2017年 05月 20日 ( 1 )

『椅子取りゲーム』(孔枝泳、訳=加納健次・金松伊、新幹社、2012)


의자놀이』(공지영

本書の前書きで著者は「初めて文学ではない本を書いた」と言っている。すなわち本書は、は韓国で影響力のある作家の一人である著者によるルポルタージュであり、残酷な「椅子取りゲーム」の犠牲者たちと痛みを共にした著者の「史実エッセー」である。

c0077412_09231507.jpgきっかけは2011年にツイッターで知ったある出来事だった。226日の朝、サンヨン自動車無給休職者の父親(44歳)が死んでいるのを17歳の息子と16歳の娘が見つけた。二人の母親は前の年の冬に飛び降り自殺していたため、二人は1年のうち相次いで両親を亡くして孤児になってしまったのだった。サンヨン自動車の整理解雇が始まって以来、母親は12番目、父親は13番目の死だった。そしてその後も自殺者は続き、サンヨン自動車から追い出された2646人のうち22人の労働者と家族が犠牲になったのだった。労働者の解雇は他の企業でもよくあることだが、サンヨン自動車の場合、被解雇者の自殺率の高さは尋常ではない。

13番目の死をきっかけにサンヨン自動車事件について調べ初めた著者は、あらためてことの異様さとおぞましさに気づかされる。国際的な基準に合う車を生産し、韓国の経済発展に貢献してきたサンヨン自動車という大企業にいったい何が起こったのか、サンヨン自動車の工場のある平澤で安定した生活を享受していた労働者たちがなぜストライキをしなければならなかったのか、そのストライキの参加者たちを国家権力がどのように無残に蹴散らしたか、会社側がどのように労働者たちを分断していったか、会社から追われた労働者たちがどのように孤立していったか、そして孤立していった労働者たちがどれほど精神的に追い詰められていったか。

21世紀の出来事とは思えない忌まわしいこの事件は、韓国内でもあまり報道されなかったのではないだろうか。だからこそ著者も詳しいことは知らないまま過ごしてきたのだろう。それに、小説家の自分が取り組むべき問題だろうかというためらいが最初はあった、と著者は正直に述べている。しかし、今や韓国を代表する作家の一人である著者だからこそ、この問題を取り上げて世に問うた意義は大きい。残酷な「椅子取りゲーム」の犠牲になった人々、実体のない幽霊のような者たちと戦い続けている人々に、慈しみのメッセージと共に連帯の意志を送る、と言う著者に大きな拍手を送りたい。(2017.3.4読了)


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by nishinayuu | 2017-05-20 09:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)