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『名もなき人たちのテーブル』(マイケル・オンダーチェ、訳=田栗美奈子、大修館)


『名もなき人たちのテーブル』(マイケル・オンダーチェ、訳=田栗美奈子、大修館)_c0077412_18191127.png『The Cat’s Table』(Michael Ondaatje、2011)
原題にあるキャッツ・テーブルとは、客船の食堂で船長や上客たちの食卓から一番離れた、地位も財産もない人たち、すなわち「名もなき人たち」に割り当てられるテーブルのことだという。11歳の少年マイケル(通称マイナ)が大型客船オロンセイ号の食堂で席を与えられた76番テーブルがまさにこの「名もなき人たちのテーブル」だった。しかしマイケルがこのテーブルで同席した人たちは「名もなき人たち」ではあったが、それぞれに人生の秘密を抱えた人たちでもあった。その面々とは
*カシウス――マイケルと同じ学校の1年上の少年。停学の経験もある反体制そのものの少年。船上では一時も離れないほど密な関係だったのに、渡英後はなぜか疎遠になった。
*ラマディン――同年輩の物静かな少年。マイケル、カシウスと三人組として行動したがいつも他の二人の行き過ぎを抑える役回り。彼が物静かだった理由をマイケルが知ったのは、イギリスで何年も過ごした後のことだった。
*ミス・ラスケティ――なぜかたくさんの伝書鳩を連れて旅しているいる女性。
*マザッパ――落ち目になったと豪語するジャズピアニスト。夜は船上オーケストラと共演し、日中はピアノを教えて船賃を安くしてもらっている。少年たちにとっては素晴らしい話し相手。
*ネヴィル――もと船の解体業者で、船内のどこも出入り自由だった。しばらく東洋で過ごした後、イギリスに戻るところ。
*ダニエルズ――植物学者。船内に植物園を所有。
*グネセケラ――スリランカの小さな町に店を構える仕立て屋。言葉が通じないのか何もしゃべらない。首に赤いスカーフを巻いているのは喉の傷を隠すためらしい。

マイケルは1954年にスリランカ(当時はセイロン)からたった一人でイギリスへ旅立つことになった。インド洋とアラビア海と紅海を渡り、スエズ運河を抜けて地中海へ、そしてイギリスへ、という21日間の船旅だった。イギリスの波止場に着くとそこでお母さんが出迎えてくれる、と教えられたが、母も自分もお互いに相手がわかるかどうかが不安だった。母とはずっと前に別れたきりだったから。一人旅ではあったが、遠い従姉でマイケルにとっては姉のような存在のエミリー・ド・サラムも乗っていた。この従姉は船の旅が終わるころに、護送途中の殺人犯がらみの事件に巻き込まれ、それがもとで船を降りたときは彼女もマイケルも、子供時代は終わりを告げた、と感じたのだった。

時期といい主人公の名前といい、作者の実体験と重なると思われるこの物語は、最初のうちは初めての船旅に戸惑いつつも、楽しむことも覚えていく少年の物語のように綴られている。そのうち大富豪の死、泥棒の暗躍、殺人犯の脱走など、物語は目まぐるしい展開を見せ、過去と現在を行ったり来たりする手法も繰り出されて、じんと胸に響く結末へとなだれ込んでいく。(2016.2.13読了)
Commented by マリーゴールド at 2016-05-13 00:12 x
船旅というだけで優雅な雰囲気がでてきますね。おもしろそうな少年少女も出てくるし、読んでみたいですね。
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by nishinayuu | 2016-05-05 18:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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