『風土記の世界』(三浦佑之、岩波新書)

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本書は古代文学、伝承文学を専門とする学者である著者が「風土記とはどういう書物か、なにが書かれているのか、どういうおもしろさがあって、どんなところが大事なのか」という情報を一般読者向けにまとめたものである。始めの2章が風土記の成立や内容の概説、第3章以降が国別の内容紹介となっている。

始めの2章で「8世紀初頭の日本列島を記録した資料」である『風土記』の成立や内容が概説されている。すなわち『風土記』は平城京への遷都から3年後の和銅6(713)年に律令政府が各地方に発した「風土記撰録の命令」によって編まれたものである。「風土記」と呼ばれるのは後のことで、本来は政府の命に対する報告文書である「解」と呼ばれる公文書だった。撰録すべき項目は、特産品、土地の肥沃状態、山川原野の名前の由来、古老が相伝する旧聞異事などだった。当初政府は、中国の例にならって紀(歴代天皇の事跡の記録)・志(支配領域の現状の記録)・列伝(皇子や臣下の事跡の記録)から成る「日本書」の編纂を目指したが、養老4(720)年に「日本紀」が成立したあと、何らかの理由で頓挫したものと思われる。この「日本紀」が現在『日本書紀』と呼ばれているもので、本来は「日本書 紀」であったはずである。そして『風土記』は、「日本書 志」のために収集された記録の名残と考えられる。
第3章以降で国別の内容が紹介される。現在、いちおうまとまった形で遺る風土記(解)としては、常陸、出雲、播磨、豊後、肥前の五か国のものがあり、逸文(後の文献に引用されて遺ったもの)として30~40か国のものがある。それら「もう一つの歴史と伝承の宝庫」の内容とそれらの読み解き方が詳しく、そしてわかりやすく紹介されていく。
第3章は常陸国風土記では正史の「日本書」紀にはもちろん、『古事記』にも出てこない「倭武天皇(やまとたけるのすめらみこと)」が取り上げられ、古事記の倭建命・日本書紀の日本武尊が風土記ではなぜ天皇として登場するのかが考察されている。古事記・日本書紀のヤマトタケル伝説ではただの通過点としてしか存在しない常陸国が、その風土記で一方的な形で倭武天皇への熱い思いを寄せているのは、東征の帰途における悲劇的な死が伝えられる以前の、東への遠征が通過儀礼として機能することによって皇位につくはずのヤマトタケルが常陸国において生き続けていたからだ、という論は説得力がある。
第4章では出雲国風土記が他の風土記とは違って撰録の命令から20年も経った天平5(733)年に提出されたのはなぜか、選録の責任者が国守ではなく国造となっているのはなぜか、「日本書」紀との関係は、などが考察されている。さらに出雲国の特殊性とその神話、「日本海文化圏」、出雲の神々の始祖であるカムムスヒ、出雲神話と古事記神話の関係、などなど興味深い話が盛り込まれている。
第5章では播磨国風土記、豊後国・肥前国風土記に見られる笑われる神や天皇、女性首長、鮎釣り、稲作などに関する伝承が取り上げられていて、風土記の世界のおもしろさが伝わってくる。
230ページほどの新書ながら、かなり中身の濃い一冊である。(2016.8.14読了)
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by nishinayuu | 2016-10-28 09:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2016-11-01 00:29 x
興味深い書籍ですね。日本書紀、古事記、風土記の3点が古代史解明の入口ですね。読んでみましょう。
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