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『コレラの時代の愛』(ガルシア・マルケス著、木村榮一訳、新潮社)

c0077412_9422541.jpg『百年の孤独』『落ち葉』『予告された殺人の記録』に続いて私にとって4冊目のガルシア・マルケス。
愛する女性が自分を受け入れてくれるまで、51年9ヶ月と4日待ち続けた男、フロレンティーノ・アリーサ。初めはちょっと惹かれたけれどすぐに嫌になって男を拒絶し続けた女、フェルミーナ・ダーサ。このふたりの長い断絶の日々を、それぞれの暮らしと周りの人びととの関わり、彼らの生きる社会のさまざまな出来事を織り交ぜて綴った長大な物語。

舞台は日陰でも40度を超すことがあるという灼熱のコロンビアの地方都市。時代は1860年から1930年代で、コレラが猖獗をきわめたまさに「コレラの時代」であり、内戦の銃火が絶えることのなかった時代でもあった。が、コレラや戦争の悲惨さは前面には現れず、そんな状況の中でもたくましく生きている人びとの強靱さが浮き彫りにされている。
印象的なのは細かいエピソードがふんだんに盛り込まれていて、しかもその描写にリアリティーがあること。たとえばダーサの夫であるウルビーノ博士が歳のせいで排尿がうまくいかなくなったとき、トイレを汚さないように座って用を足したとか、床に落ちたものは拾わない、灯りは消さない、ドアは閉めないという点では完璧な夫だったとか、ラブレターを書きすぎたアリーサがビジネスレターを書いても韻を踏んでしまうとか、次から次へと愉快なエピソードが並んでいてあきさせない。そして物語の最後に、驚くべきというか納得のというか、とにかくなかなか洒落た結末が待っている。(2008.9.3記)
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by nishinayuu | 2008-11-29 09:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『海に帰る日』(ジョン・バンヴィル著、村松潔訳、新潮クレストブックス)

c0077412_1074823.jpgアイルランド生まれの著者による2005年のブッカー賞受賞作。

美術史研究家である「わたし」は、寂れた海辺にある昔「シーダーの家」と呼ばれていた家にやってくる。かつては2週間または月単位で借りられるサマー・ハウスだったその家に、あの年、グレース一家がやってきた。たくましくて粗野な感じの父親、官能的な母親、口のきけないひ弱そうな少年マイルスと、少年の双子の姉で気むずかしく気まぐれなクロエ。そして双子よりずっと年上の少女ローズ。少年のわたしは、初めは母親に、やがて同年配のクロエに惹かれて、一夏をこの身分違いの一家とともに過ごしたのだった。
大人になった「わたし」は、恵まれた育ちの女性と出会い、平穏な人生を送ってきた。その妻が「自分のような人間は罹るはずのない病」で亡くなったあと、なにかに引かれるようにやって来た「シーダーの家」で、妻との真新しい思い出と、遙か昔のあの夏の思い出が交互に、あるいは重なるように「わたし」の心を捉え、揺さぶる。

繊細でありながら強靱な糸で紡がれた、しなやかでしっとりした織物、といった印象の作品。(2008.8.31記)

☆かつての「シーダーの家」には今、ミス・ヴァヴァソーという管理人がいます。「わたし」のことを覚えているというこの管理人はもしかしたら、と思ったらやはりそうでした。さて、いったいだれでしょう。
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by nishinayuu | 2008-11-27 10:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

「夕べ」 ウイリアム・アリングァム

☆英詩を韓国語に訳しました。各行の音数を12にそろえ、行末の母音も2行ずつそろえました。

저녁 윌리엄 앨링엄
석양에 물들이는 높은 구름들,
다이아몬드처럼 빛나는 금성,
멀리 슬픔에 잠긴 푸른 언덕들,
수의를 입고 누워 있는 내 사랑.

아무래도 눈물은 나오지 않고,
아무래도 말은 떠오르지 않다.
아름다운 여름 날은 사라졌고,
아름다운 내 사랑도 사라졌다.

An Evening William Allingham
A sunset’s mounded cloud;
A diamond evening-star;
Sad blue hills afar;
Love in his shroud.

Scarcely a tear to shed;
Hardly a word to say;
The end of a summer day;
Sweet love dead.

夕日を浴びる盛り上がった雲。
ダイアモンドのようにきらめく宵の明星。
遠く連なる青くくすんだ山脈。
経帷子を着た私の恋人。

涙もでない。
言葉も湧かない。
夏の日の終わり。
死んだやさしいあの人。
『A Poem For You』(朝日新聞社)より
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by nishinayuu | 2008-11-25 09:49 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『羽の音』(大島真寿美著、理論社)

c0077412_1712756.jpg高校三年生の菜生の日々を12月1日から12月31日まで日を追って記した日記形式の小説。
言葉がやわらかく、時間がゆっくり流れている。饒舌さ、騒々しさ、慌ただしさとは無縁の、このふんわりした雰囲気が実に心地よい。

離婚した両親が残していった家で姉といっしょに暮らしている菜生は、ある日学校に行くのが嫌になり、その日以来毎日学校をさぼって家でぶらぶらしている。模範的にきちんとした生活をしてきた姉が、ある日とつぜん会社を無断欠勤し、そのままずるずる休み続ける。二人とも相手を責めたり励ましたりすることはない。ただいっしょにだらだらとさぼり続ける。友人のミキオは自殺未遂で死にかけたあと、一年近く神経科の病院に入院している。その彼を訪ねていっても、菜生は別にミキオに優しいことばを掛けるわけでもないし、ミキオも別にそんなことを期待している様子はない。慰めも、励ましもないまま、ただいっしょに時間を過ごす二人。

身体が、あるいは気持ちが萎えているときは、慰められたり励まされたりするのは煩わしい。相手もいっしょに萎えてくれるのがいちばんいい。相手が萎えているときも、慰めたり励ましたりするのはしんどい。できればいっしょに萎えていたい……と常々思っているのだが、そんな気持ちにぴったり来て実に心地よい読み物だった。ただし、ここに登場する人物たちは萎えっぱなしで終わるわけではない。一時、徹底的に萎えたところから新しいなにかが生まれるのである。(2008.8.26記)
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by nishinayuu | 2008-11-22 17:12 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『虚空の旅人』(上橋菜穂子著、新潮文庫)

c0077412_1054155.jpg「守り人」シリーズの4巻目であるが、タイトルが「守り人」から「旅人」に変わり、物語の世界はさらに大きく広がる。

今回の舞台は新ヨゴ国のはるか南にあるサンガル王国。この国はたくさんの島々から成る海洋国で、各島の島守に王女を嫁がせることによって、そうでなければばらばらの島じまを一つにまとめている。王家の女たちの結束によって国が保たれているのである。また、王国周辺の海にはどの国にも属さず、一生を舟の上で過ごすラッシャローと呼ばれる民がいる。このサンガル王国の「新王即位の儀」に列席するため、各国から王族や高官たちがサンガルの王宮に参集する。新ヨゴ王国からはチャグムとシュガが派遣されてきている。ところが、華やかな儀式の準備が進められるなかで、王国をおびやかす陰謀が島守たちの間で進められていたのである。首謀者は王家の長女を妻としているカルシュ島の島守りであるが、彼の背後には彼を唆して王家への反乱をあおる謎の人物がいた。

この巻は、意志が強く、賢明な王家の女たち、健気なラッシャローの娘、過酷な運命を負わされた漁師の幼い娘など、女性たちについて物語る巻とも言える。そんななかで、女性のように繊細でたおやかなチャグムも大活躍し、人間としても王の跡継ぎとしても大きく成長した姿を見せてくれる。(2008.8.22記)
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by nishinayuu | 2008-11-20 10:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

「歯医者の関心は」   特派員メモ   カイロ

☆新聞のコラム(2008.10.16朝日)を韓訳しました。原文は韓国語の下にあります。

치과 의사의 관심은 특파원메모 카이로

어금니가 아파서 몇일 전에 용기를 내어 치과 의사를 찾아가기로 결심했다. 카이로 부임 이래 최초의 일이었다.
몇 곳에 전화하여, 응대나 예약제의 유무, 소재지 등을 여러모러 감안한 뒤, 가장 괜찮은 곳을 골랐다고 생각했다.
잡거빌딩 2층에서, 두꺼운 안경을 쓴 중년의 치과 의사가 나를 맞았다. 진찰대에 앉았을 때, 눈앞에 심하게 녹이 슨 진료기구가 놓여 있였다. 엉겁결에 숨을 죽였는데, 퉁명한 봉지속에 들어 있었기 때문에 소독이 끝난 것으로 믿기로 했다.
치과 의사는 녹슨 기구로 내 이를 한번씩 꼼꼼히 점검했다. 시간이 오래 지나도 끝나지 않아서 불안감이 일어나기 시작할 무렵, 큰 소리로 말했다. “퍼펙트!” 그리고 “일본에서 치료를 받았어요?” 라고 물었다. 고개를 끄덕였더니, “이렇게 깨끗이 치료할 수 있다니. 역시 일본이다” 라고 했다.
그리고 이번에는 치료를 끝낸 이를 확대경으로 관찰하기 시작했다. [치료하는데 몇일 정도 걸렸는지] [메우는 봉의 재질은 치과 의사하고 의논해서 정했는지] 등 등 잇달아 질문을 퍼부었다. 진찰과 뢴트겐 찰영은 약 한 시간이 걸렸는데, 결국 충이는 찾아낼 수 없었고, 치통의 원인도 판명되지 않고 말았다.
돌아가려 할 때 치과 의사가 말했다. “오늘은 대단히 참고가 됐습니다. 무슨 일이 있으시면 또 오십시요.”

「歯医者の関心は」   特派員メモ   カイロ
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by nishinayuu | 2008-11-18 10:25 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『月は無慈悲な夜の女王』(ロバート・A・ハインライン著、矢野徹訳、早川書房)

c0077412_942516.jpg時は2075年。月は地球の行政府が管理する地球の植民地だった。月の住民は前科者をはじめとして何らかの理由で地球を追放された者たちとその子孫。主人公のマヌエル・ガルシア・オケリーは祖父の代から月世界に住むコンピューター技術者で、個人請負業者として行政府のコンピューターの維持管理をしている。そんな彼がある日、行政府のコンピューターの親玉であるマイクが「目覚めた」ことに気づく。マイクはある時期から思考能力と感情を持つ生きものになっていたのだ。行政府のすべてを握っているマイクと心を通い合わせた主人公は、マイクからマンと呼ばれるほどに信頼されるようになる。このマイクを中心に据えて主人公、ワイオと呼ばれる若くて魅力的な女性、老練な指導者である教授が手を組み、月世界の人びとをまとめて月世界を地球から独立させる、という壮大な事業に乗り出す。

ハルよりも、IBMよりもはるかに進んだコンピューターであるマイクの活躍ぶりが壮快。(2008.8.20記)

☆タイトルが印象的でなかなかいいですね。でも『流れよ我が涙、と警官は言った』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の奇抜さには負けている?
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by nishinayuu | 2008-11-15 09:43 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『Mists of Dawn』(Chad Oliver著、 The John C. Winston Company)

1952年に初版が出たSF。著者はアメリカのSF作家であり人類学者でもあるチャド・オリヴァー(1928~1993)。
主人公のマーク少年は、叔父であり育ての親であるドクター・ナイが作ったタイムマシーンに乗り、ふたりで古代ローマに行こうとしていた。ところが出発の準備をしているときに、ちょっとしたした手違いから一人きりで古代ローマよりはるかに遠い過去――50000年前に飛ばされてしまう。普段着のまま、食料も水の用意もないまま、マークはネアンデルタール人やマンモスの住む土地に放り出されたのである。

ネアンデルタール人たちに狩られてタイムマシーンからどんどん離れてしまうマークの運命やいかにというスリルと、人類の夜明けの描写のおもしろさで読ませる小説であるが、主人公のマークが話の途中で死ぬわけはないので、スリルのほうはほどほどで、主眼は人類学の研究成果をいかした人類の夜明けの地球はどんなだったかである。時代をネアンデルタール人とクロマニヨン人が入れ替わる時期に設定し、ラスコーの洞窟壁画と思われるものも登場させている「人類学的SF」である。

なお、島朝夫の訳で『地球の夜明け』というタイトルの日本語版が1956年に石泉社から出版されている。(2008.8.14記)
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by nishinayuu | 2008-11-13 09:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

「ロボットはどこ」   特派員メモ   ウムタタ(南アフリカ)

☆新聞のコラム(2008.8朝日新聞)の韓国語訳です。原文は韓国語の下にあります。

로봇은 어디 있니? 특파원메모 움타타(Mthatha)

올 여름 90살이 된 남아프리카의 넬슨 만델라(Nelson Mandela) 전대통령이 어린 시절을 보낸 남동부의 동네에 가려고, 가장 가까운 시가인 움타타에 비행기로 들어갔다.
예약해 놓은 작은 여관으로 렌터카로 가기 위하여, 여관 안주인 한테 전화로 길을 물었다. 보통때는 네비게이터가 달려 있는 차를 빌려 편한 드라이브를 즐기지만, 그 때는 그런 차가 다 대여중이었다.
“커다란 주유소를 지나가면 로봇이 보이니까, 우회전을 하세요. 그러면 또 하나 로봇이 나타나는데, 다시 우회전하면 금방이에요.”
“와! 로봇이니? 그럼 쉽지.”
어떤 로봇인지 모르겠지만, 가게 따위의 선전용 인형을 말하고 있는것 같다. 시골 읍내의 눈에 띄는 표시에 틀림없다.
그런데, 가도 가도 로봇도 인형도 로봇을 그린 간판도 없다. 여관의 간판은 당연히 없다. 초원밖에 보이지 않는 이웃 동네로 들어갔다. 공교롭게도 안주인의 전화는 마침 통화중.
30분 정도 찾아 다니다가 단념하고, 주유소로 돌아가서 종업원에게 물었다. “저기, 로봇이죠”. 그때 비로서 신호기가 이 나라에서는 로봇이라고 불리는 것을 알았다. 여관은 금방 찾아낼 수 있었다.
이름의 유래는 알 수 없다. 신호기를 처음 본 사람들이 얼마나 놀랐는지만은 상상할 수 있지만……

「ロボットはどこ」   特派員メモ   ウムタタ(南アフリカ)
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by nishinayuu | 2008-11-11 13:38 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『ピアノ・ソロ』(ジャン・エシュノーズ著、谷昌親訳、集英社)

c0077412_10313179.jpgふたりの人物を描いたカバー絵が滑稽な雰囲気なのでお気楽な小説かと思いきや、重くはないけれども決して軽くもない、なかなか読み応えのある作品だった。

舞台はパリ。物語は、「二人の男が、ローマ通りからやって来て、クールセル大通りの奥に姿を現す」という文で始まる。二人というのは、なにかをひどく怖れて黙り込んでいる白髪の男と、怖れを忘れさせてやるために絶え間なく話し続ける年下の男である。年下の男はもう一人をモンソー公園に導き、音楽家や詩人の像の間を通りながらもショパンの像は巧みに避けてひとまわりしたあと、ヴァン・ダイク通り、オッシュ通りを抜けてとある建物に連れて行く。そして広く暗い空間に辿り着いたとき、もう一人の男の背中を勢いよく押す。男が押し出された場所は聴衆のあふれる音楽会場の舞台の上だった。男は、ここにいる以上、弾こうじゃないか、と居直って弾き始める。ショパンのピアノ協奏曲第2番を。

つまりこの二人は、演奏会恐怖症のピアニストとその世話係だったわけで、このあとピアニストの日常、彼の関わっている人たちのことが語られていくのだが、三分の一ほど読み進んだところで突然彼は暴漢に襲われて命を落としてしまう。ここまでが第1部。このあと第2部、第3部、と依然としてこのピアニストを主人公として奇想天外な物語が展開していく。

主人公の人物像がなかなか面白い。パリの描写も魅力的。テンポよく話が進んであきさせないし、後味も悪くない。訳者のあとがきによると凝った仕掛けがいろいろあるようだが、細かいことにこだわらずにさらっと読んでも充分楽しめる。(2008.8.9記)
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by nishinayuu | 2008-11-08 10:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)