『마상에서』(박완서)

『馬上にて』(朴婉緒)
韓国語講座テキスト。短編集『黄色い家』に収録されている作品。
韓国では旧暦で正月を祝う。正月休みを利用して故郷に帰省する人も多い。最近は海外に出かける人も増えたという話を他人事のように聞いていた著者だったが、ある年、旧暦の正月にネパール旅行をすることになった。旅行団は70代から10代までの老若男女によって構成されていたが、トレッキングのコースは20代の若者向けになっていて、日程表を見ただけでも相当きつい旅行になりそうだった。その旅行に著者は大学に入ったばかりの孫を連れて行くことにした。勉強さえできればいい、という感じで甘やかしてきた孫に、少しは肉体的にきついこともさせてみようと考えたのだった。
c0077412_1061852.jpgさて旅行先では、トレッキングで最初に音を上げたのは最年長者の著者だったが、年長者のために数頭の馬が用意されていたので、きつい上りにさしかかるたびに馬に乗せてもらった。著者は馬に乗るのが初めてなので怖くてたまらなかったのだが、孫が手綱を取ってくれたので、安心して乗っていられた。そしてその日が正月だったからか、ふと、祖父と過ごした正月のことが思い浮かんだのだった。
著者は祖父に特別にかわいがられて育ったが、教育熱心な母の計らいでソウルの学校に入れられたため、8歳で祖父の許を離れた。そんな孫娘のために、祖父は正月を新暦で祝うことにした。新暦の正月には学校が長い間休みになるからだ。時は日帝強占期。正月を新暦で祝うことが強制され、旧暦の正月の時は学校も役所も休みにはならなかった。けれども人々はこっそりと旧暦の正月を祝い、旧暦の正月を守ることをまるで独立運動のように感じていた。そんな中で村の精神的な支えでもある祖父が孫娘のために新暦の正月に、つまり「日本式に転向」してしまったのだ。正月は子どものための行事だという信念を持って祖父は、人々の陰口をものともせず、孫娘のために正月気分を盛り上げることに力を注いだ。こんな祖父のおかげで著者は、小学校時代の冬休みは半月の間ずっとゆったりとした豊かな祝祭の期間だった、と記憶することになる。
祖父にかわいがられ、大事にされた記憶がその後の人生でも自分を支えてくれた、と著者はしみじみ思う。そして今回のきつい旅は孫にどんな記憶として残るのだろうか、と想像してみる。かわいがられ、大事にされた記憶として残ることを祈りつつ。

大学受験生の事情、海外旅行事情、トレッキングと馬の関係、著者の祖父の人柄、日帝強占期のあれこれ、正月行事のあれこれなどなど、盛りだくさんな内容で読みでがありました。(2017.1.23読了)
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by nishinayuu | 2017-04-02 22:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2017-04-02 23:56 x
幼い頃の楽しい思い出は宝物ですね。
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