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『廃墟に咲く花』(パトリック・モディアノ著、根岸純訳、パロル社)

c0077412_1005088.jpg始めのほうで、1933年に若い夫婦の心中事件があったこと、事件のあった晩、ふたりは二組のカップルと行動を共にし、四人を自宅まで連れてきていたこと、などが語られる。それから語り手は最近知りあった得体の知れない男のことを語り、その男に関連して1960年代のことを語る。その過程で語り手は、心中事件のあった1933年へ、あるいは学生だった1960年代へと遡ったり、現在に立ち返ったり、を繰り返す。 語り手の関心はずっと心中事件と、事件の晩に夫婦と一緒にいたという二組の男女にあって、記憶の断片をつなぎ合わせようとしているのだ。
最初のページからパリの通りや建物の名前が次々に出てきて、何が何だかわからなくなりそうになる。パリの地図を広げて通りの名を確認しながら読み進んでも、語り手はあちこち歩き回るだけでなく、現在から過去に入り込んでそこであちこち歩き回り、また現在に戻ってきてここでもあちこち歩き回るので、過去の通りの様子と、現在の通りの様子が入り交じり、人物も過去に存在して今はいない人や、姿を変えて現在に立ち現れる人やらが入り交じり……語り手が辿る思考、語り手の回想に合わせて、読者もパリの現在と過去の通りを歩き回ることになる。パリをひとりで歩いていて迷路に迷い込んでしまったような感覚になり、それが一種の快感をもたらす小説である。(2007.10.13記)
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by nishinayuu | 2007-12-29 10:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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