『灯台』(P.D.ジェイムズ著、青木久恵訳、早川書房)
2008年 05月 10日
舞台はイングランドの南西端コーンウォールの沖合に浮かぶ架空の島、カム島。かつてはある一族が所有していたが、現在は信託理事会が管理する高級保養所となっている。滞在できるのは理事と常連客、および滞在経験者の紹介のあった者のみで、ふりの客は受け入れない。そんなカム島で10月末のある日、変死者が出る。普通なら地元警察が担当する捜査に、ダルグリッシュ警視長とケイト・ミスキン警部、ベントン・スミス部長刑事の三人が乗り出すことになったのは、この島で近々極秘の国際会議が開かれることになっていたからだ。変死したのは著名な作家。島にいたのはこの作家を含めて5人の滞在客と、理事会の事務長をはじめとするスタッフ9人、それとかつての所有者一族の最後のひとりとその執事。捜査開始後、変死は殺人事件と判明するが、閉ざされた空間に限られた人数という状況にもかかわらず、犯人捜しは難航し、そうこうするうちに第2の殺人事件が起こる。
著者は例によって登場人物ひとりひとりについて細かい情報を読者に提供する。これまでの作品ではそれがちょっと煩わしく感じられなくもなかったが、この作品では物語の奥行きを深めるのに役立っている。また、この作品では事件解決につながる伏線がきちんと織り込まれているので、ごく普通のミステリーとして楽しめる。(2008.2.12記)
☆話の途中からダルグリッシュがSARZに罹って重体になります。高齢の著者が筆を擱く覚悟を決めて、大事にしてきたダルグリッシュを葬ることにしたのか、とハラハラ(心配)ワクワク(ちょっと期待?)してしまいました。