『フランス紀行』(ブノワ・デュトゥルトル、訳=西永良成、早川書房)

c0077412_10171966.png
『Le Voyage en France』(Benoît Duteurtre, 2003)
モネの『サン・タドレスのテラス』による色鮮やかな装丁が目を引く本書は、ル・アーヴルのサン・タドレス生まれの作者による第七作目の長編小説である。

主要登場人物は二人。一人はル・アーヴルで生まれ育ち、今はパリで暮らす中年のジャーナリスト。今はタクシーの中で無料配布される月刊誌『タクシー・スター』の副編集長という冴えない肩書きしかないが、もっと自分の能力にふさわしい仕事があるはずだと思っている。アパルトマンの部屋には20歳だった頃の彼を夢見心地にさせていたニューヨークの写真の横に、ル・アーヴルの海岸を描いたモネの複製画が掛かっている。
もう一人はニューヨークに住む22歳の青年。彼は19世紀にル・アーヴルに集まった芸術家たちに憧れ、モネの「サン・タドレスのテラス」の複製画を自室に掲げていて、この絵画についても、サン・タドレスの日常生活についても講演できるほど詳しい。
物語は二人が交互に登場して、一人はほとんど意味のない職業生活の中に閉じ込められている日々を語り、もう一人はあこがれのフランスにやって来たのはいいけれど、見るもの出会うもののことごとくに失望させられる日々を語る。この二人がある日、「クール・デ・ミラクル」という酒場で顔を合わせたのがきっかけで、ディエップにあるソランジュという女性の別荘に一緒に出かけることになる。その別荘のベランダから海辺を見下ろした青年は、まるでモネの絵の光景みたいだ、と歓声を上げる。それもそのはず、モネの風景画はこの別荘で描かれたものだったのだから。

アメリカ人の青年は父親を知らない。母親が若い頃に一夜のアヴァンチュールでもうけた子だったから。青年は別に父親を知りたいとは思っていないのだが、物語のそこここにフランス人のジャーナリストが彼の父親かもしれないという仄めかしがある。このミステリー的要素と、変貌しつつあるフランスの中で失われた古いフランスを求めて彷徨う「フランス紀行」の魅力で読ませる作品である。(2016.5.24読了)
[PR]
by nishinayuu | 2016-07-28 10:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/25850007
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by マリーゴールド at 2016-07-29 10:29 x
若者には最高の出会いですね。
<< 『나의 문화유산답사기-일본편... 『直筆商の哀しみ』(ゼイディー... >>