『ベロニカは死ぬことにした』(パウロ・コエーリョ著、江口研一訳、角川書店)

c0077412_1045498.jpgベロニカは24歳で、公立図書館という安定した職場で働いており、美人なので男たちにももてる。不治の病というわけでもない。それなのにベロニカは死ぬことにした。生きていても何も得ることはなさそうだし、自分にはおかしくなっていく世の中を変える力はない、と感じたからだ。ためこんだ睡眠薬を飲み、薬が効いてくるのを待ちながらふと傍らの雑誌を手にすると、「スロベニアはどこにあるのか?」という文が目に入った。それがベロニカの気に障った。スロベニアはベロニカの住んでいる国だったから。それで彼女は雑誌社宛てにスロベニアのことを説明する手紙を書いた。死後に手紙を見た人は、彼女が国の名誉のために死んだと思うだろう、と考えると笑えてきたが、やがて彼女は吐き気に襲われ、気分が悪くなり、気を失った。
しかしベロニカはこのまますんなり死んだのではなかった。目が覚めると、なぜか精神病院の中だった。苦しくて身動きもできないベロニカに、医者も、看護人も、患者たちもやさしかった。なぜなら、ベロニカは薬のせいで心臓がだめになっており、あと数日で心臓発作が起こって死ぬ、と誰もが知っていたからだ。簡単に死ねるはずだったのに、苦しみながら死を待つ日々が始まったのだ。
死や精神病患者を扱っていながら暗さや惨めさとは無縁の、人間への信頼と希望にあふれた物語である。(2008.6.27記)
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by nishinayuu | 2008-09-11 10:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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