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『優雅なハリネズミ』(ミュリエル・バルベリ、訳=河村真紀子、早川書房)


c0077412_9584623.jpg『L’élégance du Hérisson』(Muriel Barbery,2006)
本書は『至福の味』(早川書房、2000年)の作者による二作目の作品である。
作品の舞台は前作と同じくパリ15区にある高級住宅街グルネル通り7番地のアパルトマン。調べてみたところ現在ここにあるアパルトマンは5階のようだが、本作では7階まであって、3階と4階はそれぞれ2家族が住み、他の階は1家族でワン・フロアーを占めている。1階の住人は前作と同じく管理人のルネ・ミシェル。ほかにも前作の主人公だった料理批評家のピエール・アルサンをはじめとして、アパルトマンの複数の住人たちが本作にも顔を出している。
一方、新しい住人も登場する。それがなんと日本人で、名前はオヅ・カクロウ。小津安二郎の遠い親戚という設定のこの人物、渋くて素敵な初老の男性である。そしてこのオヅ氏はルネを一目見るなり、ルネが住民たちにはひた隠しにしてきた知性と感性を見抜く。27年の間グルネル通り7番地の管理人をしているルネは、貧しい農家の出で学歴もない54歳の未亡人。背が低くて醜く、地味で凡庸で、無精で無愛想で気難しく、のらりくらりとした巨大な猫を飼っている。すなわち管理人たる者はどうあるべきかという人々の思い込みに順応しているのだが、実は内に秘めた知性と感性を見破られないように棘の砦で身を守る「優雅なハリネズミ」だったのだ。
もう一人の主要人物は6階に住むジョセ家の次女で12歳のパロマ。家は裕福で父も母も高学歴、高等師範学校で哲学を学んでいる姉のコロンブも一般的に見れば秀才であるが、パロマから見ればみんな凡庸な人物である。ずば抜けた秀才であると自認するパロマは、自分が人生で成功することはもう決められているわけで、そんな人生を生きていくことに絶えられないから13歳になる日に自殺する、と決めている。
物語はルネの語りを基調に、パロマの2種類の日記「私は想う」と「世界は回る」が差し込まれる形で進行していく。オヅ氏の登場によって、それまで自分を隠して生きてきたルネは初めて本来の自分らしい生き方に目覚め、人生に絶望していたパロマもまた生きる意味を見いだしていく。

作者の専攻(哲学)と日本びいきのせいで、ときどきかなりの蘊蓄が入るが、全体としては適度に知的で楽しい読み物になっている。ルネとオヅ氏が互いの好みの一致に気づいたきっかけがトルストイの「アンナ・カレーニナ」だったり、ルネのハリネズミぶりがばれたきっかけがオヅ家のトイレに流れる曲がモーツアルトの「レクイエム」だったり、さらにフェルメールをはじめとするオランダ絵画が好きという共通点もある。というわけで、作中に言及されている文学や音楽、そして絵画作品は挙げれば際限が無いので、映画にしぼってメモしておくことにする。
「お茶漬けの味」「風と共に去りぬ」「ブレードランナー」「レッド・オクトーバー」「ターミネーター」「ノッティングヒルの恋人」「東京画」「宗方姉妹」「スタートレック」「ブラック・レイン」
(2016.6.16読了)
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by nishinayuu | 2016-08-21 09:59 | 読書ノート | Trackback(1) | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2016-08-21 22:09 x
蘊蓄を読むだけでもおもしろそうですね。「ブラックレイン」は高倉健が亡くなったときに見ましたが、アメリカ人の見た犯罪都市大阪が面白かったです。
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