『村の名前』(辻原登著、文藝春秋社)

c0077412_10464044.jpg文芸誌「文学界」に1990年6月に掲載された『村の名前』と、1985年11月に掲載された『犬かけて』の2編を収めた本。
『村の名前』の舞台は中国の湖南省・桃花源村。小さな商社の社員・橘は畳卸し業の加藤とともに、藺草で畳表を織らせ、買い付ける目的でここを訪れた。要領を得ない案内人、つきまとう公安、観光開発への協力を迫る村の指導者などなどのせいで、畳表織りの話はいっこうに進展しない。名前とはほど遠い雰囲気の村の中で、橘はしだいに、幻のように見え隠れする古い村の痕跡と、そこに属する村人たちに惹かれていく。
『犬かけて』の舞台は東京の西多摩地域と狭山丘陵。行方不明の弟を捜す、という名目で東京に出てきて、そのまま居着いてしまい、ミシンのセールスで生計を立てている男が、自分で作り出した妄想の虜になって彷徨する物語。彼は、弟のほうが皆に愛されていたという記憶に苛まれ、弟のことしか念頭にないような母親に悩まされ、妻が自分の知らない別の世界を持っているのではないかと疑っている。そうして車で、バスで、あちこち走り回るのであるが、彼の頭の中でもいろいろなことが駆けめぐるのである。(2007.10.17記)
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by nishinayuu | 2008-01-01 10:46 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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