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『星に願いを―さつき断景―』(重松 清著、新潮文庫)

c0077412_1015176.jpg読書会「かんあおい」2009年4月の課題図書。
1995年5月1日、オウム真理教教祖逮捕のXデーの有力候補とされた日から話は始まる。主な登場人物は15歳の高校生タカユキ、定年が近づいてきた勤め人のアサダ氏、30代の勤め人であるヤマグチさんの三人。この日、震災で「終わった」神戸の町でボランティアをしてきたタカユキはニュータウンの家に向かっている。長女の結婚式を迎えたアサダ氏はテレビに映るオウムの上祐の薄笑いと饒舌に腹を立てている。危うくサリン事件に巻き込まれそうになったヤマグチさんは、地下鉄に乗るのが苦しく、会社でもミスばかりしている――という具合に、この日の三人が経験する事柄と心の動きが、その時テレビや新聞を賑わしている出来事ともに綴られて行く。
1996年の5月1日、1997年の5月1日……と続いて2000年の5月1日まで、平凡な市民である三人に一年という歳月がもたらしたものが描かれるのと並行して、そのときどきの世相を反映するニュースの切り抜きが、効果的に挿入されていく。5年間という時間の長さ、あるいは短さと、その間の世相の変化の不気味さがじわじわと伝わってくる作品である。(2009.4.26記)
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by nishinayuu | 2009-06-30 10:15 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『心映えの記』(太田治子著、中央公論社)

c0077412_1062113.jpg春の陽気に誘われて物置の中の本を整理していたら、23年も前の1986年3月に読んだこの本が出てきたので再読。
読んでいてあまり気持ちのよい本ではなかったという記憶があったが、今回は語り手の自意識過剰なところも、母親に向ける目の辛辣なところも、内にこめられた謙虚さと優しさと愛情の一つの表現であるように感じられ、共感を覚えながら読んだ。太宰の影を引きずらずに生きてきた母親の、凛とした人となりが鮮やかに浮かび上がる。
巻末に掲げられた写真でも明らかなように、著者はどう見ても父親そっくり。ここまで似ていては父親の影を引きずらずに生きるのはさぞ難しいだろうと同情せずにはいられない。著者に「美人意識」があるのは御同慶の至りである。(2009.4.13記)
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by nishinayuu | 2009-06-27 10:06 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『海を渡るジュリア』(R.E.ハリス著、脇明子訳、岩波書店)

c0077412_9333596.jpg「ヒルクレストの娘たち」シリーズの第三巻で、前の二つの巻では脇役だった次女のジュリアの視点から描かれている。
末っ子のセーラを主人公にした第一巻、長女のフランセスを主人公にした第二巻に現れるジュリアは、フランセスほど「大人」ではないがフランセスがいちばん頼りにしているしっかり者の妹である。フランセスがマッケンジー夫人とそりが合わないため、両者の間にはしじゅう波風が立っているが、穏やかな性格のジュリアはそのどちらにも気に入られている。絵の才能にも恵まれているが、美術学校スレイドに行きなさいというフランセスの勧めを退けて、家政婦のアニーといっしょに家事全般をこなしている。実はジュリアは、フランセスの絵の才能は本物で、自分の才能はそれよりずっと劣るありきたりのものだと思っているのだった。そんなジュリアに転機が訪れる。従軍看護婦としてフランスに渡ることになったのだ。フランス戦線にはマッケンジー家の次男であるジョフリーもいた。次女と次男――優秀で周囲からも注目されている兄弟姉妹のなかで目立たない存在であることを自負しているふたりは、急速に親しくなっていく。家族から遠く離れたフランスでは、ジュリアもジョフリーも溌剌として輝いていた。
ジュリアの青春と、その後の結婚生活も描いたこの巻は、1910年から1930年まで、と時代は前の二巻よりずっと後にまで及んでいる。(2009.4.23記)
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by nishinayuu | 2009-06-25 09:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『フランセスの青春』(R.E.ハリス著、脇明子訳、岩波書店)

c0077412_959329.jpg「ヒルクレストの娘たち」シリーズの第二巻。この巻の主人公はパーセル4姉妹の長女フランセスで、第一巻と同じく1910年から1920年までの10年間が、フランシスの視点から描かれている。
両親を相次いで無くしたとき、姉妹四人の代表として弁護士に立ち向かったフランセスは、妹たち、特に末っ子のセーラから見ると頼もしい「大人」だったが、実際は不安でいっぱいの17歳の少女だった。ヒルクレストの家を手放さないこと、妹たちには勉強を続けさせること、自分はロンドンにある美術学校スレイドで3年間勉強すること――フランシスの頭の中はそのことでいっぱいだった。目標に向かってがむしゃらに突き進むフランセスは、周りの人の目には強引で自分勝手に映ることもあった。もともとフランセスは周りの人と上手に付き合う、ということができないたちだった。(それはフランセスが抜群の画才に恵まれていたため、芸術家や天才特有の奇抜さも併せ持っていたからかもしれない。)
マッケンジー家のガブリエルはそんなフランシスを生涯の伴侶にしたいと考えている。フランシスもよき理解者であり相談相手であるガブリエルを愛している。しかしフランシスは絶対に結婚はしない、と心に決めている。母親がせっかくの絵の才能を結婚や子育てでつぶしてしまい、再度挑戦しようとしても手遅れだったために生きる気力を無くした、と信じているからだった。結婚を迫るガブリエル、自分を理解してくれないことに憤慨するフランシス。惹かれ合いながらも互いに相手に腹を立てたまま、ガブリエルは志願して戦場へ行ってしまう。初めは第1次世界大戦の戦場へ、次はアイルランドへ。ふたりの距離が絶望的に離れてしまったときフランシスのもとに、ガブリエルが生死の境にいる、という知らせが入る。(2009.4.20記)
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by nishinayuu | 2009-06-23 09:59 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

英詩「ともしび」 ボーディロン


☆イギリスの詩人Bourdillon のLightという詩を韓国語に訳しました。各行の母音数を12にそろえてみました。

   버딜런
밤은 많은 눈을 가지고 있지만,
낮이 가지고 있는 눈은 하나뿐
그러나, 저물어가는 해와 함께,
밝은 세상의 빛도 사라져가네.

마음은 많은 눈을 갖고 있지만,
가슴이 갖고 있는 눈은 하나뿐.
그러나, 사라져간 사랑과 함께,
평생의 온갖 빛도 사라져가네.

Light    Bourdillon
The light has a thousand eyes,
And the day but one;
Yet the light of the bright world dies
With the dying sun.

The mind has a thousand eyes,
And the heart but one;
Yet the light of a whole life dies
When love is done.

ともしび   ボーディロン
夜には たくさんの目があるが
昼間には ひとつの目しかない
でも 明るい世界の灯は消えてしまう
太陽が しずんでしまうと。

知性には たくさんの目があるが
心には ひとつの目しかない
でも 生涯の灯は消えてしまう
愛の終わるとき。(訳:松浦暢)
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by nishinayuu | 2009-06-20 10:58 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『丘の家のセーラ』(R.E.ハリス著、脇明子訳、岩波書店)

c0077412_10271919.jpgイギリス版『若草物語』ともいえる「ヒルクレストの娘たち」4部作の第一巻。著者はイングランドのグロスターシャーで生まれで、現在はヨークシャーに住む。本書がデビュー作。
物語の舞台はイングランド西南部サマーセットシャーの片田舎。時代は1910年から第一次世界大戦を挟んで1920年までの10年間。主人公はパーセル家の4姉妹、フランセス(17歳)、ジュリア(15歳)、グウェン(13歳)、セーラ(7歳)――年齢はいずれも1910年時――で、この巻は末っ子のセーラの視点から描かれている。
相次いで両親を失ったパーセル家の姉妹は、愛する我が家「ヒルクレスト荘」に住み続けられることになった。フランシスが先頭に立って経済的な問題を懸念する弁護士と闘い、後見人のマッケンジー牧師を味方につけることに成功したからだった。当面の第一の懸案だったセーラの学校の問題も、マッケンジー家の三男アントニーといっしょにマッケンジー氏が教える、ということで解決した。こうしてパーセル家とマッケンジー家との関わりは急速に深まっていく。特にパーセル姉妹の支えになったのがマッケンジー家の長男ガブリエルで、セーラにとっては憧れの人、フランセスにとっては信頼できる相談相手だった。しかし、やがて第一次大戦が始まり、マッケンジー家の息子たちは兵士として、ジュリアは看護婦として戦地に赴くのだった。(2009.4.12記)
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by nishinayuu | 2009-06-18 10:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『雷鳴』(梁石日著、幻冬舎文庫)

c0077412_9343732.jpg時は朝鮮全土が日本の統治下に置かれた1910年代。所は最南端の島・済州島。朝鮮総督府の統治下で、「土地調査事業」が進められていた。この調査は所有区画が不明確な土地、村の共有地などをすべて没収して国有地(=総督府の土地)とする、という日本による土地収奪事業だった。日本軍や国策会社(東洋拓殖株式会社)によって事業は強引に進められ、彼らの手先となり、彼らの威を借りてのし上がる者、彼らに協力することによって自分の土地を増やす者が現れてくる。一方で土地を失い、飢餓に苦しむ農民が大量に発生し、活路を求めて日本に渡る者も出てくる。そういう時代背景とともに一人一人の人間が、善人も悪人もひっくるめて、生き生きと描かれている。

主人公は両班(上流階級)の娘・春玉。18歳のときに有力な両班の家に嫁いだが、相手は10歳の子どもだった。こうした結婚は両班の間ではよくあることで、春玉の両親も母17歳、父10歳の時に、嫁ぎ先の尹家も母・貞姫19歳、父・宗玹8歳の時に結婚している。女たちは幼い夫のためにひたすら働き、子どもを育て、老いていく運命だった。しかし、春玉は芯の強い女性で、春玉を虐げることによって自分の憂さを晴らしているかのような姑にも、未熟で横暴な夫にも決して心を許さない。また、春玉は正義感の強い女性で、下働きの女性の協力を得て「農民暴動の首謀者」とされた男を匿い、逃亡を助ける。そして前向きに生きる女性でもある春玉は、自分の人生を切り開くために婚家を捨てて旅立つのである。(2009.4.9記)
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by nishinayuu | 2009-06-16 09:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『かあさんをお願い』(申京淑著)

c0077412_1048217.jpg『엄마를 부탁해』(신경숙著、창비)
韓国の作家・申京淑が2008年11月に発表した作品。
『離れ部屋』に描かれた家族と重なるある家族の母親が、ソウル駅で地下鉄に乗り損ない、そのまま行方不明になってしまう。歩みの遅い妻を待たずに地下鉄に乗ってしまった父親、駅まで迎えに行かなかった息子や娘たちはその時初めて、妻であり母親である彼女を見失う以前に、彼女のことをずっと「忘れて」暮らしていたことに気づいたのだった。
第1章では「おまえ」という呼称で登場する長女、第2章では「彼」という呼称で登場する長兄、第3章では「あなた」という呼称で登場する父親が語ることばによって、失踪した妻・母親の人となりや家族の歴史が明かされていく。そして第4章には母親自身が一人称で現れて、母親としての喜びを味合わせてくれた次女を見守り、自分の生きてきた道を振り返る。エピローグには再び長女が「おまえ」として登場し、「かあさんをよろしく」という祈りのことばで締めくくる。
第1章の「おまえ」は、多和田葉子の『容疑者の夜行列車』の「あなた」のようにも読めるが、第2章に入るとそうではないことがわかる。すべての呼称の主体は妻・母親なのだ。農家に嫁いで労働と子育てに明け暮れ、夫からも子どもたちからも空気のように思われて老年に到った一人の女性の、切なく哀れな、それでいて実は喜びと幸せにあふれた生涯を情感豊かに描いたすばらしい作品である。(2009.4.6記)
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by nishinayuu | 2009-06-13 10:02 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ルース』(エリザベス・ギャスケル著、阿部幸子、角田米子、宮園衣子、脇山瑞恵訳、近代文芸社)

c0077412_18131619.jpg1810年にロンドンで生まれたギャスケルが1853年に発表した作品。

ルースは優しい両親の愛情につつまれて育ったが、15歳で孤児になってしまう。婦人服仕立店でお針子として働きはじめたルースは、ふとしたきっかけで知りあった貴族の青年ベリンガムとデートを楽しむようになる。そして、このことが雇い主に知られと、ベリンガムに誘われるままに店を飛び出してしまう。二人の逃避行は、ベリンガムが病気になり、母親に連れ帰られたことで終わりを告げる。恋人に捨てられたルースを救ったのは非国教会派の牧師・ベンスンだった。しかしこのとき、ルースはベリンガムの子を妊っていたのだった。

世間知らずで未熟だったルースが、ベンスン姉弟の庇護の下で未婚の母となり、人間的に成長していく過程を感動的に描いた物語。当時のイギリスの宗教風土、社会状況、人びとの考え方などもうかがえて興味深い。(2009.3.28記)
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by nishinayuu | 2009-06-11 18:13 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『我が国の文化における謎 1』(朱剛玄著、ハンギョレ出版)

c0077412_9563169.jpg『우리 문화의 수수께끼 2』(주강현著、한겨레출판)
『韓国文化の謎』と題した2冊本の下巻。著者は韓国民族研究所所長、韓国歴史民族学会会長などを務める学者。
古代から現在に至るさまざまな「謎」が16章に分けて解説、検討されている。日本の鬼と似て非なるトケビを取り上げた章や、味噌・醤油・コチュジャンなどの「醤」文化を取り上げた章は、日本文化との比較もあって興味深い。また、農民の結束を象徴する「風物」、現代に生きるシャーマニズム「ムダン」、韓国版トーテムポールの「チャンスン」、茅葺きの亭子と楼閣の亭子、などの章もいろいろ勉強になる。
各章が短くまとめられており、文章も平明なので、教科書というより気楽に読めるサイドリーダーといったところ。ふんだんに使われているカラー図版も楽しい。ただし、図版の中にはきわどいものもかなりあるので、電車の中などで読む場合は要注意。(2009.3.28記)
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by nishinayuu | 2009-06-09 09:56 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)