『わたしの声を聞いて』(スザンナ・タマーロ著、泉 典子訳、草思社)
2008年 06月 21日
「プレリュード」の章は、祖母への反発から家を飛び出していた語り手のマルタが、祖母の住む家に戻ったところから始まる。祖母とマルタのぎすぎすした関係は修復されないまま、やがて祖母に痴呆が現れて関係を修復するどころではなくなる。そして祖母はある日、庭で倒れたまま他界してしまう。
「母と父」の章で、一人ぼっちになったマルタは、物心ついたときにはすでにいなかった父と母のことをしきりに思うようになる。そんなある日、屋根裏で母の遺品の入った書類鞄が見つかり、この日からマルタの母を知るための心の旅が、そして実際に父を探し求める旅が始まる。この章が本書の核の部分で、マルタとその背後にいる著者の「私の声を聞いて」という叫びが響きわたる。また、母の残した詩からは、子供を持ってしまったのについに母親になれなかった若い女性の、苦悶の声も聞こえてくる。
最後の「ルーツを求めて」の章で、マルタは自分のルーツを求めて、母方の唯一の身内、祖母のいとこが住むイスラエルのキブツに向かうのである。(2008.4.2記)