower 
으아리 こませんにんそう こま仙人草 sweet autumn clematis 
은방울꽃 すずらん 鈴蘭 lily of the valley
은사시나무 ひょんやまならし ヒョン山鳴らし suwon poplar
음나무 はりぎり 針桐 caster arelia 
이팝나무 ひとつばたご 一つ葉タゴ snow flower/snow blossom 
익무초(益母草) めはじき 女波志支 motherwort/lion's tail 
인도고무나무 いんどごむのき インドゴムの木 rubber tree
인동 にんどう 忍冬 Japanese honeysuckle
일일초 にちにちそう 日々草 Madagascar periwinkle/old maid
잇꽃/홍화 べにばな 紅花(別名 末摘花) safflower 
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by nishinayuu | 2012-11-13 10:58 | 覚え書き | Trackback | Comments(2)

『少女が消えた小道』(ジェイン・アダムズ著、加地美知子訳、早川書房)


c0077412_12155998.jpg『The Greenway』(Jane Adams)
HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No.1649
物語はキャシーと夫のファーガス、友人のトマス夫妻がノーフォークを訪れるところから始まる。20年前のキャシーが10歳の夏、グリーンウエイという小道を2歳上のいとこ・スージーと通っていたとき、スージーが消えた。キャシーにはその出来事の前後の記憶が欠けており、そのためキャシーはスージーの母親であるおばからも自分の母親からも責められて、罪悪感に苦しんできた。悪夢にうなされ続けるキャシーの心の平安のためには、事件現場に立ち戻って事件に向き合う必要があると考えたファーガスは、友人夫婦の協力を得て、キャシーを20年ぶりにノーフォークに連れてきたのだった。「本気で忘れたいと思っているなら、ほかのことを話すのと同じように、あのことを話せるようにならなければね。どんなにひどいことだったにせよ、あれは一つの出来事だったんだ。全生涯のさまざまな出来事のなかのひとつに過ぎない。そんなふうに見られるようにならないとね」というファーガスのことばに、キャシーは「努力するわ」と約束する。そしてキャシーは気持ちを整理するために、事件のあったグリーンウエイにひとりで行ってみた。ずっと怯えていたその場所を一人で歩けたことで自信を持てた、とキャシーは高揚してファーガスに報告した。
ところが、キャシーがグリーンウエイにひとりで行った頃に、20年前と同様の事件が起こった。金髪でふっくらした顔の少女が失踪したのだ。キャシーの動揺は激しく、不可解な言動が見られるようになって、それがいよいよ人びとの疑いを深める。二つの失踪事件に深い関わりを持つ女として。
捜査を担当するマイク・クロフト警部は、キャシーのような精神的に不安定な人間と犯罪との関わりについて思いを巡らすが、決め手がない。マイクは強引に捜査を進めることはせずに、元警部のジョン・タイナンに助力を求める。ジョンは20年前にスージーの事件を担当し、未解決事件として処理された後も取り憑かれたように捜査を続け、昇進の道を自ら閉ざしてしまった人物である。こうして俄仕立てのコンビによる地道な捜査が始まる。
伝説や迷信のまつわる土地、そこで目撃されたよそ者らしい女、精神に異常を来しているかもしれないキャシー、などが不安をかきたてるなかで、人間味があって揺らぎのない二人の捜査官の存在が安心感を与える。不安感と安心感がバランスよく配合されたミステリーである。(2012.9.12読了)
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by nishinayuu | 2012-11-10 12:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『本を読む女』(林真理子著、新潮社)


c0077412_1055179.jpg読書会「かんあおい」2012年10月の課題図書。1998年にすでに取り上げられた本だが、10月の担当者のたっての希望で再度読むことになった。
山梨県の小さな町にある菓子商「小川屋」に生まれた万亀(まき)の半生記である。始まりは大正から昭和に変わって四日目の1926年12月25日。大正4(1915)年生まれの万亀は読書好きの小学生で、この日も祖父母が隠居部屋にしている倉の二階で『赤い鳥』に読みふけっていた。暮れの忙しいときに、とあきれる祖母に追い立てられるようにして母のもとに急ぐ。「小川屋」の家族は父の隆吉、母の芙美子、長男の秋次と四人の女の子――弥生、英子、朝美、万亀――という構成である。弥生は手先が器用、英子は母親譲りの大変な器量よし、朝美は歌がうまい、とそれぞれ特徴があるなかで、万亀はこれといった特徴のない平凡な少女だった。ただ、本をたくさん読んでいるせいで作文が得意で、ほかの勉強もよくできた。万亀に本の世界を教えてくれたのは窪谷に住む伯父で、4歳の万亀に会ったとき「こんな頭のいい子どもは見たことがない」と感心し、「マザーグース童話集」と「世界名作童話集」を買ってくれたのだった。
物語は本好きの万亀のそれからを、そのときどきに万亀が接した本に絡めて語っていく。小学生時代の「赤い鳥」、女学校時代の「花物語」(吉屋信子)、女専時代を経て北へ向かうときの「放浪記」(林芙美子)、故郷に戻って悶々と過ごした日々の「大地」(パール・バック)、出版社時代の苦い思い出である「オリムポスの果実」(田中英光)、結婚して大陸で過ごしたときの「万葉集」、再出発のきっかけをもたらした「斜陽」(太宰治)などが各章の章題として掲げられている。ほかにも万亀の接した数多の作品が全編を彩っており、それによって万亀という女性と彼女の生きた時代を生き生きと浮かび上がらせている。(2012.9.12読了)
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by nishinayuu | 2012-11-07 10:05 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『六月の長い一日』(ロジェ・グルニエ著、山田稔訳、みすず書房)

c0077412_11473582.jpg『Le Veilleur』(Roger Grenier)
2年前に読んだ短編集『別離のとき』に次いで2冊目のロジェ・グルニエ。本作は短編ではなく、25の章からなる中編小説である。
ローリス・ファリレエフはときおりルネ・ファングラードのところに電話をかけてくる。「亡霊を呼び出すみたいに、この男友達を遠い過去から引っ張り出したくなること」が彼女にはときどきあるのだった。前回は音楽会への誘いで、「私にはもう音楽しかないの」と言っていたが、ルネはいつものように断った。今回は音楽の話ではなく、彼女がもう一つ熱を上げている文学の話だった。二人はムッシゥ=ル=プランス通りのハンガリー菓子店の喫茶室で語り合った。彼女はお気に入りの作家の名前を立て続けに挙げた。チェーホフ、パヴェーゼ、スコット・フィッツジェラルド。そして出し抜けに、「わたし、ひどい病気みたい。しょっちゅう咳が出るの」と言う。彼女はいつも、『魔の山』の時代のようにサナトリウムで療養生活を送れなかったことを残念がっていて、マリ・バシュキルツェフとキャサリン・マンスフィールド、胸を病んだこの二人の有名な女性の名をよく引き合いに出したものだった。そして別れしなに、いつか時間をさいてシモンがどうしてあんな風になったのかおしえてほしい、と言い出す。シモンはルネにとっても重要な存在なのだったが、ルネは、ぼくだって何もわからないよ、別世界の人間だから、と断った。
何ヶ月も彼女に連絡せずにほっておいたが、6月初めのある日の午後、ローリスの住む家を訪れた。ローリスの顔は青ざめ、やつれが目立った。しかし、ルネが話し始めるとむさぼるように聞き入り、質問したり間違いを正したり、細かな点を補ったりし、しだいに顔に血の気が戻ってきた。ルネはルネで、「彼女の招きに応じたのも、こうして記憶の糸をたぐり寄せるのも、あながち彼女のためだけではないことを意識し始めていた。」のだった。
ルネが学生時代に崇拝していたシモン。対独レジスタンスに燃え、パリ解放をともに喜び合ったシモン。将来は作家として名をなすものと誰もが信じていたシモン。そんなシモンがなぜすべてを捨てて姿を消したのか。ルネとローリスは過去と現在を往き来しつつ、シモン・ファーブル=レスコーとその周囲の人びとの姿を照らしだし、彼の挫折の原因を探っていく。いくつものシーンを重ねてひとつの時代とその時代を共に生きた人びとを浮き彫りにした作品で、上出来の映画を見終えたような読後感が残る。(2012.9.8読了)
☆シモンの生活に現れた不幸な女の一人であるヴィヴィアーヌが睡眠剤で自殺したとき、彼女が眠りに入りながら聞いていたのが自分の歌声の入ったカセット・テープだった、と知ったシモンが、「かわいそうに、最後の眠りのための子守歌に、自分の声しかなかったなんて」と漏らすくだりがあります。死に向かう日々、自分の演奏を聴き続けたというジャクリーヌ・デュプレを思わせる哀切なエピソードですね。
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by nishinayuu | 2012-11-04 11:50 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『雪の練習生』(多和田葉子著、新潮社)


c0077412_100111.jpg3代にわたるホッキョクグマの物語。1代目はソ連で生まれ、幼い頃からサーカス団で育ち、サーカスの花形として活躍した雌のホッキョクグマ。舞台に立てなくなってからは事務方として、あちこちの会議に出るのが主な仕事だった。ある日、育ての親のイワンのことを思い出して苦しくなり、ウオッカを譲ってもらおうとアパートの管理人のおばさんのところに行くと、忘れたいことがあるのなら日記でも書きなさい、と言われる。「そうではなくて、思い出せない昔のことを書くことで思い出したい」と言うと、おばさんは「それなら自伝を書けばいいでしょう」という。「蜻蛉日記」のロシア語訳を読んだばかりだというおばさんのこの意外にインテリめいたことばがきっかけとなって、自伝を書きはじめると、それが出版されて翻訳が出るまでになる。しかし彼女は、書くことへの疑問に目覚め、翻訳のからくりにも疑問を持つようになり、さらに当局の圧力もあって、ついにはカナダへ脱出する。そしてこのとき彼女は決意するのだ。自由自在に自分の運命を動かすために自伝を書こう、わたしの人生は予め書いた自伝通りになるだろう、と。こうして彼女は自分がこれからたどる人生を書き始める――結婚して二卵性双生児の男女を生む。男の子は名前を付ける前に死んでしまうが女の子にはトスカという名前を付ける。トスカはバレリーナになってチャイコフスキーの「白熊の湖」を踊り、やがて可愛らしい息子を生む。わたしにとっては初孫だ。その子はクヌートと名付けよう。
以上が第1章の「祖母の退化論」で、第2章の「死の接吻」はトスカの物語、第3章の「北極を思う日」はクヌートの物語となっている。第2章は、猛獣のトスカと「死の接吻」を演じて客を喜ばせるウルズラという女性の生涯をトスカが語った伝記であるが、ところどころでウルズラとトスカは重なり合ったりひとつに溶け合ったりする。
時はソ連時代からベルリンの崩壊を経て現代まで、所はモスクワ、キエフ、リガ、西ベルリン、トロント、東ベルリンなどに及び、各時代の雰囲気や人びとの動きがこの物語にリアリティを与えている。
トルストイの「三匹の熊」、ハイネの「アッタ・トロル」などへの言及があるほか、プーさんやパディントンの名が出てきたり、芸をするロバの名がプラテーロやロシナンテだったりするのも楽しい。(2012.9.8読了)
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by nishinayuu | 2012-11-01 10:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)