『閉じた本』(ギルバート・アデア著、青木純子訳、東京創元社)
2007年 05月 24日
主な登場人物は二人だけ。ひとりはブッカー賞も受賞している作家、ポール。交通事故で顔に大きな損傷を受け、両目も失って、4年の間、世間から隠れるように暮らしていたが、回想録を書こうと思い立つ。もうひとりは、ポールが出した求人広告に応じてきた青年、ジョン・ライダー。「面接」を経て採用されたジョンは、ポールの目となって物事を観察し、それをポールに伝え、ポールが口述する文章を筆記することになる。こうして、目を失う前の記憶に頼り、自分流のこだわりを崩さずに暮らしてきたポールは、ジョンの目を頼りに、ジョンの語る世の中の変化に驚きつつ回想録の執筆を進める。しかしポールはやがて、ジョンの目を得てからのほうがかえって以前より物事が見えなくなっているように感じ始めるのである。
物語はふたりがやりとりする会話の部分と、ポールの独白部分とからなっている。大きなポイント、イタリック体で書かれたこの独白部分、量は少ないがあとで大きな意味を持ってくるので要注意。(2007.4.21記)
☆ポールの不安が募るにつれて、読者の不安も増していく仕掛けになっています。大団円のおぞましい事件が起こった時点では、謎が解けてかえってホッとしました。