『かなしみの場所』(大島真寿美著、角川書店)

c0077412_15152040.jpg3冊目の大島真寿美。
主人公の果那は、手芸品を委託販売してもらっている「梅屋」の小部屋で、しばらく寝かせてもらうことがよくある。家ではよく眠れないからだ。果那は幼いころに誘拐されたことがあるのだが、家族はそれをなかったことにしているので、真相はわからないまま、ときどき夢に見る。ところで果那は寝言を言う癖があり、誘拐のことも寝言で言ったりしたらしく、それを夫に問いただされるのが煩わしかったこともあって、離婚している。そんな果那にとって、誘拐は悪夢ではなく、なにか心温まる思い出なのだ。果那を取り巻く人たちは、しっかり者のみなみちゃんをはじめ、わりあいきりりとした人たちなのだが、果那に圧迫感を抱かせるような人はいない。だから果那は自分なりのペースで、ふんわりと、そしてまじめに、生きている。そんな果那が、内側からゆっくりと変化していくさまが、優しく語られていて心地よい。誘拐犯はどんな男だったのか、という謎解きのスリルも味わえるが、その話もどぎつさの全くない優しいエピソードなのである。(2007.3.13記)
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by nishinayuu | 2007-04-04 13:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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