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『妻は二度死ぬ』(ジョルジュ・シムノン、訳=中井多津夫、晶文社)


Les Innocents』(Georges Simenon, 1972

『妻は二度死ぬ』(ジョルジュ・シムノン、訳=中井多津夫、晶文社)_c0077412_09441187.jpg主人公のジョルジュ・セルランはパリ有数の宝石デザイナー。サントノレ通りの有名宝石店で10年近く働いていたが、その店の店員だったブラシェに誘われてセヴィニェ通りにある宝石店の共同経営者となった。資本を提供したブラシェの方が主役だったことは言うまでもないが、ブラシェは宝石店を回って注文をとることが仕事で、セヴィニェ通りのアトリはもっぱらセルランの領分だった。こうして二人の関係は17年も続いていた。

「人は幸せな時それと気づくものなのだろうか。しかし、セルランなら、躊躇することなく、自分が日々幸せであり、その幸せがおびやかされるようなことは絶対におこりえない、はっきりとそう言ってのけたかもしれない。経営者に何ひとつ気がねをしないで、好きな仕事をしていられるのである。妻のアネットや二人の子どもたちも何ひとつ余計な心配をかけるわけでもなかった。」

ところがある日、妻のアネットが、ワシントン通りでトラックにはねられて死んでしまう。ケースワーカーとして働く彼女の受け持ち区域でもなく、彼らの住まいのあるボーマルシェ通りからも離れたワシントン通りに、アネットはその日なぜ出かけたのだろうか。事故現場を訪ねたセルランは、やがて思いもかけない妻の秘密に行き当たる。

本作には、妻との出会いと20年にわたる結婚生活のあれこれ、子どもたちとのやりとり、アトリエで働く仲間との交流などがこまごまと描かれており、ホームドラマのような趣がある。ミステリーの大御所である作者はこの作品を発表したあと絶筆を宣言し、その後は雑記のようなものしか書いていないという。因みに、訳者あとがきに次のような文があり、なるほど、と思ったので書き留めておく。

「子どもたちに対するセルランの理解と思いやりは、シムノンをほうふつとさせる。また、本書の子どもたちに母親の影が全く認められないのもシムノンらしい。シムノンは子どもたちの母親とかなり以前に離別しており、「母親」を排除したいという願望があったことは否めない事実だからだ。」

2017.5.31読了)


Commented by マリーゴールド at 2017-09-03 10:57 x
題名が暗示てきですね。読んでみたくなります。
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by nishinayuu | 2017-09-01 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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