『賢者の贈り物』(O・ヘンリー、訳=小川高義、新潮社)
2017年 04月 30日
『The Gift of Magi』(O. Henry)
読書会「かんあおい」2017年4月の課題図書。
本書はO・ヘンリーの381の短編から数十編を選んで3冊にまとめた「O・ヘンリー傑作選」の第1集で、16の短編が収録されている。O・ヘンリー作品の舞台は主にニューヨークのハドソン川とイースト川に挟まれたマンハッタン、時代は20世紀初頭である。作品の特徴はどんでん返し(twist ending)と滑稽味で、本題に入る前の前置きがしつこい傾向があるのが難だが、人情味のある温かい作品が多い。特におもしろく読んだ作品は以下の通り。
*二十年後――西部で一旗揚げ、20年後の再会を約束した友人ジミー・ウェルズに会うためにニューヨークにやってきたシルキー・ボブ。お尋ね者のため人目を避けて暗がりに立つ彼に、一人の警官が近づいてきて話しかけ、また去って行く。
*水車のある教会――カンバーランド山地レイクランズ村にある宿屋に毎年秋に現れる上客のエイブラハムさん。昔レイクランズで粉屋をやっていたとき、4歳になったばかりの娘アグライアが行方不明になるという悲しい経験をしている彼は、アグライア銘の小麦を災害地に無料で供給している。また、昔の水車小屋を改装して教会にし、オルガニストや牧師の年俸も出している。一方、アトランタでデパートの店員をしているローズ・チェスターは幼い頃の記憶がなく……。
*緑のドア――ピアノ店の販売員のルドルフ・スタイナーは、ある建物の前で、アフリカ系の男から「緑のドア」とだけ書かれたチラシを渡される。他の通行人の受け取ったチラシには2階の歯科医の宣伝文句がある。スタイナーが2階を通過して3階に行き、緑色のドアをノックすると、極貧の部屋に二十歳前と思われる蒼白の顔の娘が横たわっていた。3日も食べていないという娘のために食料を調達してきて食べさせた彼が帰りがけに4階に行ってみると、すべてのドアが緑色だった。建物から出てチラシ配りの男を問い詰めると、「緑のドア」は街路の先でやっている芝居の演目で、歯科医のチラシを配るついでに時折混ぜて配っていたという。
「二十年後」と「水車のある教会」にはドラマチックな物語性があり、「緑のドア」には一幅の絵画のような趣がある。
(2017.2.18読了)