『いつ死んだのか』(シリル・ヘアー、訳=矢田智佳子、論創社)

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『Untimely Death』(Cyril Hare、1958)
著者はこの作品を書いた1958年に57歳で他界したという。すなわち本作品は著者の遺作ということになる。


舞台はイングランド・サマーセット州のエクスムーア。北にブリストル海峡を望む景勝地で、主人公ペディグルーの故郷という設定。このエクスムーアにペティグルーはまだ若い妻エリナーと休暇のためにやってくる。エリナーが言い出したこの旅行に、旅先のなじめないベッドを思い浮かべて渋々やってきた感じの主人公だが、「眠れないまま横たわり、壁に映る月影が動いていくのを眺めながら、ここへ来たのはいい考えだったと納得できる気がしてきた。最近では恥ずかしながら、エリナーの思いつきなくして、ひどく単調な二人の生活から脱却するのは難しいと感じていた」という。気弱になっているもう若くない男、しっかり者らしい若い妻、休暇旅行、壁に映る月影――なかなかいい感じの書き出しである。
ペティグルー夫妻が休暇を過ごすために借りた部屋は、エクスムーアの外れにあるサロークーム農場にあった。かつてのこの家の住人は、陽気で荒っぽく、よく酔っ払っていて、少年のペティグルーを魅了したかと思えば震え上がらせる、ディケンズの小説に出てきそうな夫婦者だった。それに比べると今の住人は妻のいない地味な肉屋と、その娘である地味な女で、前の夫婦に比べるとさえない親子だった。が、常に周囲の人間に鋭い観察眼を向けているペティグルーは、その親子が本当にさえないだけの人間なのか、疑問に感じた。(という具合に早い段階でこの親子が重要な人物であることが暗示される。)
前半はペティグルーが〈暴走馬の茂み〉で死体を発見するが、人を呼びにいって現場に戻ったときは死体が消えていて、3日後にまた同じ場所で死体が発見される、という不可解な出来事を中心に展開する。ペティグルーは少年の頃にやはり〈暴走馬の茂み〉で変死体を発見していた。そのときの恐怖から幻覚を見たのか、あるいはエリナーの言うように〈予知能力〉のせいで実際の事件より3日前に死体を見てしまったのか。
後半はその死体の男(サロークームの住人である地味な女の、別居中の夫ジャック・ゴーマン)がゴーマン家の莫大な財産を継承する権利があったかどうかに関する裁判を中心に展開する。地元の旧家であるゴーマン家の莫大な財産はギルバート・ゴーマンが継いでいたが、彼は9/10(日)に病気で急死している。その時点でジャックが生存していれば財産はジャックのものになるが、ペティグルーが死体を見つけたのはその前日の土曜だったのだ。ペティグルーは旧友で元警部のマレットの依頼で法廷に出向く。

主人公夫妻は二人とも弁護士ということになっているが、夫の方は年のせいかばりばりの感じは皆無。法廷闘争の場面は原告代理人も主人公の旧友ということから、穏やかでユーモラスな雰囲気が漂っていて、緊張感ゼロ。たまにはこんなミステリーもいいかもしれない。(2016.11.20読了)
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by nishinayuu | 2017-01-20 09:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2017-01-22 19:24 x
肉屋と死体は相性がいいみたいですね。ぞくぞくします。
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