『遺失物管理所』(ジークフリート・レンツ著、松永美穂訳、新潮クレストブックス)

c0077412_1527543.jpg作品の舞台はドイツの大都市。長距離列車が発着する駅の遺失物管理所に配属された青年、ヘンリー・ネフが主人公である。物語は彼が遺失物管理所に初めて出勤するところから始まり、彼の目を通して二人の先輩職員と所長、そして遺失物管理所の仕事が紹介されていく。この、滑り出しの部分が快調で魅力的なので、その後の展開への期待感がそそられる。
ネフは実は鉄道会社の上層部に叔父がいるし、家柄もいい。そんな彼がなぜ出世コースから外れた遺失物管理所に配属されたか、遺失物管理所で働く人たちも、そして読者も疑問に思うのだが、そのわけは物語の進行と共に自然にわかってくる。彼は上昇志向の全くない青年で、だからといって無気力でもいいかげんでもなく、遺失物管理所の仕事を楽しみながらこなしていくうちに、いつの間にかベテランの遺失物係になっていくのである。
遺失物管理所の所長、先輩職員のアルベルト、パウラ、姉のバーバラ、パシュキール人の数学者・フェードルなどの登場人物に注ぐ作者の目が温かく、心地よい。(2007.4.20記)

☆この作者の『アルネの遺品』は、書評でいかにも名作ふうに紹介され、内容もいかにも名作ふうに進行していくけれども、何か物足りなさの残る作品でした。『遺失物管理所』は冒頭から作品の世界に引き込まれ、一気に読み、幸せな気分で読み終えました。
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by nishinayuu | 2007-05-22 11:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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