『赤い長靴』(江國香織著、文藝春秋社)
2008年 07月 01日
14編の小品からなる連作集。日和子という女性の日常が、とくに夫・逍三との関係を中心に語られる。この夫がなんともあきれた人間で、日和子が話しかけてもまともな返事が返ってこない。人の話をきちんと聞く習慣がないのだ。夫の両親の会話も、母親が一人で話しかけ、ひとりで話を締めくくるのが当たり前になってしまっているところをみると、そういう家庭で育つとこういう人間ができるのかもしれないとも思う。なお悪いことに、この夫は脱いだ服を床に放り出したまま片づけるということをしないし、風呂上がりには濡れたバスタオルを巻いたままベッドに倒れ込んでしまう。ときどき思いついたように妻を旅行に誘ったり、プレゼントをしたりするが、それを妻が喜んでいるかどうかを考えてみることはしない。しかし、この夫よりもっとあきれるのは、そんな夫に翻弄されて、ときどきは腹を立てながらも、日和子が夫をいやだと思っていないことだ。「逍ちゃんのいるときよりいないときの方が、私は逍ちゃんを好きみたいだ」と思っている自分を発見してぎくりとしたにしても、とにかく愛しているのだ。
いつも上の空で、身の回りのことは何もできないくせに、独りよがりのプレゼントをすることで愛情を示しているつもりの夫。そんな幼児のような夫にいそいそとかしずいている妻。なんとも奇妙で不可解でいらいらさせられる内容の本だった。(2008.4.12記)
同じ作品でも、全く受け止め方が違ったりして、それを見つけることが出来て、読書ブログを見るのが楽しみです。
TBさせていただきました。