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『逃げる』(ジャン=フィリップ・トゥーサン著、野崎 歓訳、集英社)

c0077412_1252910.jpg著者の名前に見覚えがあったので、古い読書記録を調べてみたら、1998年6月に『ムッシュー』を、7月に『ためらい』を読んでいた。どちらも同じ訳者、同じ出版社の本である。『ムッシュー』のほうは何となく記憶に残っているが、『ためらい』のほうは読んだことさえ覚えていない。つまり、あまり感銘を受けなかったということだろう。
さて、『逃げる』はインパクトのある作品である。話は「ぼく」が上海空港の入国審査カウンターを出たところから始まる。恋人のマリーから託された封筒を、空港に迎えに来たマリーの知り合いであるチャン・シャンチーに渡す。彼からは携帯電話を渡される。上海市内を数日歩き回ったあと、今度はリー・チーという女性も含めて三人で夜行列車に乗り北京へ。列車内でリー・チーと深い関係になりかかったところへ、携帯にマリーの声が飛び込んでくる。マリーの父親が亡くなったのだった。心はマリーのもとへ飛んだまま、北京に着くとあちこち連れ回される。マリーから託された封筒はいつの間にか白い粉の入ったSAKURAYAの紙袋に変わっていて、ぼくはチャン・シャンチーにつかまり、リー・チーにつかまられて、バイクに三人乗りしてなにかから逃げるために疾走するはめに。
語り手は暑さに呷られ、なにかに追われながら駆け回る。そもそも語り手はマリーとチャンの関係も、チャンとリーの関係もよく知らなければ、封筒の中身のことも、紙袋の中身のことも知らされていない。携帯を持たされても使い方がわからない。チャンとリーの交わす話の内容も全くわからないのだ。会話がないぶん、語り手は目に入るもののすべてを言葉にしていくことになる。全編、猛スピードで風景が流れ、言葉が流れていく、めまぐるしくて饒舌な物語である。(2008.7.1記)
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by nishinayuu | 2008-09-18 12:05 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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