2016年 06月 02日 ( 1 )

『おだまり、ローズ』(ロジーナ・ハリソン、訳=新井雅代、白水社)


c0077412_2028090.png『The Lady’s Maid-My Life in Service』(Rosina Harrison,1975)
読書会「かんあおい」2016年5月の課題図書。
副題に「子爵夫人付きメイドの回想」とあるように、本書は著者が子爵夫人レディ・アスター付きのメイドとして過ごした35年間(1928~1964)の記録であるが、同時にレディ・アスターをはじめとするアスター家の人々の35年間の記録でもある。

著者は1899年にヨークシャーの美しい村で、侯爵お抱えの石工の父と洗濯メイドの母の長女として生まれた。すなわちある年齢になったらどこかのお屋敷に奉公に出るのが当たり前の身分であり、そういう時代でもあった。しかし著者は普通の奉公人とは違っていた。利発でしっかり者だった著者は、たちまち女主人レディ・アスターに気に入られ、やがて丁々発止とやり合うほどの仲になり、ついには女主人にとってなくてはならない存在になる。実はこのレディ・アスターという女主人も、いわゆる「淑女」ではなく、華々しい政治活動と自由奔放な言動で知られた、普通とは違う女性だったのである。

膨大な登場人物、エピソードが盛り込まれているが、いくつかの項目にしぼって記しておく。
*アスター一族――年齢は1928年の時点のもの
アスター卿(英国紳士の鑑。プリマス市長。オブザーバー紙の社主)
レディ・アスター(アメリカの富豪の娘。アスター卿とは再婚。初の女性国会議員。感情表現は過剰気味。陽気でふざけるのが好き)、ボビー・ショー(レディ・アスターの前夫との間の子。同性愛行為で服役)、ビリー(21歳。クリヴデン邸宅の当主になってまもなくプロヒューモ事件に巻き込まれる)、ヴィシー(18歳。長女。強すぎる母親に反発していたが、やがて強い絆で結ばれる)、デイヴィッド(16歳)、マイケル(12歳)、ジェイコブ(9歳)
*アスター家の使用人――男性は皆身長180センチ以上
エドウィン・リー(クリヴデンの執事)、アーサー・ブッシェル(副執事。アスター卿つき従僕。物まねが得意)、ギボンズ(ばあや)、ホプキンズ(運転手)、フランク(デコレーター。庭師)
*アスター家の家屋敷――クリヴデン(本拠地。屋内スタッフ33名、さらに多数の屋外スタッフを擁する)、セント・ジェイムズ・スクェア4番地のタウンハウス、ケント州サンドイッチのレスト・ハロー(海辺のカントリーハウス。近くにゴルフ場2カ所)、プリマスのエリオット・テラス3番地(政治活動用。地下1階、地上5階)、インナー・ヘブリディーズ諸島のターバート・ロッジ(農家風の家。鹿狩り・魚釣り用)
*アスター家と親交のあった人々――スウェーデンのグスタフ国王、ユーゴスラヴィアのマリー王妃、メアリー皇太后、ヨーク公、エリザベス王女(後の女王)、マハトマ・ガンジー、バーナード・ショー、T.H.ロレンス(アラビアのロレンス)、J.P.モルガンのトーマス・ラモント、他にも社交界・政界の大物多数
*レディ・アスターが嫌っていた人々――ウインストン・チャーチル、赤狩りで知られるマッカーシー上院議員。

本書は上流階級と使用人階級の対比という点で、カズオ・イシグロの『The Remains of the Day(日の名残)』、テレビドラマの「Downton Abbey」などとの共通点も多い。しかし使用人が女主人とともに世界各地を飛び回ったという点は断然ユニークで、それが本書の後半の読みどころとなっている。(2016.3.24読了)
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by nishinayuu | 2016-06-02 20:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)