カテゴリ:読書ノート( 1058 )

『開幕ベルは華やかに』(有吉佐和子著、新潮社)

華やかな演劇界を舞台に、殺人事件が起こる。事件のまっただ中にいる劇作家からの強引な依頼によって、事件の解決に奔走することになるのは、劇作家のもと夫である推理小説作家。この男、不眠症という弱点はあるが、仕事が良くできる上にダンディで、グルメぶりも堂に入っている(だけど、もっと野菜を食べなくちゃあ!)。登場人物の中には実在の人物が反映されているものも多いようで、演劇界に詳しい読者ならそんなところも楽しめそう。

☆この本は神田の古本屋街を歩いていたときに、安さにつられて衝動買いしました。価格は100円だったか200円だったか忘れましたが、とにかくとってもお買い得な本でした。
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by nishinayuu | 2006-08-11 21:56 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『錆びる心』(桐野夏生著、文春文庫)

c0077412_2243910.jpg短編集。「虫卵の配列」「羊歯の庭」「ジェイソン」「月下の楽園」「ネオン」「錆びる心」の6作品がが収録されている。
「月下の楽園」はサキの作品に通じるものを感じさせる。他の作品もそれぞれ趣向が凝らされていて楽しめるが、精神的に弱っているときには読めないだろうという気がする。
これとほぼ同時に読んだ同じ作者の『天使に見捨てられた夜』(講談社)は、上記の作品とはがらりと趣向の違う推理小説。女探偵・松野ミロがかっこよすぎなくていい。血みどろの場面がないのもいい。

☆サキ(Saki 1870~1916)はスコットランドの作家。本名はHector.H.Munroといい、O.Henryと並び称される短編の名手。風刺の効いた、ブラックユーモア的な作風が特徴。
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by nishinayuu | 2006-08-10 22:36 | 読書ノート | Trackback(1) | Comments(0)

『光の帝国』(恩田陸著、集英社文庫)

c0077412_224222.jpg副題「常野物語」。膨大な書物を暗記する能力(『大きな引き出し』)、近い将来を見通す能力(『2つの茶碗』)など、特殊な能力を持ちながら、権力への志向を持たずにひっそりと生きる人々――遠野を連想させる架空の地・常世にルーツを持つ一族の物語。
いくつかの独立した短編で構成されており、話が細切れなため、常世の全体像が今ひとつつかみにくい。その点がやや物足りないが、文がなめらかで読みやすく、内容も爽やかなので、気持ちよく読める。

☆この著者はしばらく前までは性別不詳の作家の一人でしたね。「陸」というのは男の子の名前によくありますから。先日はテレビのクイズ番組で、北村薫の性別が問題になっていました。男女がはっきりしないペンネームを使うのは、作家の性別によって先入観を持って読むことはしないでほしい、という作家のメッセージなのでしょう。
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by nishinayuu | 2006-08-07 17:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『トト』 (キムサンファ著)

c0077412_1553356.jpg『또또』( 김상하著、 임근우絵、 열매출판사)
副題は「おんぼろ横町の小さな哲学者」。「トト」は主人公の少年の通称で、「また、また」という意味。この少年が生まれるときに父親が、貧しいのにまたまた子どもか、とあきれて発したことばが通称になってしまったもの。
働き口がなくて酒浸りになっている父親、経済的にも精神的にも一家の支えになっている物静かで温かい母親、ちょっと悪ぶっている兄、勤め先の中年男と恋愛中の姉。そんな家族に振り回されながらも家族を気遣うできのいい末っ子のトト。兄が親に反発しているときも敬語で話しかけるという言語習慣や、庶民の暮らしぶりなどがわかっておもしろい。
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by nishinayuu | 2006-08-06 20:51 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『優しいサヨクのための喜遊曲』(島田雅彦著、福武文庫)

話題になっていた頃に読み損なった本。ただし、話題になっていた頃に読んでもあまり共感できなかったかもしれない。サヨクのせいではなく世代の違いのせいではないかと思う。少し上の世代の柴田翔『されど我らが日々』には共感できたのだけれど。ちなみに、島田雅彦が以前、土曜日の朝日新聞「be」に連載していた随想「快楽急行」はとても楽しい読み物だった。
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by nishinayuu | 2006-08-03 14:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『水に眠る』(北村薫著、文藝春秋社)

c0077412_2241462.jpg短編集。「矢が三つ」「弟」「ものがたり」がよかった。様々な文体を使い分ける達者な作者である。友人?の作家たちが1編ずつ担当している巻末の「贅沢な解説」が面白くもあり難しくもあり……。

☆この作者の作品で、最初に読んだのは『スキップ』。続いて『リセット』と『冬のオペラ』も読みました。
『スキップ』は、青春時代をすっかりスキップさせられてしまった主人公が、嘆き、戸惑いながらも、その理不尽な運命に立ち向かい、次第に受け入れていくという、成人女性の「成長物語」。
『リセット』はSFファンタジーとしてよくありそうな話ですが、それでも、ほんとうにこんな事があったらいいな、と思わせる作品。この作者らしく、ディテール描写が念入りで、その点も楽しめます。
『冬のオペラ』は推理ものですが、トリックはあまり納得できませんでした。もしかしたら作者は「椿姫」に関する知識を生かすためだけにこの作品を書いたのでは、と勘ぐってしまいました。
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by nishinayuu | 2006-08-02 22:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『朝鮮の路地裏風景』 (姜明官著)

c0077412_2240785.jpg『조선의 뒷골목 풍경』( 강명관 著、푸른역사)

朝鮮時代の人々の暮らしぶりを活写した読み応えのある本。地の文の韓国語は読みやすかったが、引用された資料の部分は文体も語彙も古い「古文」が多くて難儀した。難しすぎるので飛ばしてしまった部分もある。
取り上げられている項目は民衆医、盗賊、賭博、禁酒令、科挙、姦通、やくざ者、放蕩、など。特に科挙と姦通の項は「目から鱗」だった。
また、この本は装丁もすばらしく、写真や絵画がふんだんに使われているのでそれを見ているだけでも楽しい。

☆この本は、韓国語講座の先代講師からいただいたものです。日本文学の研究者で、文章やことばに対する感覚が鋭敏な韓国女性であるこの方が「この本はきちんとした韓国語で書かれているので、おすすめです」とおっしゃっていました。
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by nishinayuu | 2006-07-30 15:26 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『新女性を生きよ』(朴婉緒著、朴福美訳、梨の木舎)

原題「그 많던 싱아는 누가 다 먹었을까(どこにでもあったあのスイバはだれが食べ尽くしたのか)」
翻訳のタイトルは失敗ではないだろうか。原題だとどんな内容なのか読んでみたくなるが、翻訳のタイトルではちょっと引いてしまう(友人が貸してくれたので引く暇がなかったが)。
日本に支配された植民地時代と、解放後に全土を蹂躙した朝鮮戦争時代――この2つの時代を生き抜いた2代の女性の物語。最後の場面は衝撃的、かつ感動的。

☆著者についてはマイリンクにある「韓国の著名人」の【ㅂ】をご覧ください。
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by nishinayuu | 2006-07-29 13:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ひとたびはポプラに臥す-1』(宮本輝著、講談社)

c0077412_22391218.jpg読書会「かんあおい」2005年11月の課題図書。
『パイプのけむり』シリーズで読んだ團伊玖磨の西域の旅は、豪勢・優雅な、王侯貴族の旅で、異国情緒が満喫できるものだった。それに比べると宮本輝の旅は、食べ物や人間関係に悩まされつつのどろどろしたもので、それはそれで魅力的だ。この先がどうなるか気になるので、2巻目以降も読もうという気にさせられる。


☆読書会で取り上げたのは最初の1巻だけでしたので、このあとの巻(2~5)は自分で読みました。巻5の感想は以下の通り。

読み進むにしたがって宮本輝もシルクロードもますます魅力的になる。中国人通訳・フーミンちゃんとの遠慮のないやりとりが、宮本輝の人柄もフーミンちゃんの人柄っもくっきり浮かび上がらせる仕掛けになっている。
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by nishinayuu | 2006-07-26 21:18 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『鳥よ鳥よ』 (申京淑著)

c0077412_15474624.jpg『새야새야』(신경숙 著、문학시상사)

『浮石寺』で李箱賞(日本の芥川賞のようなもの)と受賞した申京淑の短編。『遠野物語』より現代に近い時代の、『遠野物語』のような世界、といった感じの作品。『浮石寺』の場合もそうだったが、「雪」が重要な役割を果たしている。物語の終わりの部分は、本来の使い方と新しい使い方両方の意味で「鳥肌が立った」。

☆著者についてはマイリンクにある「韓国の著名人」の【ㅅ】を、「浮石寺」についてはマイリンクにある「韓国の地名」の【ㅂ】をご覧ください。

☆「鳥肌が立つ」は小学館の大国語辞典では
寒さや恐怖などの強い刺激によって、皮膚に鳥肌ができる

となっています。けれども「鳥肌」は立毛筋の収縮によって起こる現象ですから、寒さや恐怖だけでなく、強い感動や喜びを受けたときに鳥肌が立つことは充分考えられます。新しい使い方が出てきたときには「えっ?」と思いましたし、今でも抵抗はありますが、使う人の気持ちも理解できます。それで、試しに私も使ってみました。
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by nishinayuu | 2006-07-25 16:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)