「丹波の国に住む者の妻が和歌を詠んだ話」その2

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☆昨日upした韓国語文の日本語訳です。  


 昔々、丹波の国○○の郡に住む者がいた。田舎者ではあったがものの哀れを解する者だった。その男には妻がふたりいて、家を並べて住んでいた。もとからの妻は丹波の国の女で、新しいほうの妻は京から迎えた女だった。男が新しい妻をより愛しているようだったので、もとからの妻は鬱々として暮らしていた。
 ある秋のこと、北の方の山里だったので、後ろの山のほうで鹿が情のこもった声で鳴いた。男はちょうど新しい妻のもとにいたが、妻に「あの声をどうお聞きになりますか」と尋ねたところ、妻は「煎ってもおいしい。焼いてもおいしいやつですよね」と応えた。男は、京の人間であれば鹿の声などに興を覚えることだろうと思ったのに、思いがけない応えを聞いて、いささか興ざめだった。すぐにもとからの妻のところに行って「さっき鹿の鳴き声を聞きましたよね」と言うと、もとからの妻はこう言った。

 我もしか鳴きてぞ君にこひられし今こそ声をよそにのみきけ

 男は実に趣のあるこのことばと、新しい妻の言ったことばを思い合わせると、新しい妻への愛情が失せてしまい、京に送り返した。そうしてもとからの妻と二人で暮らした。

 (『今昔物語』巻第三十の第十二より)

☆物語中の歌は『大和物語』や『新古今集』にも載っています。小学館の日本古典文学全集-『新古今集』にある現代語訳は以下の通りです。

 今、牡鹿が妻を恋うて鳴いていますが、わたしも、あなたから、そのように泣いて恋い慕われたものでした。でも、今は、よそになった間柄で、声だけを聞いていることです。

 「我もしか鳴きてぞ」の「しか」は「そのように」と「鹿」の掛詞になっています。
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by nishinayuu | 2006-10-08 19:59 | 再話 | Trackback | Comments(0)
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