『中二階』(ニコルソン・ベイカー著、岸本佐知子訳、白水社)

c0077412_17265635.jpg189ページからなるこの小説は「一時少し前、黒い表紙のペンギンのペーパーバックと、上にレシートをホチキスで留めたCVSファーマシーの白い小さな紙袋を手に、会社のあるビルのロビーに入ると、エスカレーターの方向へ曲がった」という文で始まり、「私は中二階に降り立ち(中略)ロビーまでずっと見下ろした。いちばん下に清掃係の姿が見えた。私は彼に向かって手を振った。彼は白い雑巾をちょっと持ち上げ、それからまたゴムの手すりの上に手を置いた。」という文で終わる。すなわち、一階のロビーから中二階までエスカレーターで昇るほんの短い時間に目に入った人や物、頭に浮かんだ事々を、こと細かくびっしりと書き連ねることによって成り立っている作品なのである。
読み始めてすぐ、気楽に読めそうな印象のカバー挿画に騙されたことに気がついたが、目の付け所の細かさ、分析の細かさにあきれながらも読み進むうちに、その細かさに共感を覚え、細かさが快感になってくる。世の中にはこの著者と同じように感じたり考えたりする人間はかなりいると思うが、感じたこと、考えたことをここまで正確に文章化できる人はまれだろう。とにかくたいへんな筆力である。それに、こんな作品を翻訳した人も並の翻訳者ではない。(2007.1.5記)

☆この本は構成が変わっていて、ふつうの大きさの文字で書かれた部分と、小さなポイントの文字を使った「注」の形の部分からなっています。この「注」がくせ者で、ページ内に収まらずに次のページへ、時には通常の文字の部分を挟んで次の次のページにまで及んでいます。それで、「注」の印が出てきたときに「注」の部分を読み進めるべきか、あるいは話の切れ目まで読んでから「注」に移るべきか、そもそも小さいポイントの部分は「注」なのか、むしろこちらが本文ではないのか、と読み惑い、最後まで「正しい読み方」を見つけることができませんでした。原書はどうなっているのか気になります。
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by nishinayuu | 2007-02-07 14:05 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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