『ペナンブラ氏の24時間書店』(ロビン・スローン、訳=島村浩子、東京創元社)

c0077412_9341215.jpg『Mr. Penumbra’s 24-Hour Bookstore』(Robin Sloan, 2012)
語り手のクレイが話し始める。「これから話すのはぼくがめったに紙に触らなかった日々の話だ。(中略)」21世紀初頭にアメリカを襲い、ハンバーガーチェーンを倒産させ、スシ帝国にシャッターをおろさせた外食産業大不況の影響で、ぼくは失業中だった。」

語り手はノートPCで求人広告に目を通しはじめるが、目にとまった雑誌記事を「あとで読む」リストに追加したり、読みたい本をダウンロードして読み始めたりしてしまう。これではらちがあかないと気づいた語り手はスマートフォンを引き出しにしまって外に出る。サンフランシスコは散歩にいい場所だった。そうして見つけたのが「ペナンブラ氏の24時間書店」だった。窓に貼られた求人ビラには「店員募集/夜勤/特殊な応募条件あり/諸手当厚遇」とあった。
ペナンブラ氏はとても年取った男性で、ライトグレーのボタンダウンに青いカーディガンを着ていた。背が高く、やせていて、瞳はカーディガンと同じ青い色だった。この店主から好きな本を聞かれて『ドラゴンソング年代記』と答えたのが気に入られたようで、語り手はアルバイト店員として採用になる。「特殊な条件」の一つは「梯子にのぼれること」だった。書棚はとても高く、上方は空気も薄くてコウモリが見える気がするほどだった。(ここまでで、本好き、古書店好きは作品世界にぐっと引き込まれる。)
さて、アルバイトを始めてすぐに語り手はこの店がふつうの古書店ではないことに気づく。道路に面したスペースは普通の古書店だが、その奥に「奥地」と呼ばれる特殊な古書の棚があった。そこを訪れるのは数人の限られた人たち――コデックス・ヴィータイ(codex vitae)という暗号書を解読するための秘密組織「アンブロークン・スパイン」の会員たちだった。ペナンブラ氏の目を盗んでこれらのことを突き止めた語り手は、友人・知人の力を借りて暗号を解読しようと思い立つ。こうして、500年の間続けられてきたアナログ的手法を厳守しつつ暗号解読を目指す秘密組織を相手に、最新のハイテクに精通した若者達の挑戦が始まる。(このあたりから、ミステリー+ハイテクの世界がめまぐるしい展開を見せるので、ますますこの作品の世界にのめり込むことになる。)

本作品には最新のテクノロジー情報をはじめ現実社会の様々な情報があふれているが、現実にはない事物・事象もそれとなく仕込まれている。たとえば『スターウォーズ』や『ハリーポッター』と並んで『ドラゴン年代記』という作品関連の言及がたびたびあるが、どうやら作者の仕掛けたいたずららしい。もう一つ、「もしかしたら知らないのは私だけ?」と気になってネットで調べてしまったのが「ゲリッツズーン書体」。テクノロジーに関しては、元コンピューター・オタクだったのに最新の情報には全くついていけていないペナンブラ氏に、大いに親近感を覚える。(2016.8.22読了)
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by nishinayuu | 2016-11-01 09:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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