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『いちばんここに似合う人』(ミランダ・ジュライ、訳=岸本佐知子、新潮クレストブックス)


c0077412_9295541.jpg『No One Belongs Here More than You』(Miranda July, 2007)
著者は1974年にともに作家である両親のもとに生まれた。パフォーマンス・アーティストとして活躍する一方、映画制作でも注目を浴び、さらに2001年頃から小説を発表し始めたという多才なアーティストである。本書は著者の初めての小説集で、フランク・オコナー国際短編賞を受賞し、多くの作家・批評家から絶賛されたという(本書の著者紹介より抜粋)。この新潮社版にもサンフランシスコ・クロニクル紙、ジンク誌、角田光代らの評が紹介されているが、それらの中でいちばんぴったりきたシアトル・タイムズ紙の評を紹介しておく。
ミランダ・ジュライは、奇妙で抗しがたい、新しい声を持った作家だ。彼女の描く世界はリアルだがシュールで、絶望的に悲しく、それでいて「秘密の悦び」に満ちている。

収録されている全部で16の作品を、収録順ではなく「印象に残った順」に並べてみた。
「その人」――みんなは公園のピクニック・テーブルのところで待っている。苦手だった科目の教師たち、最低野郎たち、今まで恋愛したすべての人たち、去って行った人たちもそこにいて、その人に拍手している。その人は郵便物が来ているのを期待して、すぐ戻るから、といってピクニックを抜け出す。手紙は来ていない。留守電にもメッセージはない。もうピクニックには戻れそうもない。みんなから愛されるたった一度のチャンスをふいにしたことを悲しんでベッドに横たわる。胸にのしかかる悲哀の重みが、どこか心地よい。目が閉じていき、その人は眠りにつく。
「2003年のメイク・ラブ」――15歳のとき、夜中に部屋に入ってきた黒い影とわたしは愛し合った。大学生になってリアルな彼氏が欲しくなり、黒い影に別れを告げた。影は「いつか人間の姿になって戻ってくる。そのときの名前はスティーヴだからね」と言って泣く泣く離れていった。特別支援学校の補助教員になった私の前に背の高い少年が現れたとき、彼の中の黒いものが一瞬私を包み込んで、久しぶりだねベイビー、とささやきかけた。少年の名はスティーヴだった。
「共同パティオ」――デザイナーで「新男子」ヴィンセントが発作を起こして意識を失ったとき、わたしは彼に「あなたは悪くない」とささやいた。それは、私がずっと誰かに言ってあげたかった、そして誰かに言って欲しかった、たった一つの言葉なのかもしれなかった。
「妹」――年寄りの独身男の自分に、ヴィクトルが「妹のブランカを紹介してやる」という。それから数週間の間、何度もブランカに会う機会があったが、いつもすれ違いでついぞ姿を見ることはできなかった。
その他の作品はタイトルだけ、やはり印象に残った順に記しておく。
「子供にお話を聞かせる方法」「十の本当のこと」「あざ」「何も必要としない何か」「モン・プレジール」「水泳チーム」「マジェスティ」「ロマンスだった」「わたしはドアにキスをする」「動き」「階段の男」「ラム・キエンの男の子」。

角田光代の言うように「見事なくらい挑発的な短編小説が並んでいる」し、名人級の翻訳家の訳なので読み出すと途中で止まらなくなる。ただし、消化しきれない作品(最後にあげた数編)もあって、どっと疲れた。(2016.9.15読了)
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by nishinayuu | 2016-11-09 09:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2016-11-10 18:16 x
自分だけの世界。夢のような意識の流れ。いろいろな小説がありますね。
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