『蟹工船』(小林多喜二著、筑摩現代文学大系)
2008年 09月 27日
学生時代、一般教養で「プロレタリア文学」という講義を取っていた。講師はかの有名な大江志乃夫先生(だったと記憶しているが間違っているかもしれない)。その当時、プロレタリア文学といわれるものをいくつか読んだが、この作品については、汚くて、猥雑で、なによりも悲惨で、読むのが辛かった、ということしか覚えていなかった。
さて、人生経験を積んだ(?)今になって読み返してみると、汚さと猥雑さだけに目がいったのは自分が未熟だったせいだということがよくわかった。ひどい環境で働かされ、萎縮していた人たちが自分たちの尊厳に目覚めていく過程が、生き生きと力強く描かれた作品であった。読むのが辛いどころか、夢中になって読んでしまった。
ところで、搾取されるばかりで明日への希望を持てない若者たちがこの作品に惹かれるのはよくわかるが、それにしても、若者たちが自力でこの作品を見出したとは考えにくい。なにしろ古い作品ではあるし、どこの家にもある本、というわけでもなさそうだから。今のブームにはだれか仕掛け人がいるのでは?もしかしたら、どこかの出版社の人?(2008.7.9記)