『球形時間』(多和田葉子著、新潮社)

c0077412_1037128.jpgまず、プラットホームで手鏡をのぞき込みながら化粧をする女子高校生サヤが登場。人前での化粧に今にも怒りで爆発しそうな「おやじ」を心の中で罵倒しつつ、口紅を塗っては「せっぷん」という言葉の語感についてひとくさり、櫛を取りだしては櫛の魔力に関する知識をひとくさり、ついでに昔の男の髪型についてもひとくさり。あげくに、おでこに発見したできものをつぶすためにプラットホームにべったり座り込む――という具合に、今時の高校生のなりふりと頭の中が描写される。サヤは成績優秀という設定なので、頭の中はわりあい上等ではあるが。このあと、サヤがちょっと気にしているカツオ、カツオのボーイズ・ラブの相手であるマックン、潔癖症で言動が不気味なナミコ、大学生でやはり言動が怪しいコンドウ、担任で熱血教師風のソノダヤスオなどが登場し、はてはかの有名な旅行家、イザベラ・バードまで登場する。イザベラ・バードが出てくる必然性はないのに。こうして、はじめはふつうの高校生たちを描いた学園小説風だが、その世界が少しずつゆがんでいく。
世界がふつうのように見えていて、実はゆがんでいる、というところは、多和田葉子らしいといえるかもしれない。しかし、この作品を読みながら、これはほんとうに多和田葉子の作品なのだろうか、と2度ほど作者名を確認してしまった(!) 『容疑者の夜行列車』で、緊張感に溢れる不思議な世界と美しい日本語の世界を展開して見せてくれたあの多和田葉子は、どこに行ってしまったのだろうか。(2007.6.11記)
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by nishinayuu | 2007-07-27 11:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by 神奈川芸術文化財団 at 2007-10-18 15:46 x
横浜にて下記の公演をいたしますので、ご案内させてください。

Reading &Piano performance
多和田葉子×高瀬アキDUO
『音の間 ことばの魔』

ジャズ・即興音楽の分野で国際的に活躍するピアニスト・高瀬アキと芥川賞作家・多和田葉子による異色のパフォーマンスを、神奈川県民ホールギャラリーの現代美術展覧会・塩田千春展の美術作品の中で上演いたします。

出演  多和田葉子(自作朗読)、高瀬アキ(ピアノ)、塩田千春(美術)
日時: 2007年11月2日(金) 19:30開演(19:15開場) 
会場: 神奈川県民ホールギャラリー
横浜市中区山下町3-1 (東横線直通 みなとみらい線「日本大通り」駅下車徒歩6分)
チケット:全席自由 一般2,500円 学生2,000円 
☆チケット取り扱い
県民ホールチケットセンター 045-662-8866 
インターネット予約申し込み 
http://www.kanagawa-arts.or.jp/drama2007/index07_05.html#tawadatakase
チケットぴあ 0570-02-9988、9966(Pコード:379-165)
主催 財団法人神奈川芸術文化財団

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