2016年 06月 18日 ( 1 )

『妙なるテンポ』(ヴァレリ-・アファナシェフ、編・訳=田村恵子、未知谷)


c0077412_9454247.jpg『Zeitmaϐe and other stories』(Valery Afanassiev)
著者はロシア出身のピアニスト、詩人、作家。訳者によるとその演奏は「美しい演奏だが、単にそれだけではなさそうだ……聴衆の心の中では様々な想像が繰り広げられることになる」という。
本書に収められた短編も、表現は平易なのに「どういうこと?」と一瞬とまどってしまう話が多い。言及されている人物や事物になじみがない場合はなおのこと訳がわからなくなり、読者の教養の度合いを試すための短編集のようにも思えてくる。手強い。けれども途中で放棄したくない。なぜなら、一つ一つの場面が絵画的で、言葉の流れにも不思議な魅力があるからだ。

21編のうち、印象に残った作品(もしくは共感できた作品)は以下の通り。
*巣の中の郭公――とぼけた挿絵(ナメ川コーイチ)もいい。
*マグリットに捧げるオマージュ――『真実の探求』の魚は窓から逃げ出すのか。
*玄人の基準――カフカやベケットが出てきて手強いが、挿絵(上記と同じ)に救われる。
*年配のご婦人方が世界を救う!――祖母のかつての恋物語は世界に往年の輝きを蘇らせる。
*天空の音楽――この世では敵が多かった作曲家が、あの世から地球に注ぐ美しい交響曲。
*ベルサイユの公園にて――互いに相手をだまそうとしている二人の男。微笑んだり罵ったり批判したり、と戦いは果てしなく続く。
*雪の上の足跡――文学作品中の人物の声が奏でる音楽に聴き入る男。しかし彼は作家が決して取り上げない「余白」の位置にいる。
*第三の警官――「世界は白くて四角いもので構成されていて、二人の警官と車が一台あるだけ」ということばを聞かされている男はすでに交通事故で死んでいて。

「第三の警官」にある一文「マレヴィッチだけが白い四角の夢を見ることができる」のマレヴィッチについてのメモ。
マレヴィッチ(1878~1935)はキエフ生まれの画家。キュービズムに飽き足らず、単純平面、厳正構成の美学であるシュプレマティズム(至上主義)を提唱、シャガールと対立した。
代表的作品として「三角形と長方形」(1991)がある。
(2016.4.7読了)
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by nishinayuu | 2016-06-18 09:46 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)