<   2007年 05月 ( 15 )   > この月の画像一覧

『光ってみえるもの、あれは』(川上弘美著、中央公論社)

c0077412_15302588.jpg語り手の「僕」は高校生で、名前は江戸翠。エドミドリ(!)と読む。僕は祖母、母と三人で暮らしているが、幼いころは祖母のことを「おかあさん」と呼んでいた。小学校入学に際して、「お母さん」だと思っていた人が実は祖母の「まさこさん」で、頼りない感じの愛子さんが実は「おかあさん」だと教えられてとまどったのだった。僕には「おとうさん」がいなくて、ときどき訪ねてくる大鳥さんが遺伝子上の父親だ、ということがだんだんわかってきた。僕と同じ高校には、小学校から一緒の花田とガールフレンドの平山水絵がいる。担任教師のキタガーくんというのもいて、教師くさくない、いい感じの教師である。このような変則的な家庭の風変わりな家族たちと、悩み多き青春まっただ中の友人たちに囲まれていれば、まさこさん言うところの「ぼんやりもの」の僕も、いつまでもそのままでいられるはずもない。転機は夏休みにやってくる。
登場人物ひとりひとりが個性的で魅力的。詩歌の一節や小説のタイトルから取った語句が各章のタイトルになっているのもしゃれている。(2007.4.26記)
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by nishinayuu | 2007-05-30 16:38 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『毛糸よさらば』(ジル・チャーチル著、浅羽莢子訳、創元推理文庫)

c0077412_15293661.jpgシカゴに住む三人の子持ちの主婦・ジェーンが活躍するミステリー。
物語の始まりは12月10日の午前8時37分。無人の家に、テレビとステレオの大音量が響きわたり、コーヒー・メーカー、ボイラー、乾燥機がそれぞれ異常音を発し、電話が鳴り続けているなかでネコどもが食べ物をあさっていて、犬も猛然と吠えている。そこへ車出しに乗り入れる車の排気音が加わり、38分にすさまじい様相の主人公ジェーンが登場する、という何ともにぎやかな滑り出し。寝坊したジェーンが、大急ぎで子どもたちに食事をさせ、近所の子どもたちと一緒に学校に送り届けてきたところ、というわけだ。このあともジェーンは大忙し。親友のシェリーが運転する車に乗り、車中でバザーに出す膝掛けを編み続けながら、空港へ昔の友人・フィリスを迎えに行き、家まで連れてきたあと、バザー会場となるフィオーナの家に荷物運びの作業をしに行き、といった具合。クリスマスを控えたこの時期、子どもたちの世話に、学校への送迎当番、バザーの準備だけでも大変なところへ、さほど親しくもないフィリスと、予定外のちん入者であるたちの悪いその息子が泊まりに来て、しかもいつまでいるつもりかわからない、という異常事態なのである。そんな中で事件が起こる。殺人事件が続けて2件も。こうして、主婦業にはあまり身が入らないけれども、探偵シゴトにはつい乗り気になってしまうジェーンの忙しさはいや増すのである。(2007.4.25記)

☆原題はA Farewell to Yarns。『武器よさらば』(A Farewell to Arms)のもじりですね。
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by nishinayuu | 2007-05-28 09:47 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

「狭い箱」の悲哀

☆新聞のコラム(2005.4.13朝日新聞)を韓国語にしました。原文の日本語は韓国語の下にあります。

특파원 메모 뉴욕
[좁은 상자]의 비애

이 도시에서 필요불가결한 엘리베이터와 요리 배달원. 대도시의 거주와 식사를 지탱하고 있는 이 두 가지는 서로 밀접한 관계를 가지고 있다.
이 달초에 브런크스(Bronx) 지구에 있는 빌딩으로 요리를 배달한 35살의 중국인 배달원이 사라졌다. 역옆에 있는 38층 건물인 트윈타워밖에 배달용 자전거가 서 있는 것으로 봐서, 주변에서 뭔가 일어난 것이 분명했다. 이전에 중국인 배달원이 살해된 사건이 있었으므로 뉴욕시경찰이 수사를 시작했다.
그 때 문이 망가진 주민도 있다고 하므로 꼼꼼한 수색이 실시된 모양이다. 그 사람을 찾아낸 것은 80시간 후. 3층과 4층의 사이의, 엘리베이터속에서 였다.
움직이고 있지 않는 엘리베이터를 의심하지 않는 것은 무엇 때문일까? 경찰의 공보담당자는 “이전부터 운전을 정지하고 있었다는 이야기를 들었다” 고 말한다. 그 빌딩의 경비원은 “경보 누름 단추를 누르면 되는 것을 왜 안 눌렀을까?” 라며 의아스러워하는 얼굴이다. 그 배달원은 구조를 청하려고 외쳤다라고 하지만, 영어는 거의 말하지 못했던 것 같다.
무사히 구출됐지만 그에게는 새로운 걱정가 생겼다. 그는 또 다른 의미로 도시에서 불가결한 사람들 중 하나였다. 불법체류자다. 당국이 단속을 강화하더라도, 도시의 생활을 저변에서 받치는 그들은 50만 명 남짓으로 늘어나고 있다. 찾아주었으면 하지만 발견되는 것은 원치 않는다. 좁은 상자속의 심경은 실은 복잡했던 모양이다.
(에기 신고)

「狭い箱」の悲哀
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by nishinayuu | 2007-05-26 11:24 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『閉じた本』(ギルバート・アデア著、青木純子訳、東京創元社)

c0077412_1528434.jpg原題はA Closed Book。「閉じた本」という意味の他に、「全く理解できない事柄、得体の知れない人」という意味がある。
主な登場人物は二人だけ。ひとりはブッカー賞も受賞している作家、ポール。交通事故で顔に大きな損傷を受け、両目も失って、4年の間、世間から隠れるように暮らしていたが、回想録を書こうと思い立つ。もうひとりは、ポールが出した求人広告に応じてきた青年、ジョン・ライダー。「面接」を経て採用されたジョンは、ポールの目となって物事を観察し、それをポールに伝え、ポールが口述する文章を筆記することになる。こうして、目を失う前の記憶に頼り、自分流のこだわりを崩さずに暮らしてきたポールは、ジョンの目を頼りに、ジョンの語る世の中の変化に驚きつつ回想録の執筆を進める。しかしポールはやがて、ジョンの目を得てからのほうがかえって以前より物事が見えなくなっているように感じ始めるのである。
物語はふたりがやりとりする会話の部分と、ポールの独白部分とからなっている。大きなポイント、イタリック体で書かれたこの独白部分、量は少ないがあとで大きな意味を持ってくるので要注意。(2007.4.21記)

☆ポールの不安が募るにつれて、読者の不安も増していく仕掛けになっています。大団円のおぞましい事件が起こった時点では、謎が解けてかえってホッとしました。
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by nishinayuu | 2007-05-24 09:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『遺失物管理所』(ジークフリート・レンツ著、松永美穂訳、新潮クレストブックス)

c0077412_1527543.jpg作品の舞台はドイツの大都市。長距離列車が発着する駅の遺失物管理所に配属された青年、ヘンリー・ネフが主人公である。物語は彼が遺失物管理所に初めて出勤するところから始まり、彼の目を通して二人の先輩職員と所長、そして遺失物管理所の仕事が紹介されていく。この、滑り出しの部分が快調で魅力的なので、その後の展開への期待感がそそられる。
ネフは実は鉄道会社の上層部に叔父がいるし、家柄もいい。そんな彼がなぜ出世コースから外れた遺失物管理所に配属されたか、遺失物管理所で働く人たちも、そして読者も疑問に思うのだが、そのわけは物語の進行と共に自然にわかってくる。彼は上昇志向の全くない青年で、だからといって無気力でもいいかげんでもなく、遺失物管理所の仕事を楽しみながらこなしていくうちに、いつの間にかベテランの遺失物係になっていくのである。
遺失物管理所の所長、先輩職員のアルベルト、パウラ、姉のバーバラ、パシュキール人の数学者・フェードルなどの登場人物に注ぐ作者の目が温かく、心地よい。(2007.4.20記)

☆この作者の『アルネの遺品』は、書評でいかにも名作ふうに紹介され、内容もいかにも名作ふうに進行していくけれども、何か物足りなさの残る作品でした。『遺失物管理所』は冒頭から作品の世界に引き込まれ、一気に読み、幸せな気分で読み終えました。
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by nishinayuu | 2007-05-22 11:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

韓国の詩「つつじの花」 金素月

c0077412_17114534.png☆韓国の詩「つつじの花」を日本語にしてみました。原詩が3音、4音、5音の組み合わせなので、7音を基調にして訳してみました。原詩は日本語訳の下にあります。また、作者については右のマイリンクにある「韓国の著名人」ののところをご覧ください。

つつじの花   金素月

わたしの顔など見たくもないと
立ち去っていくおつもりならば
なにも言わずにあなたのことを
そのまま行かせてさし上げましょう

寧邊(ヨンピョン)にある薬山に咲く
つつじの花を 持ちきれぬほど
摘み取ってきて あなたの歩む
その足元に撒き散らしましょう

あなたの歩む道に置かれた
つつじの花を 一足ごとに
静かにそっと踏みしめながら
わたしの許を立ち去りなさい

わたしの顔など見たくもないと
立ち去っていくおつもりならば
何があろうとあなたの前で
涙を見せたりするものですか

진달래꽃 김 소 월

나 보기가 역겨워
가실 때에는
말없이 고이 보내 드리오리다.

영변에 약산
진달래꽃,
아름 따다 가실 길에 뿌리오리다.

가시는 걸음 걸음
놓인 그 꽃을
사뿐히 즈려 밟고 가시옵소서.

나 보기가 역겨워
가실 때에는
죽어도 아니 눈물 흘리오리다.
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by nishinayuu | 2007-05-20 16:46 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『からくりからくさ』(梨木香歩著、新潮社)

c0077412_1527230.jpg5冊目の梨木香歩。
蓉子の祖母が亡くなったあと、その家を空き屋にしないために、染色の仕事をしている蓉子が1階部分を工房にし、2階に下宿人を置くことになった。こうして蓉子、マーガレット、紀久、与希子、という若い女性4人の共同生活が始まる。紀久と与希子は美大の学生で、機織りをやっており、マーガレットは鍼灸を学んでいる。4人とも、広い意味で手仕事の人である。実はもう一人、「ただの人形ではない」人形のりかさんがいる。りかさんは、祖母の道行きにつきあって喪に服しているので、今のところは「ただの人形」になっているが。
はじめのうち、りかさんの存在にとまどっていた紀久と与希子も、りかさんの存在を認めなかったマーガレットも、自分たちがどこかでりかさんとつながっていること、また現在は過去からずっとつながっており、今いる場所は外の広い世界とつながっていることを理解していく。(2007.4.16記)

☆以上のような話なのですが、主要人物4人の像がくっきりと浮かび上がってこないので、だれにも感情移入できませんでした。そもそも「与希子」はどう読むのでしょうか。佐伯というごくふつうにある姓にはルビがついていて、なぜ与希子にはルビがないのか、理解に苦しみます。(4.18記)
読書会の仲間で、この本を読んでいるふたりが、「ヨキコ」と読んだと言うので、改めて考えてみました。人形の衣装に斧(よき)、琴、菊が描かれていて、「よきこときく」と言う意味が込められている、という部分があったことを思い出しました。もしかしたら、与希子も紀久もここから名付けられた名前だった、ということでしょうか。作品にのめり込めなかったせいで、読みが浅かったかもしれません。それでもやはり、名前にはルビがあったほうが……。(4.19記)
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by nishinayuu | 2007-05-18 14:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『虹色天気雨』(大島真寿美著、小学館)

c0077412_15261183.jpg5冊目の大島真寿美。これまでの4冊と違って、この作品に登場する女性たちはしゃきっとしている。
主人公の市子が、仲良しの友人奈津に早朝の電話でたたき起こされ、奈津の娘、美月を一日預かることになる。寝ぼけていて事情がきちんとつかめなかった市子と、事情を察してはいるが「わたしは知らないことになっている」という美月が、微妙なやりとりをしながら一日をともにする。奈津の夫、美月の父親である憲吾が、家のお金200万円を手に姿をくらましたのだった。市子のもう一人の親友まりも加わって、憲吾探しが始まるとともに、それぞれが自分を振り返る日々が始まる。

☆大島真寿美の本は、悪い結末にはならないという安心感があるので、ゆったりとした気分で楽しく読めます。それからこの本で気がついたことがひとつ。市子が美月に「それにしてもあんたは野菜を食べなすぎる」と説教することば。いまどきの「さつきことば」にはなっていないのですね。ところが別のところではゲイの三宅ちゃんに「欲しがらなさすぎるのもまたね」と言わせています。たまたまそうなったのかもしれませんが、人物によって使い分けているとしたら……。隠れ大島真寿美ファンになっちゃおうかな、と思ったくらい気に入りました。(2007.4.11記)
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by nishinayuu | 2007-05-16 12:12 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

五月の歌

☆英詩を韓国語にしてみました。原詩の脚韻に合わせて、訳詞も1行目と3行目、2行目と4行目の最後の音を揃えました。また、各行の母音の数が10.15.10.15になるようにしました。
韓国語訳の下に、原詩、その下に松浦暢による日本語訳があります。

오월에
교회의 벨이 울리고 있다:
대지가 어찌 이리 푸르고 아름다운가!
지빠귀가 지저귀고 있다:
이 대기를 숨쉬기가 어찌 이리 기쁜가!

교회의 벨이 울리고 있다:
보라, 저기 시내가 꿈길을 더듬고 있네!
지 빠귀가 지저귀고 있다:
초록 화염이 부드럽게 흔들리고 있네!

교회의 벨이 울리고 있다:
온 천지에 찬미와 기도가 감돌고 있네!
지빠귀가 지저귀고 있다:
안식일의 평화가 천지에 넘치고 있네!

In May     James Thomson
The church bells are ringing:
How green the earth, how fresh and fair!
The thrushes are singing:
What rapture but to breathe this air!

The church bells are ringing:
Lo, how the river dreameth there!
The thrushes are singing:
Green flames wave lightly everywhere!

The church bells are ringing:
How all the world breathes praise and prayer!
The thrushes are singing:
What Sabbath peace doth trance the air!

五月の歌         松浦暢訳
御堂の鐘はなる ああ
どんなにか 大地の青く爽やかに美しいことか
つぐみは 高らかに さえずりうたう
ああ なんという恍惚だ 大気を呼吸するのは。

御堂の鐘はなる 見よ
むこうの せせらぎの 夢みるさまを。
つぐみは 高らかに さえずりうたう
見はるかす 野路のおちこち
みどりなす 炎の波が ひたゆれる。

御堂の鐘はなる
世はすべて、 ことほぎと祈りの声よ
つぐみは 高らかに さえずりうたう
ああ 安息日の平和 ふかぶかと 空に溢れる。
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by nishinayuu | 2007-05-14 13:10 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

『小さな町で』(シャルル=ルイ・フィリップ著、山田稔訳、みすず書房)

c0077412_15251875.jpgフランスのほぼ中央に位置するアリエ県セリイを舞台に繰り広げられる、19世紀から20世紀初めのころの庶民の暮らしを描いた作品。素朴で、人情味があり、時には滑稽で、時には悲惨でグロテスクな33の短編からなっている。冒頭の「帰宅」は次のような話。

ある男が4年ぶりに我が家の戸をたたく。「どうぞ」と応じる声に、男は中に入って椅子に腰を下ろす。妻は夕食のパンを切り分けていたが、前掛けをつかんで顔を覆う。泣いているのだ。3人の子どものうち、下のふたりは男に関心を示さないが、13歳の長女は父親の帰宅を喜ぶ。そこへまた誰かが入り口の戸を開いて入ってくる。大工のバティストで、男とはよく知り合った中だった。男はバティストの落ち着きはらった態度を見て、彼が一家の主であることを悟る。バティストに勧められて男は夕食の席に着き、静かに語り合う。子どもたちに小遣いを渡すと下のふたりは「おじちゃんありがとう」という。寝に行く前に長女は「帰らないで!帰らないで!」と男にしがみつく。けれども男は去らねばならない。ずっといるつもりでトランクを持ってきていたのだが。6キロの道を歩いて11時の汽車に乗るために男は立ち上がり、妻に別れのキスをする。そして手をさしのべたバティストに言う。「おれたちもキスをしようよ」と。
(2007.4.9記)
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by nishinayuu | 2007-05-12 10:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)