『A Pale View of Hills』(Kazuo Ishiguro著、 Faber and Faber)

c0077412_952159.jpg1954年に長崎で生まれ、1960年にイギリスに渡ったあと、そこで育ち、そこで教育を受けて小説を書いているカズオイシグロの最初の作品。時を越え、空間の隔たりを越えて重なり合う二組の母娘の姿が描かれている。
主人公は長崎に住む間もなく母になろうとしている女性エツコ。夫はどうということのないきまじめな男で、作中でも影が薄い。そのかわりに義父であるオガタさんとは、ほのぼのとしたユーモアのある会話を交わす間柄で、どことなく笠智衆と原節子を思わせる(といってもこの時代の映画はほとんど見ていないので違っているかも知れない)。エツコは川辺の掘っ立て小屋で暮らすサチコという女性と親しくなるが、サチコには他に親しい人はいない。人からいかがわしい目で見られていることを承知していて、つきあおうとしないのである。サチコは幼い娘、マリコを大事に思っているが、しばしば子どもをひとりにして出かけたりする。マリコも学校を嫌い、他の子どもと交わるのを嫌って、ひとりで出かけたり、思いに耽ったりしていることが多く、エツコにも心を開くことがない。サチコがつきあっているアメリカ人のフランクという男のことも嫌っている。けれどもやがてサチコはフランクと暮らすために、マリコを連れてアメリカに旅立っていく。
今、エツコはイギリスに住み、長崎での日々を回想している。サチコ母娘の姿には数年先のエツコ母娘の姿が暗示されていたのだった。(2008.1.2記)
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by nishinayuu | 2008-04-05 09:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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