『パリで待ち合わせ』(デボラ・マッキンリー、国弘喜美代、早川書房)
2017年 08月 24日
『That Part Was True』(Deborah McKinlay)
本書の主人公は、アメリカに住む50回目の誕生日を目前に控えたジャックと、イギリスの片田舎で暮らす46歳のイヴ。ジャック(ジャック・クーパー)はアメリカに住むベストセラー作家だが、最近はスランプ状態である上、妻との別れ話が進行中。イヴは強権的な母親ヴァージニアに押さえつけられて育ち、その母親のせいで夫には逃げられ、一人娘イジーの母親として生きる楽しみも奪われた。そんな二人が文通を通して次第に親しくなっていく。文通のきっかけは、イヴがジャックに送ったファンレターだった。その文面は――
電子メールの方が手っ取り早いのかも知れませんが、手書きの方が言葉を選ぶのに慎重になりますし、作家の方にお手紙を書いている実感がもてます。お伝えしたかったのは、先生の『戻らなかった手紙』を大変おもしろく拝読したことです。ハリー・ゴードンが桃を食べるシーンを読んで、雨模様のイギリスにひととき夏が訪れました。あの場面は完熟した果物を口にするという、いわば退廃した喜びを思い起こさせてくれました。
それに対するジャックの返信――
読者の方からご意見をいただくのは胸躍るもので、手紙ならなおさらです(めったにいただけないのが悲しいところです)。果汁のくだり、同感です。こちらでも、手に入る果物はたいていプラスチックのような代物です。熟していないほうが、あなた方イギリス人の言うジャムを作るにはよいのだと何かで読みました。ぼくはジャムを作ったことはありませんが、あなたのお手紙を読んで、手間を惜しまず挑戦してみようかなと考えています。
これをきっかけに二人は手紙のやりとり、主として料理のレシピを教え合うことを通してどんどん親しくなって行き、ついには「パリで待ち合わせ」という話が出るほどの中になるのである。したがって本書の読みどころのひとつはイギリスとアメリカの料理のレシピであるが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大きな比重を占めるのが、もう若くはない男女が思うようにならない日々を切り抜けて自分なりの幸せを見つけていく過程である。(2017.5.26読了)