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『小さな町で』(シャルル=ルイ・フィリップ著、山田稔訳、みすず書房)

c0077412_15251875.jpgフランスのほぼ中央に位置するアリエ県セリイを舞台に繰り広げられる、19世紀から20世紀初めのころの庶民の暮らしを描いた作品。素朴で、人情味があり、時には滑稽で、時には悲惨でグロテスクな33の短編からなっている。冒頭の「帰宅」は次のような話。

ある男が4年ぶりに我が家の戸をたたく。「どうぞ」と応じる声に、男は中に入って椅子に腰を下ろす。妻は夕食のパンを切り分けていたが、前掛けをつかんで顔を覆う。泣いているのだ。3人の子どものうち、下のふたりは男に関心を示さないが、13歳の長女は父親の帰宅を喜ぶ。そこへまた誰かが入り口の戸を開いて入ってくる。大工のバティストで、男とはよく知り合った中だった。男はバティストの落ち着きはらった態度を見て、彼が一家の主であることを悟る。バティストに勧められて男は夕食の席に着き、静かに語り合う。子どもたちに小遣いを渡すと下のふたりは「おじちゃんありがとう」という。寝に行く前に長女は「帰らないで!帰らないで!」と男にしがみつく。けれども男は去らねばならない。ずっといるつもりでトランクを持ってきていたのだが。6キロの道を歩いて11時の汽車に乗るために男は立ち上がり、妻に別れのキスをする。そして手をさしのべたバティストに言う。「おれたちもキスをしようよ」と。
(2007.4.9記)
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by nishinayuu | 2007-05-12 10:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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