『アリラン峠の旅人たち』(編訳=安宇植、平凡社)


c0077412_14323820.jpg『숨어 사는 외톨박이』(편역=안우식)
原題は「隠れて暮らす独りぼっち」の意で、副題に「聞き書き 朝鮮民衆の世界」とある。すなわち本書は社会の底辺に暮らす民衆、朝鮮半島の伝統文化を底辺から支えてきた人々の姿を伝えたものである。収録されているのは下記の10編で、月刊誌『根の深い木』に1976年3月号から1979年2月号まで掲載された36編から抜粋されたものだという。随所に写真や図の他に風俗画(金弘道や申潤福の作品)が取り込まれ、魅力溢れる読み物となっている。
1「市を渡り歩く担い商人」筆者は作家の黄晳英――交通網が発達しなかった時代に、物資の流通を担って民衆の生活を支えた「褓負商」たちの起源とその組織、掟、浮き草のような人生を綴った掌編。
2「朝鮮の被差別部落民」筆者は民俗学者の徐廷範――賤民階級のうち、屠殺業に従事する「白丁」といった。一般民衆との共同生活の道を閉ざされていた彼らが作り上げた独自の習慣、伝統などがまとめられている。
3「妓生文化のたそがれ」筆者は記者の薛湖静――かつての名妓・楚香への密着取材によって書き上げられた妓生のすべて。朱子学の泰斗・李退渓が斗香という妓生の愛人だったという情報も。記者の目と筆致が冷徹というか冷たいというか。
4「放浪する芸能集団」筆者は詩人の姜昌民――ここに紹介されているのは様々な芸能集団のうち「男寺党」と呼ばれる非公認の旅芸人。両班に対する庶民の敵意を代弁したが、自分たちをはじき出した庶民を含めてあらゆるものに対する敵愾心をうちに秘めた集団だったという。集中で最も筆致が温かく、内容も濃い。
5「最後の芸人」筆者は詩人の申瓚均――公認の芸能集団「広大(クァンデ)」の一部である才人(綱渡り芸人)について。
6「民衆の中のシャーマンたち」筆者は5と同じ――神霊を感得する能力を持つ女性を巫堂(ムーダン)といい、悪霊をはらう儀式をグッという。彼らの生き方や独自の隠語なども紹介されていて興味深い。
7「魂を鎮める喪輿の挽歌」筆者は記者の金明坤――喪輿都家(現在の葬儀社)で働いてきた老人への密着取材記事。挽歌数編が収録されている。
8「墓相を占う風水師」筆者は作家の金源錫――ソウルの光煕門に連なる城壁にへばりつくように建つ小さな韓屋があり、ひとりの風水師の老人が住んでいる。この老人を主人公に、『ハメル漂流記』、『三国遺事』『東国輿地勝覧』などの引用もふんだんに取り入れて小説風に仕立てた「風水のすべて」。
9「朝鮮鋸も錆びついた」筆者大学講師の尹九炳――伝統技法をまもる老大工が昨今の「大工仕事」と大工の明日に疑問を投げかける。
10「市を巡る鍛冶屋一家」筆者は作家の文淳太――苦労してものにした鍛冶屋の技術を息子に引き継ぐ喜びを綴った、これもまた小説仕立ての一編。
(2016.7.23読了)
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by nishinayuu | 2016-09-30 14:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(3)
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Commented by マリーゴールド at 2016-10-06 20:47 x
おもしろそうですね。小説仕立てが気になります。作者の創作が入っていないといいですが。真実を知りたいですね。
Commented by nishinayuu at 2016-10-08 15:42
マリーゴールド様へ。コメントに感謝しつつ一言。
本書は「事実の記録集」とか「学術研究書」と銘打っているわけではありませんから、小説仕立てであってもなんの問題もないと思います。
それに、小説や詩の場合は、事実をオブラートで包んだり、想像力で膨らませたりすることによってより深い真実を伝える、ということもあるのではないでしょうか。少なくとも本書では事実を忠実に記録したと思われる文より、小説仕立ての文のほうが心に残りました。(ただし「小説仕立て」ということばは本書にはでてきません。)

Commented by マリーゴールド at 2016-10-20 03:09 x
そうですね。歴史的な事実をどう認識するかということですから、想像力で膨らました方がわかりやすいし、理解もふかまりますね。
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