『緑の髪の娘』(スタンリー・ハイランド、訳=松下祥子、論創社)


c0077412_09374042.jpgGreen Growthe Tresses-O』(Stanley Hyland

本書は「論創海外ミステリー」と謳うシリーズの一冊である。しかし、さあ謎解きを楽しもう、と思って読み始めると裏切られる。話は紡織工場の仕事台からあがる悲鳴で始まる。悲鳴を上げたのは織りむらや傷を検査していた女子工員の一人。染色前の布地の中央に、明るい金色の髪の毛が十数本、長い一束になって織り込まれ、その片方の端には茶色くごわごわした皮膚と肉がこびりついていたのだ。それから間をおかずに金髪のジーナ・マッツォーニの死体が煮えたぎる染料桶の中で見つかる。髪も身体もエメラルド・グリーに染まっていた。――どうも気持ちのいい事件ではなさそうだ(気持ちのいい殺人事件などはないかも知れないが)。

総ページ数26130の章に分けられているので、ここまでですでに第3章になっているが、17ページ目で死体が登場するので好調な滑り出しと言えるかもしれない。ところが、ジーナの住んでいた寮の捜索に駆けつける刑事トードフの行動、寮の外観、寮の呼び鈴に応えた管理人夫婦の言動、トードフのあとからやってきた警部ザグデンとトードフのやりとり、などなどの描写がやたらに細かい。たとえば――

「シドニー・トードフ刑事は自転車を鋳鉄製の小さなうずくまったライオン像の腰骨のあたりに慎重に立てかけ、幅広の石段を五段上って、ぼろぼろのポーチに達した。目を上げて〈岩山荘〉全体を眺めると、はるか昔の日々に思いをはせ、ちっちっと舌を鳴らした。ヴィクトリア朝後期、この家の全盛期には、どんな様子だったのだろう。当時はまだ羊毛産出地帯の理想的個人住宅で、初代ミスター・エイサ・ブランスキルを筆頭に、関白亭主に使える妻、子ども十人、メイド六人、料理人一人、執事一人、馬車二台、馬四頭、それに屋根裏には狂ったおばさんが住んでいたに違いない。今では労働貧困層のための寮となっていて、見るからにそれらしい。刑事は哀しげに首を振りながら一歩進み出て、呼び鈴の引き紐をぐいと引っ張った。それはすっぽ抜けて手に残った。」

このような、伏線とも思えない意図不明のやたらに細かい描写はこのあともずっと続くので、肝心の話がなかなか進展せずにちょっといらいらさせられる。しかし、しばらく読み進むうちにはっと気づいた。まさにこうした、謎解きとは直接関係のない細かい描写こそがこの作品の読みどころなのだと。そう思って読めば実に内容豊かな、読み甲斐のある作品である。

なお、原題のGreen Grow the Tresses-O“はロバート・バーンズの詩 “Green Grow the RushesO”(イグサは青々と茂るよ)から取られたもので、rushestresses(ふさふさした巻き毛)に置き換えられている。(2017.7.9読了)


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by nishinayuu | 2017-09-25 09:38 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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