『水の繭』(大島真寿美著、角川書店)
2007年 04月 08日
主人公は20歳のとうこ。小さいころ、両親が離婚して、母親は男の子を連れて出ていった。父とふたりで暮らしてきたが、その父は自殺してしまった。だから今とうこは、むかし家族4人で暮らしていて家に独りで住んでいる。そこへ、いとこの瑠璃が転がり込んできて、おかげでとうこは「よく外へ連れ出されるようになった」。つまり瑠璃が現れるまで、とうこは外出もせず、家の中でもほとんどなにもせずにいたのである。といっても、無気力、放心状態、あるいは心の病、というのとはちがう。
とうこのなかで閉ざされていたものが少しずつほどけていくのだが、その展開はこの著者にしてはややドラマチック。最後は「もうまもなく秋がやってくるのだろう/カミングスーン/次の季節だ」となっており、とうこが新しい一歩を踏み出す予感に満ちている。(2007.3.15記)