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『手紙』(ミハイル・シーシキン、訳=奈倉有里、新潮クレストブックス)


『手紙』(ミハイル・シーシキン、訳=奈倉有里、新潮クレストブックス)_c0077412_11381010.jpg『Письмовник』(Михаил Шишкин、2010)
物語はワロージャとサーシャの交わす書簡という形で展開していく。ただし、最初のうちは二人のつかみどころのないおしゃべりが続き、二人の関係も、時代や場所もはっきりしない。ワロージャがロシア軍の兵士として中国に赴き、義和団との戦闘の真っただ中にいること、サーシャが恋人ワロージャとの思い出を胸に、現代のロシアで医師として生きていることがわかるのは、かなり読み進んでからだ。
ワロージャは戦死してからもずっと愛の手紙を送り続け、サーシャもワロージャの葬儀に参列した後もあいかわらず、子供時代の思い出や現在進行形のあれこれをワロージャに書き送る。こうして読者は、1900年の「義和団事件」という歴史上の出来事をワロージャとともに体験しながら、一方では現代ロシアの人々の暮らしをサーシャとともに体験していくことになる。それぞれ独立した物語としても成立する二つの物語を、愛の往復書簡という形で一つのものにまとめ上げた作品、といえる。他の主な登場人物は
ヤンカ(サーシャの友人の美術学生。やがて二人の男の子の母となる)、チャルトコフ(ヤンカの学校の美術教師。妻と別れてサーシャと暮らす)、ソーニャ(チャルトコフの幼い娘。少し斜視気味)、アーダ(ソーニャの母親)、キリル・グラゼナプ(ワロージャの友人。学究的な通訳兵)、リュシー(フランス軍病棟の看護婦)、ヴィクトル・セルゲーヴィチ(ワロージャの中学時代の生物教師)、ワロージャの母親と盲目の義父、サーシャのママとパパ、など。
それにしても、とにかく饒舌な作品である。ロシア文学を読むといつもそう思うのだが、文学的、宗教的、哲学的な蘊蓄がやたらに多くて少々疲れる。読者は少々疲れるだけで済むが、翻訳者の苦労は並大抵ではなかったことと思う。翻訳者に感謝を込めた拍手を送りたい。巻末に翻訳者によるこの作品の読み方の解説があり、大いに参考になる。 (2016.3.13読了)
Commented by マリーゴールド at 2016-05-29 20:44 x
ロシア人っておしゃべりなんですかね。会話のレベルも高そうですね。
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by nishinayuu | 2016-05-29 11:38 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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