『直筆商の哀しみ』(ゼイディー・スミス、訳=小竹由美子、新潮クレストブックス)


c0077412_10201813.png『The Autograph Man』(Zadie Smith, 2002)
本書の主人公アレックスは直筆商、すなわち「有名人のサインや直筆文書を売り買いする商売人」である。本書ではまずアレックスの12歳のある日の出来事が語られる。ロンドン郊外のマウントジョイに住む中国人医師リ・ジンと息子のアレックスは、ロイヤル・アルバート・ホールにレスリングの試合を見に行った。知り合いのルービンファイン(15歳)、アダム・ジェイコブス(13歳)も一緒だった。リ・ジンは試合の結果について子どもたちと賭をした。リ・ジンが負けたら一ポンドずつ上げる、といって三人の名前を三枚のお札に書いた。
試合会場では、ジョーゼフ・クラインという少年(13歳)と隣り合った。ジョーゼフは「サイン、直筆、その他諸々の蒐集家」だが、父親からは「ただの役立たず」と見做されている。アレックスがジョーゼフのコレクションに興味を示すのを見たリ・ジンは、自分がいなくなった後アレックスの気を紛らわしてくれるのはこの子かも知れない、と思う。試合は少年たちの予想が当たってリ・ジンの負けに終わり、少年たちはそれぞれ自分の名前が書かれた1ポンド札を手に入れる。リ・ジンはジョーゼフにも1ポンド札を与える。その直後にリ・ジンが倒れて急死したため、少年たちにはリ・ジンの1ポンド札が特別の意味を持つものになったのだった。
それから15年後、アレックスはいっぱしの直筆商になっていた。リ・ジンの1ポンド札が結んだ四人の友情も続いていた。

主人公は母親がユダヤ人で、他の三人もユダヤ人(アダムは界隈では珍しい黒いユダヤ人)ということで、本書にはヘブライ文字やらカバラやら、ユダヤ教の儀式やらが溢れている。それはまあいいとして、後半部の章にはなぜか禅門修行者のための「十牛図」の標題が使われている。また、直筆の収集・取引の話なので、様々な分野の有名人についての情報も満載されていれば、全編に「国際的に通用するジェスチャー」というものもちりばめられている。ストーリーは単純明快なのに、とにかく情報過多で疲れました。「細部がひどくおもしろく、あちこちに笑いがはじけているのもこの作者の特徴だ。おかげで、一行一行翻訳を進めていく作業がとても楽しかった」という訳者のことばに、またどっと疲れました。(2016.5.21読了)
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by nishinayuu | 2016-07-24 10:21 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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