『ミラード』(ラフィク・シャミ、訳=池上弘子、西村書店)

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『Milad』(Rafik Schami, 1997)




物語はダマスカスの大学生が行き倒れの老人ミラードから聞いた「ミラードの身の上話」という形になっている。夏になると山の中にあるマルーラ村に現れては子どもたちの人気をさらっていたミラード。男たちは笑いものにし、女たちは彼が腹を立てることを妙に怖れていたミラード。そのミラードの嘘か誠か、夢か現か見紛う奇想天外な物語が、「千夜一夜」ならぬ八夜にわたって語られていく。八夜のタイトルは以下のようになっている。
第一夜「ミラードはなぜ見知らぬ土地に行ったのか」/第二夜「ミラードは信心深い男の家で経験を積んだ」/第三夜「ミラードは心ならずもロシア革命に巻き込まれた」/第四夜「なぜミラードは自分の評判を聞き流したのか」/第五夜「ミラードは墓荒らしの男と気心が通じ合うことに気づいた」/第六夜「ミラードは売春宿でモラルを学んだ」/第七夜「村の長老は馬糞を食べるはめになった」/第八夜「ミラードは試練に耐えて宝物を手にした」
飢えと暴力にさいなまれながらも決してへこたれることのないミラードは、まるで絢爛豪華な生涯であるかのように誇らしげに身の上話を展開していく。

作者が『蠅の乳しぼり』『空とぶ木』のラフィク・シャミであり、出版社が西村書店であればこの作品も青少年向けの内容だろう、と勝手に思い込んでいた。それがとんでもない間違いだということに途中で気がついたが、それはそれとして一風変わった面白い作品だった。読後に、西村書店について調べたところ、児童書だけでなく医学専門書や一般書なども扱う出版社だった。ラフィク・シャミ(1946~ )もまた、大人向けの作品もいろいろ出していて、代表作は『愛の裏側は闇』(2004、東京創元社)だという。「ダマスカスを舞台に、それぞれカトリックとギリシア正教の二つの家の100年にわたる確執を描いた作品」ということで、機会があったら(近くの図書館にあったら、と同義語)読んでみたい。
因みにラフィク・シャミは筆名で、ラフィクは「仲間/友人」、シャミは「ダマスカス人」の意だという。ダマスカスのキリスト教地区に生まれた彼は、家ではアラム語、学校ではアラビア語という環境で育ち、1971年にドイツに亡命したあとドイツ語で作家活動をしている。(2017.1.31読了)
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by nishinayuu | 2017-04-06 10:22 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2017-04-06 21:42 x
内容もおもしろそうだし、母語でない言葉で小説を書くなんてすごい、すごい!
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