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『ジェニー・ブライス事件』(M.R.ラインハート、訳=鬼頭玲子、論創社)


c0077412_951932.jpg『The Case of Jennie Brice』(M.R.Rinehart、1913)
作者は1876年アメリカのピッツバーグ生まれで、アメリカ初の〈ミステリーの女王〉といわれているという。生まれたのも世を去ったのも、〈世界のミステリーの女王〉であるアガサ・クリスティより20年近く前だが、アメリカでは今も強い人気を誇っているという。

この作品はEverybody’s Magazineという雑誌に1912年10月号から1913年の1月号にかけて連載されたミステリー。アガサ・クリスティの多くの作品と同様に、殺人はあっても凄惨な殺しの描写はなく、むしろ叙情的な香りが漂う文学作品といった感じの作品である。
ピッツバーグを舞台とするこの作品は、印象的な洪水の場面から始まる。

また、洪水がきた。(中略)昨日地下室の泥をシャベルで掻き出していたところ、ピーター(スパニエル犬)の死体が見つかった。(中略)洪水、そして地下室の果物入れで半分泥に埋まって見つかったラドリー氏の犬。この二つが5年前の洪水の際に起きた、奇妙な事件の記憶を呼び覚ました。あのときは水が一階の部屋の半ばを越えた。

語り手はミセス・ピットマン(仮名)。ピッツバーグの由緒ある家の出身で、15歳まで市内の高級住宅街で過ごしたが、1878年に駆け落ちして以来、家族とは音信がない。20年の放浪の末ピッツバーグに戻ったのは、夫を亡くして郷愁に駆られたためで、家族との和解などは考えられなかった。アレゲーニー川の下流で賄い付きの下宿をやって暮らしているが、困ったことに毎年春には水害に遭う。冬の間に上流の谷が氷塊に埋め尽くされ、春になると氷が砕けて川を溢れさせる。5年前は特にひどい洪水に見舞われ、そのさなかに下宿人の女性が失踪。洪水を利用した夫による殺人が疑われ、下宿の人々や町の人々を巻き込んだ大事件に発展した。このときミセス・ピットマンは冷静沈着な推理でその事件を解決に導いただけでなく、妹には内緒でその娘であるリダ・ハーヴェイと親密な関係を築くことができたのだった。
その他の主要登場人物は以下の通り。
ジェニー・ブライス(下宿人。リバティ劇場の女優で洪水の日に行方不明になる)、フィリップ・ラドリー(下宿人。ジェニーの夫で失業中の俳優。ジェニーが失踪した夜、下宿のボートでこっそり出かけている)、ブロンソン(リバティ劇場の支配人)エリス・ハーウェル(新聞記者。リダ・ハーヴェイの恋人。ジェニーの失踪に関して不可解な言動を見せる)、ホルコム氏(エリス・ハーウェルの友人で、独自のやり方で事件を追う。引退した商人)、レイノルズ氏(下宿人。川向こうの店で絹製品を売っている商人)、アリス・マレー(速記タイピスト。洪水の日に失踪)、モリー・マグワイア(隣家の主婦。水から引き上げたジェニーの毛皮のコートを拾得)、アイザック(昔、屋敷の御者をしていた黒人。ベスお嬢様、と呼びかけて泣きながらミセス・ピットマンを抱きしめる)
(2016.9.24読了)
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by nishinayuu | 2016-11-21 09:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2016-12-01 17:55 x
100年前のピッツバーグの香りが漂うミステリー。読んでみたい!
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