カテゴリ:読書ノート( 1093 )

『黒い塔』(P.D.ジェイムズ著、小泉喜美子訳、早川書房)

舞台はイギリスはドーセットの海岸にある身体障害者用療養所。そこの付属施設で暮らす古い知り合いの神父から、相談したいことがある、という手紙を受け取ったダルグリッシュ警視がそこを訪れてみると、神父は直前に死亡しており、ほかにも一人、神父と前後して変死している。その後も変死や、忌まわしい歴史を持つ黒い塔での火事騒ぎがあったりする中で、入寮者たちのルルドへの巡礼計画はいつも通り進められていく。
ダルグリッシュはホームズのような何でもお見通しの名探偵ではなく、すらすらと問題を解決するどころか、問題点もなかなかつかめずにいる。そこがダルグリッシュの魅力でもあるのだということが、シリーズの何冊かを読んでやっとわかってきた。この本は訳がこなれていて読みやすい。
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by nishinayuu | 2006-10-27 23:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『Pygmalion 』(Bernard Shaw著、英潮社)

c0077412_1644233.jpg映画「マイ・フェア・レディ」の原作なので、映画の画面を思い浮かべながら読めば、楽しさ倍増。ただし、当然のことながら、かの有名な「スペインの雨」「踊り明かしたい」「君住む街」などの歌は聞こえてこない。それに、そもそもこれらが歌われる場面に相当する部分が原作にはないのだ。また、物語の結末も映画とは違っており、どたばた調の皮肉な終わり方になっている。なるほどこれがバーナード・ショウか、という感慨を覚えると同時に、この原作をすてきなミュージカルに仕立てた映画製作者の手並みに感嘆してしまう。
英潮社のこの本はPenguin bookと注釈書を組み合わせたもの。注釈書は語句の注解やエピローグの解説が懇切丁寧で大いに役立つ。

☆画像はDover Thrift Editionのものです。
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by nishinayuu | 2006-10-23 15:26 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ナイチンゲールの屍衣』(P.D.ジェイムズ著、隅田たけ子訳、早川書房)

看護婦養成所「ナイチンゲール・ハウス」で起きた変死事件。おなじみの(私の場合は、3冊目にしてやっとおなじみになった)ダルグリッシュ警視が、所内の複雑な人間関係のひだに分け入り、入念な聞き込みと思索によって真相を解明する。
冒頭と締めくくりがなかなかいい雰囲気で、ジェイムズの作品では、初めておもしろく読めた。ただ、訳文は読みにくい部分が随所にあって、少々疲れる。
この作品は、英国推理作家協会賞(シルヴァー・ダガー賞)を受賞している。
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by nishinayuu | 2006-10-22 14:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ある殺意』(P.D.ジェイムズ著、青木久恵訳、早川書房)

1963年に刊行された、ダルグリッシュ警視シリーズの初期の作品。ジェイムズが得意とする病院もの、看護婦もののひとつで、ロンドンの診療所で起きた密室殺人事件を扱っている。被害者は、死の直前に病院内のなにかの不正をつかんでいたらしいボーラム事務長で、人に好かれるタイプの女性ではなかったようなのだが、怪しい人物はなかなか浮かび上がらず、捜査は難航する――という具合。
あらゆることが同じような比重で語られていて、推理に役立ちそうなヒントや伏線らしきものが見あたらない(読み方が悪い?)。読者としては推理の楽しみを奪われたままつきあわされる感じがする。
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by nishinayuu | 2006-10-19 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『むかしのはなし』(三浦しをん著、幻冬舎)

c0077412_20275128.jpg六つの短編からなる作品。各編はかぐや姫、花咲爺などの昔話を語りかえた近未来の話――ということだが、昔話との関連がピンと来ないのはこちらの感性の問題か。「近未来」らしいのは、3ヶ月後に地球が隕石にぶつかるので、ロケットに乗って宇宙基地に移動する計画がある、という状況設定だけで、登場人物たちの日常や言動は現代と同じか、むしろちょっと前の時代のもののよう。そのちぐはぐな感じになじめないのもこちらの感性の問題か。読みやすくて、ストーリーもそれなりにおもしろいのだが、‘いいものを読んだ’という感慨はなかった。
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by nishinayuu | 2006-10-18 20:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ある秘密』(フィリップ・クランベール著、野崎歓訳、新潮クレストブックス)

c0077412_20285128.jpg両親の没後20年たってから書き上げた両親の物語。「感情に流された文になっていると気がついて書き直し、残ったのは骨の部分だけ」と著者はいう。なるほど驚くほどシンプルな、緊迫した文体で、読み始めは少し戸惑う。読み進むうちに、歴史の闇、両親の苦悩が次第に明らかにされていき、著者の両親への愛や兄への思いが胸に迫ってくる。

この作品は「高校生の選ぶゴンクール賞(1988年から続く賞)」を受賞し、2004年にはフランスでベストセラーになったという。
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by nishinayuu | 2006-10-15 16:08 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『殺人展示室』(P.D.ジェイムズ著、青木久恵訳、早川書房)

この著者の多くの作品に登場するダルグリッシュ警視長が手がけた事件のひとつ。著者82歳の時の作品ということだが、著者の年齢も、女性であることも感じさせない、きびきびとしてくっきりした文体である。
ダルグリッシュの人柄や、人間関係が今ひとつつかみにくく、特に、事件とは関係のない彼の恋人が登場したりして、推理小説としては焦点がぼやける感じがする。このシリーズに初めてであって、なじんでいないせいかもしれないが。
また、登場人物のうち、この人物には共感できるかもしれない、と思った人物が早い段階で殺されてしまって唖然。そのあとは推理が働かなくなってしまった。
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by nishinayuu | 2006-10-14 18:32 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『2001年宇宙の旅-講義』 (巽 孝之著、平凡社)

c0077412_20295351.jpg映画を見たあと残ったもやもやは、原作の小説を読んだらほぼ解消した。と思ったのがやはりなんとなくもやもやしていたときにこの本を発見。モノリスや映画のラストシーンに出てくる胎児の意味するものは、という疑問にはすっきりとした答えが与えられている。ただし、博識の著者がふんだんに盛り込んでいるSF関連情報についていけず、また新たなもやもやが……
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by nishinayuu | 2006-10-11 17:38 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『万葉びとの四季を歩く』(都倉義孝著、教育出版)

c0077412_20304695.jpg読書会「かんあおい」2006年7月の課題図書。
春夏秋冬を代表する花々をテーマにした37編から成る。歌の意味、歌の背景、万葉びとの生活と情趣がわかりやすく解説されている。万葉になじみのない人は入門書として、なじんでいる人は復習書として読むことができる。ほぼ全編に花の名所案内や歴史上のエピソードなどのコラムがついているのも楽しい。

☆今回の読書会は、会員の一人の伴侶である万葉学者、横倉長恒・早大教授の講義、という形でおこなわれました。
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by nishinayuu | 2006-10-10 15:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『星に願いを』(庄野潤三著、講談社)

c0077412_20315767.jpg作者の熱烈なファンか、作者と同年配か、あるいは作者と同年配の人の話を聞くのが大好きか――以上三つのどれかに当たる人向きの本。同じ話が3度も4度も、多いものは10度くらい繰り返されるので、密度の濃いものを読みたい人には向かない。頭と気持ちが疲れているけれど何か読みたい、というときにはいいかもしれない。ゆったり、ほのぼのとしている「癒し系」の読み物である。それだからか、この本はかなり売れているらしい。本当に幸せな作家である。
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by nishinayuu | 2006-10-06 22:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)