『鳥たちが聞いている』(バリー・ロペス、訳=池央耿・神保睦、角川書店)
2017年 05月 08日
『Field Notes』(Barry Lopez)サブタイトルにThe Grace Note of the CanyonWren(ミソサザイの装飾音)とある。
本書には深く豊かな自然、自然に身をゆだねれば聞こえてくる音、そこから生まれる様々な思索が綴られた12の短編が収録されている。
*鳥たちが聞いている――モハヴェ沙漠東部から海に向かった旅人。無謀な旅だったと絶望しかけたとき、水辺の鳥であるミソサザイの装飾音が耳に入る。
*ティールの川――マグダレナ山中のベネット川地方に1954年の4月に住みついた隠者のティールは1971年5月の穏やかな午後、静かに世を去った。
*エンパイラのタペストリー――自分だけの生き方を持っていたエンパイラは、自分で織ったタペストリーに身を包んで濁流に身を投じる。
*空き地――博物館の研究員ジェーン・ウェデルは、空き地で見つけた石を家に持ち帰る。カンブリア紀の海に棲息した生物を取り出したいと思って。
*ある会話――アカケアシノスリをめぐる、政府の魚類野生動物部長と環境活動家エシーの攻防。
*ピアリーランド――悪天候のために足止めを食った空港で若き研究者が語ったところによると、グリーンランドの北端に動物たちの魂が肉体を求めに来る「死者の国」があるという。
*台所の黒人――ある朝、いきなり立ち現れた黒人とのひとときの交流とその余韻。
*ウィディーマの願い――研究者である語り手が、オーストラリアの狩猟民族ウィディーマと過ごした日々を振り返る。
*我が家へ――若くして名声を勝ち取った植物学者のコールター。気がつけば親しかった森からも家族からも遠い存在になっていた。
*ソノーラ……沙漠の響き――「『アル・ハリジャにおける三日月型砂丘の双曲線』と題した論文で、オアシスが直線上に点在するエジプト南部の沙漠について書いたウィクリフの文章は、化学者の発表としては不謹慎なほど官能的だった。」
*クズリの教え――クズリとは哺乳類肉食目イヌ亜目クマ下目イタチ上科イタチ科イタチ亜科クズリ属の小型のクマのような姿をした肉食動物で、英名は「ウルヴァリン(wolverine)」。山好きの整備士がルビー山脈に住むクズリによって自然との関わり方を教えられる。
*ランナー――ある女性がグランドキャニオン公園内でアナサジ時代の大きな壷を発見した、という新聞記事を見てその女性は姉のミラーラだと確信した語り手。「これは姉さん?」と書き込んでコピーを送ると、その質問に感嘆符を書き添えたものが返送されてくる(ヴィクトル・ユゴーと出版社のやりとりを真似たわけですね)。
(2017.2.26読了)