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『柘榴のスープ』(マーシャ・メヘラーン著、渡辺佐智江訳、白水社)

c0077412_13415197.jpg1986年の春分の日、アイルランドのメイヨー県にあるバリナクロウという小さな村に、異国情緒あふれるレストラン「バビロン・カフェ」が誕生する。魅惑的な芳香と鮮やかな色彩があふれるこのレストランを開いたのは、イランからロンドンへ、さらにバリナクロウへと逃れてきたマルジャーン、バハール、レイラーの3姉妹である。村人たちは興味津々で様子をうかがっているが、初日は一人の客も訪れないままに終わる。しかし次の日に、陽気でさばけた神父・マホニー氏が現れたのを皮切りに、徐々に客がやってくるようになる。こうして「バビロン・カフェ」は軌道に乗り、3姉妹もどうやら平穏な生活を手に入れたように見えたが、偏見に凝り固まった一部の村人と、忌まわしい過去からの亡霊が三人の平和をおびやかす。
パセリ、バジル、コリアンダー、ミント、パプリカ、カルダモン、タラゴン、シナモンなどの香りと、黄色いターメリック、赤いサフラン、いつも沸き立っている金色のサモワールなどの色が全編にあふれていて、村人たちと同じように読者も幻惑されてしまう。そうした夢のように美しい世界はマルジャーンたちの故郷に実在したものであり、今彼女たちがバリナクロウで再現しようとしているものなのだ。おぞましい過去の記憶は消えることはなくても、それを乗り越えて前に進むことはできる、というメッセージが伝わってくるすばらしい物語である。各章の冒頭に掲げられた料理のレシピも、ピカソとモジリアニを併せたような雰囲気の表紙絵も魅力的で、ぜひ手元に置いておきたいと思う本である。(2008.5.14記)

☆読みながらときどき、ディーネセンの小説『バベットの晩餐会』や映画『ショコラ』を思い出していました。おいしい食べ物には人々を幸せにする力があるのですね。なお、物語の舞台であるメイヨー県のサイトがありましたので、URLを記しておきます。http://www.ryugakuclub.com/ireland/travelireland/mayo.htm
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by nishinayuu | 2008-08-02 13:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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