『天使の記憶』(ナンシー・ヒューストン著、横川晶子訳、新潮クレストブックス)

c0077412_17293774.jpg訳者のあとがきによると、原題L’empreinte de l’angeは「天使の刻印」という意味で、生まれる直前の赤ん坊の鼻と唇の間に天使が指を置いて天国の記憶を消し去るため、赤ん坊は純粋で無垢なまま地上に生まれ落ちるのだ、というユダヤの伝承に基づいているという。
こうして無垢なまま生まれた人間は、最後には慈悲深い神が人間の記憶を曖昧にして、人生が与えた辛い教訓の一つ一つを消し去るので、なにもかも忘れる。だから老人はだれもが無垢な表情をしているのだと作者はいう。老人となった作中人物のうちのふたりが、偶然ある場所で出会い、黙って互いを見つめ合う、という印象的な場面で物語は終わっている。
この作品は、裕福で天分に恵まれたフルート奏者ラファエル、その妻サフィーと息子エミール、楽器修理職人アンドラーシュの間に起こった数年間の出来事を描いたものである。ラファエルにとっては世界的な名声を得て活躍の場を広げる一方で穏やかな家庭を持っていた数年間。サフィーとエミールにとっては二重生活の楽しい秘密を分かち合った数年間。アンドラーシュにとっては正義のための闘いの日々のなかで降って湧いたような妻子と充実した時間を過ごした数年間だった。(2007.1.12記)
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by nishinayuu | 2007-02-15 09:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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