『悲しみを聴く石』(アティーク・ラヒーミー、訳=関口涼子、白水社)

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『Syngué sabour/Pierre de patience』(Atig Rahimi, 2008)
本書は1962年にアフガニスタンで生まれ1984年にフランスに亡命した著者が初めてフランス語で書いた小説で、フランスで最も権威のある文学賞であるゴンクール賞を受賞している。


本書を開くとまず三つ(三つも!)のエピグラフが目に入る。
エピグラフ1――夫に惨殺されたアフガン詩人、N・Aの思い出のために書かれたこの物語を、M・Dに捧ぐ。
エピグラフ2――身体から、身体を通して、身体とともに、身体に始まり、身体に終わる。アントナン・アルトー
エピグラフ3――アフガニスタンのどこか、または別のどこかで
そして小説が始まるのだが、その冒頭は以下の通り。

せまく、細長い部屋。壁は明るい空色に塗られ、二枚のカーテンには黄色と青の空にはばたく渡り鳥の柄。しかし、部屋には息が詰まるような空気が漂っている。カーテンにはあちこち穴が開き、そこから日の光が差し込んで絨毯(キリム)の色あせた縞の上に落ちる。部屋の奥にはもう一枚のカーテン。緑色で、柄はない。その向こうには今は使われていないドア。あるいは納戸だろうか。
部屋には何もない。装飾と呼べるものは何も。(……)

すなわち舞台劇のように始まるこの小説は、その後もずっと舞台劇のように進行していく。ひとつの部屋という限られた空間。登場するのは横たわったままじっと動かない男と、その周りを動きまわりながら一人で話し続ける女。女は「悲しみの石」のことを男の父親から聞かされていた。聖なる黒い石の前で、自分に起きた不幸、苦しみ、つらさ、悲惨なことなど他の人には言えないことを告白すると、石はその言葉や秘密を吸い取る。そしてある日、粉々に砕け散る。そのときすべての苦しみ、悲しみから解放されるのだ、と。
その石の名は「サンゲ・サブール」。女はその石に触れているかのように男の顔に軽く触れる。「あなたにすべてを話すわ、全部、私のサンゲ・サブール!私があらゆる苦しみから、不幸から解放されるまで」。女の声のほかに聞こえるのは男の呼吸音と、ドアの外で泣く子供の声、町のどこかから聞こえる大きな爆発音。異様な静寂と異様に緊迫した雰囲気の中で女の独り舞台が続いていき、やがて予想外の、あるいは予想通りの大団円となる。(2016.1.31読了)
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by nishinayuu | 2016-04-23 13:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2016-04-23 15:08 x
苦しみを吸い取ってくれる黒い石というのは、作者の完全な創作なのか、似たような伝承のようなものがあるのでしょうか。アフガニスタンというのは伝統文化が豊かに残っているような感じがしますね。
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