『アメリカ 非道の大陸』(多和田葉子著、青土社)
2007年 10月 29日
13章からなる物語は、「あなた」がアメリカのあちこちを旅して遭遇する出来事を綴っている。各章で「あなた」が関わりを持つのは、知人だったり、知人の知人だったり、行きずりの人だったりするが、いずれも短期間の、あるいは一瞬の関わりである。また「あなた」は常に観察者であり、聞き役であって、決して自分を語ることはない。その点では確かに「私」という呼称とは馴染まない。しかし、自分を語ることはなくても、語り手が個人的な用事でアメリカを旅していて、微妙なニュアンスがわかる程に英語が達者で、人の気持ちの動きに敏感な人物だということははっきりと見えてくる。そんな「あなた」が語る、現実と幻想の綯い交ぜになった物語。(2007.8.28記)
☆第4章「駐車場」は私の数少ないアメリカ体験と重なる部分があり、この章に限っていえば「あなた」は読者である私のことなのかもしれない、と思いました。